胡麻の廃屋 12

廃屋の二階は回廊になっていた。

辺りを見渡せば部屋は4つあり、判子を押したように同じ扉。それにはまるで学校の廊下に並ぶ教室のような、または病院の入院棟のような収容を目的とした無機質な冷たさがあった。

部屋の間の窓からの弱い明かりが縁の青い影を落としている。

 時計の針で言えば2時の方角の部屋の前に篠崎さんは立っていた。

離すものかと白木さんがしがみついている。

二人して早く来るよう催促するように見つめてくる。

 部屋の広さは9帖程。

扉を開けて正面の壁に窓。床は廊下から続くフローリング。

廊下の一角に壁を設けて、そのまま部屋にしたと言わんばかり。

向かい合うように金網の二段ベッドが2つ。

他に家具らしき物は見当たらない。

余計な物を置かない。

やはりここは収容施設なのだ。

一階の生活感から一変して、ここあるのは有無を言わせない規律の痕跡。

部屋の暗さも相まって、気分が落ち込んできた。

小学校。中学校。高校。

時間の長さはあるが、両方からぎゅっと押さえれば紙一枚の厚みにもならない日々の積み重ね。

色の無かった日々を思い出させる。

 次は5時の部屋。

篠崎さんは躊躇なく扉を開ける。

奇妙な部屋だ。

四隅に学習机と椅子。

ただそれだけ。

「また4つですね。二段ベッドが2つで4人。学習机が4つで4人。ここに住んでいたのは子供4人と両親で6人だったんでしょうか?」

殺風景な光景でも撮るのが白木さんの仕事だ。

薄暗い部屋でたかれるフラッシュは余計に目が痛くなる。

「別に白木の仕事ぶりまで見てる必要ないだろ」

篠崎さんは煙草を咥えたままそう言った。

その通りではあるが、探索と聞いて僅かに心躍った自分が確かにいた。

予想に反して何もない部屋が続くと仕事をする白木さんを眺めるだけでも楽しい。

 そう言えば篠崎さんは何をしているのかと目を配れば、手前右端の学習机の前に立ちじっと眺めている。

指先ですっと天板をなぞり埃の積もり具合を見ていた。

そして白木さんが次の部屋に向かうのを催促するまでずっと、ただ天板を眺めていた。

 口数が少ないし表情から読み取れる物が皆無なのは変わらない。

それでも普段と異なる所が見て取れた。

煙草をフィルターの寸前まで吸う。

何時もなら他に用がなければ一点を見つめるだけの目線は、ふらふらとあちらこちらに向けられている。

頭の中で疑問と仮説が浮上する気配は「次、行くぞ」の一言で霧散した。

 確かに声が震えていた。







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