情報過多精神的瑕疵物件 5

乱暴に扉が開く音が聞こえ、次いで引っ張られる肉と腕関節の痛み。引っ張られまいと僕は近くにあった姉の腕を反射的に掴んでいた。

 三人で団子になって流れ込む。

「ちょっと!引っ張らないでよ!」

声はかおりねえなのに。厚みのない真っ黒な物体への恐怖心が湧き上がっていく。

何だこれ。かおりねえに何が起きているんだ!

恐怖心と同時に疑問と今はまだ検討もつかない原因に対する憤りも吹き上がる。

 一番下になった篠崎さんがバックから出した真っ白な札を姉らしき物体の額に押し付けた。

その途端に札は貼り付いて、かおりねえを覆う真っ黒な何かを吸い込んでいった。札の下部が黒くなり、かおりねえは意識を失った。

倒れ込んできたかおりねえが頭を打たないように抱きしめる。

這いずり出た篠崎さんは煙草をふかしていた。

「篠崎さん!これは一体!?」

焦燥からつい問い詰めるような声が出てしまった。

静まった部屋で篠崎さんが深呼吸をする音が聞こえた。

それに合わせて短くなる煙草の先。

呼吸いっぱいに煙を吸い込んだ篠崎さんは僕の顔を両手で摑み煙を口移ししてきた。

全く予期せぬ篠崎さんの行動に混乱に拍車がかかる。

「死にたくなければ何も考えるな!全部吸い込め!」

聞いたことのない篠崎さんの荒げた声。目を見開いて震える瞳。

煙が漏れないように口を塞がれた。

頭は疑問符と混乱で一杯。それでも言われた通りに鼻から息を吸って煙を身体の中へ送り込む。

 胃のあたりに違和感がある。何も口にしていないのに段々と腹が満ちていく。

もぞもぞと動く。奇妙な感覚に背筋が寒くなっていく。

ざらついた何かが食道から這い上がってくる。

これは吐き出さなければいけないものだと本能で理解した。 

 その何かが口の中にある。

口を塞いでいた篠崎さんの手が口の中に。

そして先端を掴んだ。引き摺り出させる異物との擦れが胃と食道にえも言われぬ不快感を与えた。

それは一本の髪の毛だった。

引っ張られると髪は少しずつ本数を増して絡みあい、一センチ幅の三編みなった。

出てきたのは長さにして二メートル。 

どうしてこんなものが腹の中にあったんだ。血流が恐怖で凍りついていく。

「これは呪いだ。呪いは血の繋がりが濃いものへ伝染していく」

新しい煙草を灰にして篠崎さんが語りだす。

「応急処置はした。あくまでも一時凌ぎの。呪者を捜し当てなければお前の姉さんは死ぬ」

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