第284話 第七部 第四章 1 奔放な貴族たち





 シエルから届いた手紙を読んで、わたしは首を傾げた。


 女性除けとしてアルフレットに協力してもらうと書いてある。


 手紙の内容はそれだけだ。


 詳しいことは書かれていない。




(後は察しろと言うことだろうか?)




 訝しく思った。


 その理由は間もなくわかる。


 アルフレットとシエルが出来ているという噂を聞いた。


 メアリが耳に入れ、教えてくれる。


 シエルに近づく女性たちをアルフレットが露骨に排除しているそうだ。


 それを見た貴族たちは2人の仲を勘ぐる。


 2人は噂を否定も肯定もしていないようだ。


 それが疑いをますます深める。


 尾ひれがついて、噂は王都まで届いた。


 王宮の侍女たちの間ではその話で持ちきりらしい。


 シエルは離宮に数日滞在しただけで、侍女たちの関心をかなり引いたようだ。


 どんな内容でも、シエルの噂なら知りたがる侍女は少なくないらしい。


 アルフレットは元々王宮に出入りしていたので、侍女たちには馴染みがあった。


 整った顔立ちと優しい性格で、侍女たちの人気も高い。


 そんな2人が出来ているという噂は、侍女たちの間ではかなり盛り上がっているようだ。




「なるほど。そういうことね」




 わたしは納得する。


 協力とはこういうことだったらしい。


 前以て手紙を貰っていたので、すぐに腑に落ちた。


 だが何も知らなければ、びっくりしただろう。




 そんなわたしをメアリは不思議そうに見た。




「シエル様の噂なのに、思ったより冷静ですね」




 首を傾げる。


 もっと取り乱すと思ったようだ。


 わたしは苦く笑う。


 シエルから手紙を貰っていなかったら、確かに動揺しただろう。




「シエルから、アルフレットの件は知らせを受け取っていたのです」




 わたしの言葉に、シエルから手紙が届いていたことをメアリは思い出したらしい。




「よろしいのですか?」




 問われた。


 わたしは苦く笑う。




「見知らぬ女にシエルを取られるより、アルフレットに預ける方がわたしは安心よ」




 答えた。




「でも、こんな噂が流れて、アルフレットは大丈夫かしら?」




 心配する。




「何がですか?」




 メアリは尋ねた。


 わたしが何を心配しているのか、わからないらしい。


 そんなメアリの方がわたしには不思議だ。




「シエルは辺境地の男爵の息子だからこの程度の噂、たいして影響はないわ。でも、アルフレットは大公家の跡取りよ。こういう噂が立つと困るのではないかしら?」




 不安を覚える。


 シエルのことを頼んだ身として、心苦しかった。


 こんなアルフレットを犠牲にするようなやり方は想定していない。


 申し訳なく思った。




「この程度の噂、貴族にとってはたいしてダメージではありませんよ」




 メアリはわたしの心配を笑う。




「そうなの?」




 わたしは驚いた。




「貴族は基本、性に関しては奔放です。人妻と関係を持ったことを若い貴族が武勇伝のように語るのが貴族社会です。男の恋人がいたり愛人がいたりしても誰もたいして気にしません。アルフレット様はすでに跡継ぎの息子も2人いらっしゃるので、特に問題になるようなこともないでしょう」




 メアリは簡単に言う。




「そんなもの?」




 わたしは困惑した。


 わたしも一応、貴族の端くれだ。


 しかしランスローのような辺境地では貴族もあまり貴族然としていない。


 社交界もこちらと比べたら地味で慎ましい感じだ。


 堂々と愛人を囲うような文化は無い。




「そんなものです」




 メアリは大きく頷いた。


 王宮に居れば、貴族たちの恋バナには事欠かない。


 みんな隠さず堂々としているので、直ぐに噂になった。




「アルフレットが困らないなら、わたしはそれでいいわ」




 わたしはほっと安堵する。




「おそらく、大丈夫でしょう」




 メアリはわたしを安心させるためなのか、太鼓判を押してくれた。


 わたしはそれを信じることにする。












 そんなこんなで、心配していた転生会も特に動きはなかった。


 シエルに近づく女は全てアルフレットが追い返しているらしい。


 シエルの子を身篭ったと、押しかけてくる女もいないようだ。


 シエルの側には常にアルフレットがいるので、子供を作る隙なんてないのは誰の目にも明らからしい。


 懸念が一つ片付いて、わたしはほっとする。


 地味に米料理のレシピ作りに励む日々を送った。












 そしてあっという間に月日は流れる。


 わたしは臨月を迎えた。






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