第287話 第七部 第四章 4 双子




 出産後、わたしの最初の仕事は我が子の処遇を勝ち取ることだった。








 生れた翌日の昼過ぎ、国王は子供たちの顔を見にやってくる。


 わたしはベッドで身を起こして、それを出迎えた。


 ラインハルトは仕事でいない。


 今日は休むというラインハルトを無理に仕事へ行かせたのはわたしだ。


 ラインハルトにはラインハルトにしか出来ない仕事がある。


 今日はきっと休まない方がいいと思った。




「無事に出産、おめでとう。男の子だったそうだね」




 国王は双子が眠るベビーベッドを覗き込む。


 ラインハルトとシエルにそれぞれ似ている2人の赤ん坊を見て、目を細めた。


 嬉しそうな顔をする。


 喜んでいるのは嘘ではないだろう。




「最初に生まれたのはどちらだね?」




 だが、そう聞いた。


 わたしは嫌な予感を覚える。




「それを聞いて、どうするのですか?」




 答える前に、尋ねた。


 疑いの眼差しを向ける。




「どうもしないよ」




 国王は苦笑した。




「どちらが第一王子で、どちらが第二王子なのか知りたいだけだ」




 言い訳する。




「シエルに似ている方が先に生まれた第一王子です」




 わたしは答えた。




「国王様」




 呼びかける。




「2人に名前をつける権利は国王様に差し上げます。王族に相応しい名前をつけてあげてください。その代わり、2人の処遇はわたしに任せてください」




 交渉した。




 わたしが男の子を産んだことはまだ発表されていない。


 ふせられている理由は明らかだ。


 生まれたのが双子だからに他ならない。


 初めて王家に誕生した双子に、王宮は混乱に陥っていた。


 今日の午後には重臣たちが集まることになっている。


 会議で双子の処遇を相談するようだ。


 取れる方法はいろいろあるだろう。


 1人を秘密裏に養子に出し、1人だけ生まれたことにすることも可能だ。


 もう1人の存在を隠し、1年後に生まれたことにするとかも考えられる。


 どちらにしろ、双子があまり歓迎されていないのはわたしも肌で感じていた。


 お祝いムードより、困惑を感じる。




「何を心配しているのだね?」




 国王は尋ねた。


 わたしはじっと国王を見る。


 だが、ポンポコは顔に感情を浮かべていなかった。


 何も読み取れない。




「双子が引き離されて育つことです。この子たちは2人揃って、わたしが育てます」




 わたしは宣言した。




「王族は乳母をつけるのが決まりだ」




 国王は静かな声で告げる。


 乳母はすでに手配されていた。


 ベビーベッドの側にいる。




「乳母をつけないなんて言っていません。乳母にも協力して貰い、みんなで子育てします」




 わたしは言い返した。


 国王が用意した乳母を追い返すつもりなんてない。


 子育ては1人では無理だ。


 それは前世で子育ての経験がないわたしでもわかる。


 乳母をつけてもらえて、助かると思っていた。


 だが、乳母に任せっきりにするつもりはない。


 自分がメインで育てるつもりだ。


 乳母にはそれをサポートして貰うつもりでいる。




「先に生まれたのはどちらかとか、順番を気にしていらっしゃいますが、この国には第一王子が王位を継ぐというような決まりはありません。長男でも次男でも、第一王子でも第二王子でも、待遇には何も差がありません。王子たちはみんな横並びです。生まれた順番はたいした問題ではありません。……違いますか?」




 わたしは国王に問うた。




「違わない」




 国王は頷く。




「では、2人同時に生まれたことがデメリットになる理由も何もないですよね?」




 わたしは念を押す。


 2人同時で困るのは、生まれた順番が大切な時だけだ。


 今回は違う。




「……そうだな」




 国王は頷いた。


 なんとも微妙な顔をする。




「では、そのことを午後の重臣たちが集まる会議で発言してください。無理なら、わたしがその会議に乗り込みます」




 わたしは勢い込んだ。


 体調的にはかなり無理をすることになるが、重臣たちの会議に顔を出す覚悟は出来ている。


 何故、双子であることが問題なのか理由を問うつもりでいた。




「その必要はない」




 国王はきっぱり断る。


 苦く笑った。


 困った顔でわたしを見る。




「午後の会議にはラインハルトも出る。そのために、仕事を休ませなかったのだろう?」




 問われて、わたしは頷く。


 仕事を休めば、その会議から外されるのはわかっていた。


 我が子の処遇を他人に勝手に決められるなんて冗談ではない。




「後のことは私とラインハルトに任せて、マリアンヌはゆっくり休みなさい。体調が万全ではないのだろう?」




 国王は心配そうにわたしを見た。


 わたしは小さく頷く。


 結構、無理をしていた。




「では、よろしくお願いします」




 素直に頼む。












 その日の午後、会議で何があったのかは詳しく知らない。


 ただ、ラインハルトに双子の男の子が生まれたことは直ぐに発表された。


 生まれた双子はアドリアンとオーレリアンと名付けられる。


 ラインハルトと国王が相談して決めたことを、わたしは後から聞いた。






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