第7話 第二章 1 王宮



 第三王子ラインハルトは不機嫌な顔をしていた。


 落ち着いたプラチナブロンドの髪にサファイアの瞳。


 見た目が整いすぎている綺麗な顔は機嫌が悪いとかなり迫力がある。




「怖いですよ」




 乳兄弟でもある側近の一人、ルイスに注意された。




「明日から妃選びが始まるというのに、機嫌が良くなるわけがないだろう」




 王子は憮然と答える。




「勝手に計画したのは国王ですが、最終的には王子も承認しましたよね?」




 ルイスは責めるような目を王子に向けた。


 銀の髪と冷めた青い瞳が冷たい印象を与える。


 子供ではないのだから、そんなことでいちいち機嫌を悪くするなと言いたげな顔をした。


 王子の乳兄弟であるルイスは王子より6つ年上の25歳だ。


 王子より先に結婚するわけにはいかないと、独身を貫いている。


 もっとも、側近としての仕事が忙しくて、恋愛なんてする暇はなかった。




「あんなに噂が広まってしまったからでは、さすがに止められないだろう」




 ラインハルトはため息をつく。


 第三王子として生まれたラインハルトは小さな頃から賢い子供だった。


 教えられたことは何でも吸収し、覚える。


 剣術も得意で、直ぐに上達した。


 何でも出来るから、何にも熱中できない。


 人は困難に立ち向かい、克服したときに達成感を覚えるものだ


 何でも出来てしまうラインハルトは達成感というものを味わったことがない。


 それはとてもつまらないことだ。


 生まれて19年。


 すでにラインハルトは人生というものに飽きてしまっていた。


 そんな自分が国王になったら、国民がかわいそうだろう。


 だから国王にならなくてすむように、独身を通すつもりでいた。


 結婚し、子供が出来れば父王は自分を跡継ぎに指名するだろう。


 父親に溺愛されている自覚がラインハルトにはあった。


 だがそれを誰より一番、自分が望んでいない。




「そんなに国王になりたくないのなら、もっと手を抜けば良かったんですよ。なんに対しても」




 ルイスが苦笑する。




「手を抜くのもそれはそれで難しいんだよ」




 ラインハルトは反論した。


 だが、それは本当ではない。


 最初は父王に誉めてもらえるのが嬉しかった。


 父王は忙しく、顔を合わせることがほとんどない。


 だが誉められるときだけは呼ばれて、会うことが出来た。


 兄である第一王子や第二王子とは母が違う。


 他の兄弟には母や姉妹がいたが、第三王子には姉妹も母もいなかった。


 一歳になる前に亡くなったので、ほとんど覚えていない。


 母と言われると、乳母であるルイスの母親の顔が浮かぶくらいだ。


 ラインハルトは寂しかったのだろう。


 父に誉められたくて頑張ったら、出来すぎてしまった。


 今さら、出来ないふりも出来なくなる。


 父に失望されたくないという思いと、国王にはなりたくないという思いが王子の中では鬩ぎあっていた。


 そんな複雑な気持ちをルイスも知っている。


 同情もしていた。




「もしかしたら、素敵な女性が見つかるかもしれませんよ。100人もいるのですから」




 慰める。




「素敵な女性?」




 ラインハルトは鼻で笑った。




「王妃になったら贅沢が出来るとか、自分のわがままを叶えて貰えるとか、そういう打算しか考えない女性を素敵だと思うのか?」




 棘のある言葉を吐く。


 ルイスは困った顔をした。




「もしかしたら、王子を心から愛してくれる女性もいるかもしれません」




 フォローする。




「それはそれで重い」




 ラインハルトはため息をついた。




「愛する王子様に尽くしますと言われるのも、何でも従いますからご命令くださいと言われるのもぞっとする」




 嫌そうに顔をしかめる。




「では、どういう女性ならいいのですか?」




 問われて、ラインハルトは考えた。




「そうだな。私に頼らず、自分のことは自分で何でもするような女性で。贅沢をせず、国民のことを考えてくれるならなお結構」




 にやにや笑いながら、答える。




「そんな女性は貴族にも豪商の娘にもいないでしょうね」




 ルイスはため息を漏らした。






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