第288話 第七部 第四章 5 疑惑




 無事に2人とも王族として誕生を認められて、わたしはほっとした。


 ひとまず、安堵する。


 今後もいろいろあるだろうが、それはその都度考えていけばいい。


 最初の関門を乗り越えた達成感があった。




 ラインハルトは生まれたばかりの双子にメロメロになる。


 帰宅すると、最初にベビーベッドに赤ん坊の顔を見に行くのが日課になった。




「ただいま。アドリアン、オーレリアン」




 声を掛ける。


 頬を指でくすぐったり、優しく髪を撫でたりした。


 アドリアンはそれに反応して手をばたつかせたり、声を上げたりする。


 喜んでいた。


 それが本当に喜びの表現なのかはよくわからないが、大人にはそう見える。


 きゃっきゃっと笑い声を上げた。


 とても可愛らしい。


 わたしもラインハルトも笑顔になった。


 幸せというものを実感する。


 ラインハルトは同じようにオーレリアンも構った。


 くすぐろうとする。


 だがオーレリアンは逃げるように身を捩った。


 まだ目はよく見えていないはずなのに、気配を感じるらしい。


 くすぐられるのは嫌なようだ。


 ラインハルトの指を小さな手で掴む。


 そのまま離さなかった。


 断固拒否というオーラがオーレリアンの全身から漂っている。




「……」




 ラインハルトは苦笑した。


 わたしを見る。




「双子でも、いろいろ違うんだな」




 そんなことを言った。


 確かに、アドリアンとオーレリアンは性格がまったく違う。


 それは数日でよくわかった。


 双子でも別の存在だ。


 反応が同じはずはない。


 それはわたしにも理解できた。


 だが、わたしにはそれだけとは思えない。




(オーレリアンは子供っぽくないのよね)




 最初に感じた違和感をわたしはずっと引きずっていた。


 オーレリアンの反応はわたしにも身に覚えがある。


 生まれ変わって自分が赤ん坊であることに戸惑ったわたしと似ていた。




(もしかして、前世の記憶があるのではないだろうか?)




 そんな疑いを抱く。


 しかしその考えをラインハルトには打ち明けていなかった。


 確証は何もない。


 ただ、そんな気がするだけだ。




 転生するのは珍しいことではない。


 誰もが転生を繰り返していた。


 アドリアンやオーレリアンも誰かが転生した存在には違いない。


 そんなたくさんの転生する魂の中で、前世の記憶を持つのがその他大勢のわたしだけというのはよくよく考えると奇妙な話だ。


 もしかしたら、前世の記憶を持っている人間はそれなりにいるのかもしれない。


 みな、そのことを口にしないだけという可能性があった。


 わたしは前世がたまたまこの世界ではない異世界だからいろいろ違和感があるが、前世もこの世界の人間だったら、違和感なく次の人生に馴染めるだろう。


 わたしのように変わった行動を取ることはないのかもしれない。




「双子でも別の人間ですからね」




 わたしはラインハルトに応えながら、じっとオーレリアンを見る。


 オーレリアンはぷいっとそっぽを向いた。


 そんなオーレリアンの反応は前世の記憶があるわたしから見てもちょっと違和感がある。


 大人の意識を持っているのに、赤ん坊扱いされるジレンマはわたしにもよくわかった。


 構われると、子供っぽい反応を返さなきゃと焦ってしまう。


 どうすれば子供っぽく見えるか頭で考えるから、不自然な態度になった。


 前世の記憶があることがバレてはいけないというのもプレッシャーになる。


 普通の子供のように振る舞おうとすればするほど、ぎこちなくなる。


 可笑しな反応をする娘を両親はずいぶんと心配した。


 わたしはそれが申し訳なくて、心苦しく思う。


 だが、子供の真似というのも簡単ではなかった。


 短い時間なら可能だろうが、それをずっと続けるのはとても疲れる。




 だがオーレリアンはわたしよりずっと演技が上手かった。


 不自然さがない。


 じっと見つめられて気まずくなっても、自然な感じで目を逸らした。


 素知らぬ顔で明後日の方向を向く。


 それはまるでこういう状況に慣れているように見えた。




(慣れる訳がないのに)




 わたしは心の中で首を傾げる。


 考えれば考えるほど、わからなくなった。




(もしかしたら、全てわたしの考え過ぎなのかもしれない)




 そうとも思う。


 ただ、ドライな性格の赤ちゃんだという可能性もあった。




(むしろ、普通はそう思うのか)




 ラインハルトは特別、可笑しく感じてはいない。


 オーレリアンはそういう性格だと理解しているように見えた。




(出産したばかりで、気持ちが不安定になっているのかも)




 わたしは自分で自分を反省する。


 変な疑いを持ったことを、申し訳なく思った。






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