◇その4.上司、襲来
「オラオラオラ!!」
某三代目主人公ばりのかけ声だが、実際には“頭を∞字を描くように激しく振っての左右の連続コンビネーションブロー”(無論「デ」のつくアレ)で、メンヘラだかビフィズスだか言う宇宙人の上半身をボコボコにする。
コイツ、口調は丁寧と言うか慇懃無礼だが、やってるコトはイ●キュベーターも顔負けの悪辣な詐欺行為だったため、大宇宙警備法(仮称)違反でメイデンがタイーホしようとしたら、巨大化して暴れ始めたのだ。
ちなみに、実は地球に来ている宇宙人というのもそれなりの数はいるらしいが、ほとんどは正体を隠したうえで大宇宙法(仮)に抵触しないよう、「巧くやってる」らしい。その場合は、あえて検挙したりはしないんだとか。
宇宙人も脳震盪になるのかフラフラになっているヤツの頭を、ムッチリした両足で挟み込み、そのままバック宙の要領で綺麗な弧を描いて回転しつつ、相手の脳天をアスファルトに叩きつける。プロレスで言う“フランケンシュタイナー”って技だ。
(あ、完全に失神したな。一応微弱な生命反応は残ってるが)
言うまでもなく、生身の俺──早田寿明の状態の時に、こんな大技は使えない。こういうコトができるってことは、この“光の巨人♀”の身体も、それなりに鍛えられてるんだと思うんだが……。
『はわわ、寿明さん、カッコいいです~』
……健全な精神は健全に肉体に宿るとか言うが、ありゃ嘘だな、うん。
「おーい、そろそろワッパはめてやんな」
『は、はい……大宇宙警備法17条違反で逮捕します!』
光(?)でできた輪っかみたいな代物を宇宙人の頭・胴体・足の3ヵ所に装着させ、どこか(多分、軌道上の宇宙船の留置所?)に転送するメイデン。
『今回の件は凄いお手柄ですよ、寿明さん! あの種族は、宇宙詐欺師として有名なんです』
ああ、そう言えば、なんか以前も地球を狙って地上げに来てたらしいな。
──て言うか、今回、お前さん、手錠(ワッパ)はめただけだろ。最初から全部、俺に丸投げで、ほとんど何もしてないじゃねーか!
『そそそ、そんなコトないですよ~、えーと……ほら、逮捕に来た時、ウルトラ警告を宣告しましたし』
「あなたには黙秘権がある。弁護士の立会いを求める権利がある」ってアレか。確かに座学"は"優秀だけあって、暗唱するとき、噛んだり詰まったりはしなかったみたいだけどな。
『でしょでしょ♪』
なーに、「わたしは頭脳労働、貴方は肉体労働」的に涼しい顔(いや、表情よくわからんけど)してんだ。せめてギャラ半分よこせ!
──まぁ、こんな感じで、怪獣との戦いが10戦目を越えるあたりから、メイデンの奴、格闘戦をまるっと俺に任せっきりにしてやがるんだ。
いや、まぁ、俺も、あまりにコイツの格闘センスのなさにイラッと来て、ボロクソに言ったのは悪かったけど。
しかし、それくらいで、「ふんだ、どーせわたしはヘッポコなんですよぅ」と怪獣目の前にしていぢけるってのは何だよ!? 子供か、お前は……。
仕方なく俺が最初から戦ったら……普段の半分くらいの時間で倒せるんでやんの。エネルギーの消耗もMAXの6割くらいで済んでるし。
まぁ、ビームの出し方は知らんから、最後に倒した怪獣の“焼却処理”はコイツに任せたけどさ。
で、戦いが終わったら、(精神的に)土下座して「格闘戦を代わってくれ」と頼まれたんだ。
「ちょ、おまえ、一応「公務員」なんだろ? 実質職務放棄じゃねーか!」
もっとも、コイツと二心同体状態があと半年は続く以上、俺も自分の身は自分で守らざるを得ない。この身はすでに覚悟完了──してるワケもなく、やっぱり命は惜しいし。
安全のためには「戦わない」のが一番なんだろうが、コイツの役目上ソレは無理だし、となると、ヘッポコ泣き虫婦警に任せるよりは、多少はケンカ慣れしてる俺が主導権握った方が、まだいくらかマシだ。
とは言え、人間の適応力というヤツは侮れないもので、そんなに日々が3ヵ月も続くと、ほぼ週1、月4ペースの妖怪獣(ときどき不良宇宙人)との戦いにも、慣れてきちまった。
それに、メイデンの頭がいいのは間違いないらしく、大学の授業とかも、一度聞いたたけで完全に理解して、あとで丁寧に俺にレクチャーしてくれるレベル。
数学とか理科ならまだわかるが、国文学とか英会話とかの授業もなんだぜ?
