◇その2.幸せは半分こ、不幸は2倍……って俺が割食ってるだけかい!
俺・早田寿明にとってもウルトラメイデンにとっても、一刻も早く忘れたい苦い経験となった、あの戦いだが──実はその爪痕(と言うと大げさだが)は決して小さくなかった。
「うわっ! か、カタツムリ!!」
まず、あれ以来、メイデンだけじゃなく俺までも軟体動物、とくにヌトヌト糸を引くような生き物が、なんとなく苦手になってしまった。もっとも、コレは重度のトラウマってほどじゃないし、日常生活にそれほど大きな影響があるワケじゃない。
しかし、もうひとつはより深刻だ。
あの時、無理矢理「助手席」から俺が身体を「操縦」したせいか、ふたりの意識の切り替えのオンオフが、どうも甘くなっちまったみたいなのだ。
これまでは、相手に主導権を渡して「助手席」にいる時も五感があるとは言え、その時の身体が直面している体験は、どこか他人事と言うか「間接的にフィルターを通して」いるようなバーチャルリアリティっぽさがあった。
しかし、あれ以来、主導権把握時以外でも、伝わる感覚がよりダイレクトに生々しくなったみたいなのだ。
『あぅ~、お股がヘンな感じですぅ』
「うるせぇ! 起き抜けなんだから仕方ないだろ。男の生理現象だ」
おかげで俺が小便してるときも、エロ本見て自家発電してるときも、コイツは「キャーキャー」うるさくてたまらない。もう融合して2週間になるんだから、いい加減慣れろって。
しかも、気を抜くと、感覚だけじゃなくて行動の一部まで持ってかれてるし。
「あ、馬鹿! なんで買い物かごにプリン3つも入れてんだよ」
『だってだって、甘いものが食べたいんですぅ! 地球のスイーツって言えば、大宇宙全域でも評判の美味さなんです。わたし、赴任する前から楽しみにしてたんですよ~』
「だからってコンビニのかごにこっそり入れんな。子供か、お前は!」
勿論、コレは「人間態(主導権:俺)」の時だけじゃなく、「光の巨人♀態(主導権・彼女)」時でも逆のことは起こるワケで。
『はわッ! ぬいぐるみのケロピーと違ってカエルの怪獣は可愛くないですぅ』
またか! またヌトヌトなのか! 粘液まみれの舌に縛られつつ、深い溜め息をつく俺。
(ええい、あんな見え見えの舌攻撃に捕まるスカポンタンがどこにいるッ!)
『え~と、こ、ココにひとり……』
(ドたわけッ! あぁ、もういい。貸せっ!」
あまりのドジっ子ぶりにイライラしてきた俺は、結局今回も“光の巨人”の主導権を奪いとり、無理矢理巨大蝦蟇の舌を引きちぎって格闘戦に移行する。
「ホラホラ、ジャブだ、右パンチだ! くっ、生意気にもカエルアッパーか。畜生、やりやがったな、倍にして返すぞ! ボディに右フック、そしてチンだ……えぇい面倒くせぇ、このチャランボでノックアウトだ!!」
とりあえず、ダウンを奪ってから、主導権を彼女に返す。
「ほれ、トドメだトドメ」
『あ、はいっ! えっと……は、ハイジャンプ・ミラクルビームっ!』
──みょみょみょみょ……みょみょ~~~ん!
いつもながら脱力感満点の擬音とともにビームがさく裂して、ガマ妖怪獣ケロ・ヨーンはあっと言う間に消滅、と言うか焼却した。
『寿明さん、やりましたよ!』
(うむ、御苦労……て言うか、保護惑星の原住民の民間人に毎回手伝わせるなよ)
『あぅ……しょ、精進します』
まぁ、言葉通りの一蓮托生である以上、できる限りのフォローはするつもりだけどな。
(ところで、最後のアレはなんだ? 飛び上がることで、ビームの威力が上がるのか?)
『い、いえ、そのぅ……なんとなくカッコいいかなぁと思って……』
──このバカタレを、モ●ボシ・ダン隊長のごとく厳しくシゴいてやることを俺は堅く決意するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます