巨大ヒーロー(♀)に変身できるようになったけど、コレジャナイ感がひどい
嵐山之鬼子(KCA)
◇その1.お約束と伝統の1話なんて再現しなくていーから!
Mなんちゃら星雲から来た光の巨人。
怪獣たちから地球を守る正義の味方。
テレビで見たそんな存在に、子供の頃、憧れなかったと言ったら嘘になるだろう。
もちろん、大人になった今では、アレが架空の「お話」の中の存在だと理解している。
──いや、そう思っていたんだけど……どうやら、「アレ」には元になった話があったらしい。
少なくとも、「大宇宙を警備するMなんちゃら星雲人の団」は実在して、この地球も一応その警備範囲には入ってるらしいのだ。
まぁ、そりゃそーか。1960年代末から70年代にかけてと2000年前後に、地球各地に巨大生物が現れたって痕跡はあるらしいんだが、その詳細が(少なくとも一般には)まったく知られてないんだ。
かくいう俺だって、2000年にはすでに物心ついてたはずなのに、怪獣が出現したってニュースを見た記憶がないし。
おおかた事件解決後に宇宙人的なまらすごい技術で、そのあたりの全地球人の記憶が、消去なり封印なりされたんだろう。
もっとも、銀河辺境のこんなド田舎の太陽系に見回りに来るのは、ペーペーの新人か、退役間近のロートルか、出世コース外れた左遷組くらいらしいけど。イメージ的には「田舎の駐在さん」ってトコか。
──え? なんでそんなコト知ってるかって?
いや、「本人」から聞いたんだよ。その「学校出立てのぺーぺーの新人」から!
『うぅっ、すみません、ドジな新人で……』 ←某みくるちゃんっぽい声
「いや、まぁ、もういいけどさぁ」
脳裡に響く半泣き声に、溜め息をつく。
さて、皆さん、銀色の巨大ヒーローの第1作第1話の展開を覚えておられるだろうか。
そう……「地球に逃げ込んだ怪獣を追って来たヒーローが、誤って地球人に衝突して死なせてしまい、融合してその生命を救う」だ。
──ええ、そっくりそのまま再現されちゃいましたとも。
『わ、ワザとじゃないんですよぅ。わたし、高速飛行の実技が苦手で……』
誰だよ、こんなヘッポコ、「大宇宙の婦警さん」に合格させた奴!
『こ、これでも、宇宙刑法学と光線狙撃の成績は“優”だったんですよ! ……格闘はギリギリ“可”でしたけど』
──守ってもらう現地人の立場としては、はてしなく不安だ。
ともかく、俺、早田寿明は、一昨日、大学から帰る途中、空から堕ちて来たコイツに押しつぶされて死亡。そのまま昇天しかけていたところを、慌てたコイツが融合したことで何とか復活できた──らしい。
当然、初代ヒーローのごとく今後は何か事件が起こる度に、変身して戦わないといけないんだとか。
『だ、大丈夫ですよぉ、こんな辺境の惑星に来るほど、宇宙マフィアも暇じゃありませんし』
その割に70年代はやたらと狙われたワケだが。21世紀に入ってからも結構襲撃受けてるし。
『う、運が悪かったんですよぅ。大丈夫、わたしだって宇宙警備団の一員なんですから!』
こないだの地球産怪獣との戦いでは、追い詰められて間一髪だったけどな!
『へぅぅ~』
そう、地球でのコイツのデビュー2戦目となる、ナメクジ妖怪獣のナメロンとか言うのと戦った時は大変だった。
『わ、わたし、こういうヌメヌメした生き物が大の苦手なんですよぉ~』
知るかい! だったら、遠隔攻撃で倒せよ!
『そ、そうですね! み、ミラクルビームっ!!』
へっぴり腰でナメロンから500メートル以上距離をとった“光の巨人♀”は、Vサインの形に指を立てた右手を、右目の上の眉(もしくはカラークリスタル?)を挟むようにして当てる。
──みょみょみょみょみょ~~~ん
名状し難い音とともにビームが発射される。いまいち間抜けなポーズと光線だったが、“光線狙撃・優”の成績は嘘じゃなかったらしく、キチンと妖怪獣に当たって、ダメージを与えているみたいだ。
熱光線に身体の水分を奪われているせいか、動きも緩慢なんだが……。
『く……くちゃいですぅ~!』
そう、焦げた体表から立ち上る悪臭がヒドい。
と言うか、"銀色の巨人"形態だと鼻の穴ないはずなのに、なんで匂いを感じるんだ?
『それは、寿明さんと一体化してるからですよぉ。わたしたちM○○星人は、本来、嗅覚は退化してるはずなんですけど』
あ~、そりゃ御愁傷様。ある意味、自業自得だけどな。
──などと、くだらないコトを話して油断していたせいか、気が付いたら、ガサゴソと地を這うナメロンが至近距離まで接近していた罠。
『ひゃっ!』
慌てて逃げようとして尻もちをついてしまう“光の巨人♀”。
その後のことは……まぁ、お察しの通り。
ヌルヌルのウネウネのグチョグチョな怪獣にのしかかられて、ただただ悲鳴をあげる“光の巨人♀”。
大宇宙の婦警さんとは言え、凌辱者の前ではか弱い女と言うことか……なんて落ち着いてる場合ぢゃないッ! この身体の半分は俺のものだし、俺にもダイレクトにその気持ち悪い感覚が伝わってくるんだから。
ひとつの身体に同居する俺達の関係は、例えて言うならクルマのドライバーとナビゲーターみたいなもんだ。
とりあえず、人間形態時は俺、巨人形態時にはコイツが、ドライバーとして身体の主導権を握るってコトで合意したんだが……助手席側も動かせないってだけで、五感とかは普通にあるんだよ。
おいっ、しっかりしろ! ナメクジもどきに触手プレイされるなんて、死んでも御免だぞ!
『やだやだはなしてーおかーさーん! ……モガッ』
……聞いちゃいねぇ。ていうか、大口開けたもんだから、あっさり触手口にねじこまれてるし。
(う゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ーーヘンな味ぃ!)
さらに、調子に乗ったナメロンが、コイツの胸(巨大ヒロインのクセに結構ある)をヌトヌトの粘液まみれの手(?)で揉んできやがったモンだから、ついに俺はキレた!
「いい加減にしやがれーッ!」
気が付いたら、柔道の巴投げの要領で投げ飛ばし、ブーツのヒールで連続ストンピング食らわせていた。
──まぁ、助手席からでも、無理すりゃクルマを運転できんことはないしな。
「軟体動物の分際で、オレの身体に、気色わりぃモン、なすりつけんな!!」
ヒールに体重をかけて、ナメロンの股間(?)とおぼしき場所をグリグリと踏みにじる。
……苦しそうな反面、心なしか喜んでいるようなのは、きっと気のせいだ、うん。
「ほれっ、いつまでもパニクっててんな! さっさと必殺技でとどめさせよ」
(感覚的に)頭の片隅でスンスン泣いてるコイツに再び身体の主導権を戻す。
『ぐすん……はい、わかりました。超・必殺! ミミミミラクルビィーームッ!!』
両手をVサインして眉(?)の上に当てるポーズ(某エメ●ウム光線に近い)をとった“光の巨人♀”の両眉(?)から、サイクロ●プスのオプティ●クブラストもびっくりな、ごんぶとのビームが発射されて、ナメロンを灼き尽くした。
こうして、“光の巨人♀”(のちにマスコミによって「ウルトラメイデン」と命名)の地球での第2戦(ちなみに第1戦の宇宙から追ってきたヤツは現在行方不明)は、グダグダのまま終わったのだった。
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