昨日の薬指 21
閉架資料保管室の扉の前に立ち、手はノックをする形で空に止まっとる。
朝からずっと脳内で繰り返しやっとったシチュエーション。
昨夜、辻岡から飛び出したあられがここに居るのは間違いない。
中から啜り泣く声が聞こえてくる。
初めての辻岡は宴会やったが、今夜は通夜か。
出される料理を黙々と食べるだけ。
腹が膨れるとついでに腹が立ってきた。
同じく黙々と食べとるが、おっちゃんがいつも通り笑顔なのが妙に癪に障る。
空気の淀みに耐えきれず、おっちゃんに今日はなんでおるんか問い詰めようとした時やった。
「もし宜しければ、断ち切りましょうか?」
カウンターの内側から声を掛けたのは、あおいひなた。
「どういう……意味ですか?」
泣いてばかりだったあかりが、やっと声を出した。
言葉の意図を汲みとれず、おしぼりを置き上目遣いてひなたを見る。
うちにも言っとる意味が分からん。
客相手に見せるには相応しいない、えらい怖い表情をしとる。
怖い?違うな。無表情なんや。入ってきた時のあられの凍りついた顔とはまた違う。
本当に空っぽ。
「繋がりが痛いと言ってましたよね?なら、断ち切りましょうか?」
こちらからは、あおいさんがどんな会話をしているか分からないが、机を叩く音の後に「お前は何者なんや!」と迫るレディさんを見て、ただ世間話をしていた訳では無いようだ。
掴みかかる勢いのレディさんを引き止めるあかりさん。
「美味し物はぁ、美味しいうちにぃ頂かないとねぇ。」
所長は黒牟田さんが運んでくる料理をマイペースに楽しんでいる。
こんな状況でよくもまぁ。篠崎さんも重ねたグラスがタワーになっている。
「じゃ、デザートも頂いたしぃ本題に入ろうねぇ。」
「レディお前、ティンカーから聞ぃたやんろ?繋がりの意味を。」
幽霊と暮らすなんて非現実的な生活を送り、有り得ない事を目撃する耐性はそこそこ上がった。
ほんの瞬き1つの後にライトニングさんが現れるのを目撃して、あかりさんと違い気絶するのを耐えたのだから。
「仰天気絶したんなら丁度ええわ。レディ、あられの言葉を聞いたんやろ?お前が聞いたんなら言ってる事が嘘か本当か分かってるやろ?」
今日はほんまになんて日や。ライトニングはんまでお越しになったか。
分かっとるわ。うちの神様に誓って宣言できるわ。
「あられは勢いに任せて口にしよったが、嘘はついてへんかった。あかりとの繋がりが痛いんや。切って欲しいってのも。」
そんな事ってあるかい…。
「今日の事を仕組んだんは、わてや。レディ、お前が決めなはれ。あられの繋がりを。」
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