胡麻の廃屋 13

8時の部屋。

 真ん中に畳まれた布団一式。

 前2つと一緒で正面に窓。

それと左手に本棚がくっ付いたクローゼット。

「これ…児童教育?子供に関する本ばっかですね?それに絵本がいくつかあります。あっ、床に落ちていたり」

扉が開くまでは僕と篠崎さん背後で震えていたのに、いざ開けば我先にと未知の地へ勇ましく踏み入る白木さん。

 この部屋でもそうだが、廃屋に残された痕跡が行方不明となっている家主の性格を体現しているような。

 生活感がまるで無いのは常に整理整頓を欠かさない、きちっと納める所に納めてそこにいたから物が動いて散らばっての跡を端から消していく。

 そして、最後は人知れず消えてしまった。

「あっ、これ!アルバムですよ!!」

ジャングルの奥地にて、遂に木の根に絡まった先住民の秘宝を見つけたと言わんばかりに。

両手で掲げるアルバムの大きさは週刊誌くらいか。

両目に至っては天の川の如く輝いている。

「さてさて、これは貴重な廃屋の謎を究明する手掛かりですね!では早速!!」

顔すら知らない元家主と収容を目的とした造りの謎を解くカギではある。

そこに一理はあるが、土足で踏み込んで今更だが人

としての道から外れていると。

 篠崎さんならずっと変わらず煙草を吸って、窓をじっと見ている。 

 ならば抗議せねばと言葉の頭が口から出掛かった時、白木さんはワーッと流し見るアルバムを途中で閉じた。更には床に置かれた絵本と一緒に本棚へ戻した。

「どうしたんですか?」

閉じるのは正しいと思うが、あまりに唐突だったので声の調子が外れた。

他に音が発生しないから空っぽに近い空間でよく響き渡る。

「これじゃ子供達にしめしがつかないわ」

それは独り言か?

会話のボールを全く明後日な方向へ投げた白木さんの横顔が一瞬、全くの別人にみえた。

 白木さんの異変に篠崎さんも気がついたか。

変わらず煙草をふかしながら目は白木さんを捉えている。

初めて会った時からずっと白木さんへ向けていた刑務官が脱獄を企む囚人に向ける目ではない。

白木さんが直視を避けて伏せ目で話す目ではない。

 平常で慕う色を覆い被せようと。揺らいでいた。

「次、行くぞ」

顔を背けてぶっきら棒に。

思いっきり力んで身体の向きをかえたせいで、フローリングの床と靴底がくっついて「ギッ」とゴムが擦れる音を立てた。

「待ってください!置いていかないで下さーい!!」

相変わらず繰り返す同じやり取り。

それが「アルバムを仕舞ったのは白木さんの意思だったのか?」や「白木さんじゃなければ誰だったのか?」から「白木さんの身に何か起きたのか?」まで疑問を連鎖させて膨らませた。

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