胡麻の廃屋 14

11時の部屋。

廃屋の探索を終える最後の部屋。

勝手に時計の方角から、8時の部屋と呼んでいた寝室で白木さんの異変は目の前で起きた。

今は篠崎さんにしがみつく臆病さに戻っている。

ちらりと盗み見た横顔だって間違いなく白木さんだ。

 曰く付きの廃屋だから。

だから白木さんに異変が起きた。

言ってしまえば、それで終わってしまう。

とんとんと。

たった二段のこまで成り立つ疑問の達磨落としだ。

並の槌で叩いても槌が壊れてしまうが。

きっとこまはびくともしない、強力にくっついている。

思い切り握った手が痺れてしまうだろう。

 本人に尋ねればいいじゃないか?

聞いたところで白木さんから碌な返事は期待できない。

忘れっぽい人なんだ。

さっきから一通りカメラで撮影してもまた撮り直している。

大丈夫なのかこの人?

頭をちょっと指先でかいた。


部屋の右側と正面に本棚。棚一杯に絵本と小難しいタイトルのハードカバーの本。そしてアルバ厶。黒のペンで背表紙に書き込まれた西暦の順番通りに並ぶバインダー。

角がしっかりつけられた堅いが整った書体だ。

左手にはクリアなチェストが5段で3山、隙間なくピッタリと。

真ん中の山のチェストの中には画用紙。

廊下の所々に貼られていた物かな?

取り出してみようとしたところで、白木さんがスットコな声を上げた。

「バインダーの年、7年前で途切れてますね。ちょっと中身見ちゃいます」

一冊を取り出して遠慮なしに眺め始めた。

8時の部屋で起きた異変は起きない。

 篠崎さんも一点をみつめて煙草を吸うスタイルに戻っている。

さっきはどうしたんですか?

喉が緊張から乾くので、聞くのは止めた。

「うーん、難しいですこれ。書類のようなんですが」

いいから代わりに見て見てと、バインダーをお腹に押し付けてきた。

痛いから止めてほしい。

「さぁ、どれどれ?」

態とらしく子供をあやす風に応えた。

見た目のまんま素振りが子供だったから。

 バインダーの中身は、僕にも難しい内容だ。

子供の顔写真。年齢、住所、名前、生年月日。

日々の様子が起きた時間から食べた物から寝た時間に。

事細かに。

 ここは胡麻の廃屋。

子供が消えると噂される……。

ここは子供が……。

「児童養護施設」

ひとり暗い推測を割る、煙草を咥えたままの篠崎さんの一声。

生活の中であまり触れた覚えのない言葉。

紫煙の向こうの顔は無表情で、僕と白木さんの理解を待っていた。

「白木が片づけたアルバム、部屋に戻って見てみた。外見だけで分かる子供達の年齢差。写真の子供達も入れ替わってた」

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