おかげで大学の定期試験、ほとんど勉強してないのに楽勝だったし。
ギブアンドテイクと言うには、俺の旨みがかなり少ない気もしたが、それでも、まぁボチボチこの同居(?)生活に馴染んできた頃──突如、コイツの上司がやって来んだ。
『たたた、たいちょ~!?』
「え、この人(?)が、あの有名なゾッさんなのか?」
巨大宇宙船の中で、はるか格上の上司と対面してカチコチになるメイデン。
まぁ、一介の新人婦警が、警察庁長官とサシで話してるようなモンだから、わからんでもない。
『ああ、楽にしたまえ、ζβ×▲ε●』
聞き取れなかったのが、たぶんメイデンの本星での本名なんだろう。
で、「大宇宙を警備する団」の隊長たるゾッさんいわく、これまでのメイデンの働きぶりを評価して、ふたつの報奨が与えられるらしい。
いや、その働きぶりの大半は俺のおかげなワケですが。
『安心したまえ、キミにも利のあることだ』
ひとつは、「マイクロ化」のスキルが授与されること。
「へー、アレって光の巨人ならデフォの能力だと思ってた。歴代地球駐在員のヒトたちも普通に使ってたみたいだし」
『違いますよ~。力の加減が難しいんで、選択資格なんですからね』
これで、メイデンは全高40メートル弱の巨人状態から数ミリ単位の小型化まで大きさを自由に変化できるようになったらしい。もちろん、人間大も可能だ。
でも、正直「それが何?」って気も……。
『しかし、今キミ達は、変身する際は、どこか広くて人目につかない場所に赴く必要があるだろう?
このスキルがあれば、人目を避けられる場所──たとえばトイレの個室などで等身大で変身して、それから空中にテレポート&巨大化するという手段もとれるぞ』
「!」
そいつは有難いなぁ。街中では、人目もそうだけど、それなり広い空き地を探すのがひと苦労だし。
もうひとつは、正式に俺を「大宇宙(略)団」の“民間協力者”として登録すること。これによって俺は、とくにメイデンからの主導権委譲がなくても“光の巨人♀”状態でも、よりスムーズに身体を動かせるらしい。
『実際、この惑星の駐在員にも昔、ひとりそういう例があったのでな』
ああ、男と女のペアが指輪タッチして変身するヤツだな。まぁ、俺達の場合は、性別が逆だけど。
『ついでに、ビームの撃ち方マニュアルと、大(略)団データベースへのアクセス権も一定レベルであげよう』
あ、それはちょっと嬉しいかも。前世紀の光の巨人衆のバトルの詳細がわかりそうだし。
『あ、あの~、それってわたしにはメリットない気がするんですけど……』
『大宇宙の正義と平和を守る立場としては、善意の民間協力者の便宜をはかることを優先するのは当然だろう。そもそもこういう状態になったのは、キミのミスのせいではないかな?』
『へぅ~』
事故のことを引き合いに出されると何も言えないらしい。
『早田くん。キミには、今後も色々と面倒をかけると思うが、どうかζβ×▲ε●隊員のことを身捨てずに力になってやってほしい』
「はぁ、まぁ、乗りかけた船ですし、できる限りのことは……」
俺としては、それほど深く考えずに無難な答えを返したつもりだったんだが……後になって、その時の自分をハッ倒してやりたいと思うハメになるのだった。
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