昨日の薬指 20

今村あられの形を模した氷が歩いているようだ。

エアコンは外の寒さに負けじと吹き出し口から温風を出すが、中から撒かれる冷たさを追いやる力は無い。

 レディを挟んで同じ顔が並ぶ。

あかりとあられ。

挟まれたレディは生きた心地がしない。

テーブルに捕まり椅子に座っている自分を意識しなくては、二人の間に生まれた谷間の底へ落ちていきそうだ。

 仲介役として吊り橋を架ける。草木の生えない剥き出しの岩場に。向こう岸へ渡り、また一緒になれるように。


「姉さんあのね。」

先に踏み込んだのはあられ。重い。たった一歩を支えているだけなのに、橋全体が根元から崩れそうや。

「私ね、姉さんの事、恨んでなんかないの。」

反対の岸で右往左往、初めて券売機で切符を買う子供のように、最初からが分からず震えるあかり。

「だってそうでしょ?あれは事故だった。」

あられの声がする方に手を伸ばして藻掻く。

引っ張る袖を探すように。

「姉さんは私の憧れだった。私と違って勉強も運動も出来て、いつでもなんでも一番。手先も器用だったね。本当になんでも出来る凄い人だって。」

たった一息である。湯呑みに口を付けずまだ続く。

「私ね。ずっと姉さんの影だったの。光を受ける姉さんの背後に伸びる影。それが私!」

熱い。あられの言葉が熱い!内に溜め込んどった劣等感を燃料にして、勢いが収まる気配が無い!

「私なんて影だもん。姉さんに勝る所なんて1つも持ってなかった!悔しかったよ、惨めだったよ!双子の姉妹に生まれたせいで、いつもいつもいつも比較されて!背中を切られた時は痛い以外無かったの。私ね、安心したの。もう比較されないんだって。私にとってはそれが救いだった!」

あられの剣幕に押されて、何にも言えへん。

谷底には濁流が渦巻いている。

誰もが嵐が過ぎ去るのを待つ。

「重いの姉さん。ほら、姉さんとの繋がりがまだ私を縛っているの。背中なんてもう痛くない。骨まで食い込む鎖の方がよっぽど痛いの。姉さん、助けてよ。もう私の事なんてどうでもいいって突き放してよ!」


あられさんは涙を流しながら、姉と呼ぶ女性に声を浴びせ掛ける。

呼ばれる方はおしぼりを口に当て、目を見開き体の震えて椅子が鳴っている。

 ほんの数秒、互いに見つめ合うとあられさんは外へ飛び出して行った。

レディさんも立ち上がろうとすると、隣の女性に袖を引っ張られた。


「腹が減っては戦は出来ません。先ずは食べて気を落ち着かせて下さい。後は神様にお任せしましょう。」

変わらない辻岡さんの笑顔と料理が救いだった。











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