第181話 第五部 第四章 3 返事
その日の夜、帰宅したラインハルトは自分のチェックを待たずにわたしが招待状を出したことに渋い顔をした。
「大丈夫ですか?」
心配する。
招待状は相手の手元に残るものだ。
何かの証拠として使われる危険を孕んでいる。
揚げ足を取られることが決してないよう、気をつけなければいけないのだと説明された。
「それでしたら、大丈夫です。シエルとアントンに確認してもらいました」
2人の意見で書き直したことを話す。
ラインハルトはそれを聞いてほっとした。
「それなら大丈夫そうですね」
にこりと笑う。
わたしはムッと口を尖らせた。
全く信用されていない。
「わたし、そんなに信用がないんですか?」
拗ねた。
「そういう意味ではありませんよ」
ラインハルトは言い訳するが嘘っぽい。
「とりあえず、返事が来るのを待ちましょう」
宥めるように言われた。
しかしその返事は三日経っても来なかった。
その代わりに、命を狙われている感じもしない。
何もなく日々は過ぎていた。
シエルは単純にそのことを喜んでいる。
だが、わたしはすっきりしなかった。
「何の反応もないっていうのは想定外だわ」
お茶を飲みながら、ため息をつく。
「このまま何もないなら、それはそれでいいんじゃない?」
シエルはわたしを宥めた。
問題が起きないならそれが一番だという考え方はわたしにも理解できる。
だが、わたしには問題が先送りされただけのような気がした。
「そうかしら?」
わたしは眉をしかめる。
「根本的な解決にはなっていないのよ?」
反論した。
話し合い、分かり合えた上での何もないということならば喜ばしいと思う。
わたしも安心だ。
だが、今の状態は違う。
「回りくどすぎて意味が通じなかったという可能性はないかしら?」
わたしはわりと真剣にシエルに問うた。
だがシエルはそれを冗談だと思ったらしい。
ただ笑っていた。
王妃にあの程度の文言が通じないはずはないと思っている。
「もう一度、招待状を出すというのはナシかしら?」
わたしの言葉に苦く笑った。
「そんなに話をしたいの?」
問われる。
「したいわ」
わたしは頷いた。
その他大勢のわたしはチートな能力なんて何も持っていないから、出来ることは限られている。
対話はその一つだ。
話し合い、相手の気持ちを理解することならわたしにも出来る。
だがそのためには、まず会わなければいけなかった。
だが相手が王妃だと会うのも簡単ではない。
2人の王妃は国王との朝の挨拶にも参加することはなかった。
国王に挨拶に行くのは王子とその家族だけだ。
妻である王妃がそこに入っていないことを最初に聞いた時、わたしは違和感を覚える。
家族の枠から王妃が外されている感じがした。
わたしなら寂しい。
だが、執務前に取れる時間は多くない。
3人の王子と挨拶するので手一杯のようだ。
(この国って女性蔑視というわけではないけれど、女性の扱いにはぞんざいなところがあるのよね)
なんとなくもやっとした。
簡潔に言えば、配慮が足りないのだろう。
でもそれはわたしに人権に煩い時代に生きていた記憶があるからなのかもしれない。
この世界の常識がいまいちわかっていない部分がわたしにはあった。
「会って、話が出来たらいいのに」
この日何回目かのため息をつく。
そこにアントンがやってきた。
「マリアンヌ様」
声が弾んでいる。
手には手紙を持っていた。
「返事か来たの?」
わたしは問う。
「はい」
アントンは頷いた。
開封して、中身だけをわたしに渡す。
わたしはそれを読んだ。
みんなの視線はわたしに注がれる。
「……」
わたしは眉をしかめた。
「駄目だったの?」
シエルは気の毒そうにわたしを見る。
「いいえ。たぶん、OKの返事だと思うんだけど、よくわからないの」
わたしは困った。
シエルに手紙を渡す。
それはとても回りくどい書き方をされていた。
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