第283話 閑話:報告




 夕食の後、アルフレットとシエルは話があると家族を集めた。


 居間に場所を変え、みんなで食後のお茶を飲む。


 穏やかな空気がそこには流れていた。


 だが、アルフレットとシエルはどこか落ち着かない。


 そわそわしているようにルークには見えた。


 それを訝しく思う。




 数ヶ月前まで、父はとても遠い存在だった。


 同じ家に住んでいても、顔を合わせる機会はあまりない。


 ルークにとってはそれが普通だ。


 家族というものはそういうものだと思う。


 それでも母が元気な時は一緒に食事を取ることもあった。


 しかし、母が病で臥せるようになってからはそれもなくなる。


 亡くなってからはもっとだ。


 父は再婚相手を探すようになり、自分やユーリを避けているようにルークは感じる。


 自分たちはいらない存在なのではないかと、心密かにルークは疑っていた。


 それがある日を境に一変する。


 マリアンヌがやって来て、全てが変わった。


 素っ気ない父の態度が、息子たちにどう接したらいいのかわからない困惑の表れだと知る。


 嫌われているわけではないらしい。


 マリアンヌにいろいろ言われたらしく、父は自分やユーリと過ごす時間を増やすようになった。


 少しずつ、父との距離は近づいている。


 特にランスローで暮らすようになってからは一緒に過ごす時間も増えた。


 家族とはこういうものなのかとルークは知る。


 そんな父がいつもとは違う様子を見せていた。


 何があったのか、ルークは気になる。




「実は、みんなに話しておかなければいけないことがあるんだ」




 アルフレットはとても言い難そうに口を開いた。


 誰もが黙って、言葉の続きを待つ。




「いろいろあって、シエルに女性が近づかないよう私が側で守ることになった。そのことで、あらぬ誤解を受けるだろう。だがむしろ、その誤解を利用しようと思っている。みんなにはその件で心配をかけたり、不安な気持ちにさせることもあるかもしれない。だから、最初に説明しておくことにした」




 アルフレットの言葉に、ルークはきょとんとする。


 いまいち意味がわからなかった。


 ユーリを見ると、同じようにわかっていない顔をしている。




「父様、それはどういう意味?」




 首を傾げた。




「シエルに女性を近づけると不味い状況が起こったんだ。それで、近づけないようにガードしようと思っている。だが、そんな行動は不自然だ。当然、いろいろ勘ぐられることになるだろう。私とシエルが関係を持っているのではないかと疑われることも予想できる。その誤解を解くつもりは無いんだ。むしろ、付き合っているからシエルに女性を近づけさせないのだと誤解させようと思っている。そう思ってくれた方が何かと都合がいい。だが、私やシエルはいろいろ言われることも納得しているが、そのことでルークやユーリ、男爵にも何かしら迷惑をかけることになるかもしれない。そのことを了承しておいて欲しい」




 アルフレットは詳しく話す。




「それはつまり、父様とシエルは付き合ってはいないのに付き合っているふりをするということ?」




 ユーリは尋ねた。




「そうだよ」




 アルフレットは頷く。




「不味い状況ってどんな状況なの?」




 ルークが尋ねた。


 とても気になる。


 父は子供には話してもわからないと思っているかもしれない。


 だがルークは知りたかった。


 大人のように、空気を読んでわかったふりなんてしたくない。


 大切なことは自分にも話して欲しかった。




「……」




 アルフレットは言葉に詰まる。


 シエルを見た。


 シエルは困った顔をする。




「マリアンヌのためだよ」




 答えた。


 思いもしない名前が出てきて、ルークは驚く。


 だがシエルが嘘を言っているようには見えなかった。


 シエルがマリアンヌの名前を使って嘘をつくとは思えない。


 そんなことに姉の名前を利用することはないと確信できた。




「私が女性と関係を持つのを姉さんが嫌がることは知っているだろう?」




 シエルはルークに尋ねる。




「知っている」




 ルークは頷いた。




「結婚するつもりはないが、結婚しなくても子供は生まれる。私の子供ではなくても、私の子供だと言い張られたら、こちらには否定のしようがない。だから、アルフレットと付き合っているから、女性には興味がないということで通そうと思っている。女性とも2人きりになるのは避ける。相手に言い張る隙は与えない」




 シエルは宣言した。


 強い意志がそこにはある。


 だからこそ、説得力があった。


 そもそも、隠しているのは本当の理由だけだ。


 それ以外には嘘は無い。




「……わかった」




 ルークが返事する前に、ユーリがそう言った。




「でも、僕は本当に父様とシエルが付き合っても構わないよ」




 にこやかに笑う。


 その場にいたみんなは驚いて、固まった。




「え? 何で?」




 予想外の言葉に、シエルも戸惑う。


 困惑を顔に浮かべた。




「新しい母様が来るなら、シエルがいい」




 ユーリは答える。


 父が再婚するなら、知らない女性よりシエルの方が良かった。


 それはそうだなとルークもちょっと思う。




「嫁に行く予定は今のところ、ないよ」




 シエルは苦く笑った。








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