クリームソーダの向こう側 13

「おっちゃん、何しとんねん?」

眠る杉ちゃんの前に屈むと、おっちゃんは杉ちゃんの手を握った。

石にでもなったか、動かない。

「うーん、ちょっとねぇ。」

相変わらず間延びする声。

「あー、なるほどねぇ。そうだったんだねぇ。うんうん。」

「おっちゃん、誰とはなしとんねん?」

「そっかぁ、じゃあお仕舞いにしようか。」

迫り来る怪物に全く構う様子もなく、うちの疑問に何ひとつ答えようとせん。

懐からぼろぼろのメモ帳と何の変哲もない、文房具屋で一本100で売られてる黒のボールペンを取り出した。

このボールペンって、試し書きのメモ用紙一杯に落書きされてたりするんや。

「レディちゃん。今日はありがとね。」


「帰ろうってどこに?あなた達もこれからずっとここよ。」

両手を天に向かって高く突き上げ、くるくる回る。何がそんなに楽しいのか、歪んだ笑顔が貼り付いたままで。

さも当たり前のように言われても困る。

僕の家には、鮫岡夫婦が待って居るのだから。

「逃がさないわ。私達全員で捕まえてやる!

「おばさん、なにいってんの?少しは周りを見てみたら?」

女の子は冷たく言い放つと、見るのを指示するかのように、顎の先を参道の脇へ振った。

巫女さんに連れて僕も見た。

ずっとそこに立っていた神様達の姿が、ぼんやりと輪郭を失っていた。

中にはもう向こうが透けて見える神様もいる。

「どうして!?何があったの!?」

悲痛な叫び声が木霊する。それでも一人として答えない。

「分からないんだ。まっ、神様も色々なんだね。」

ふんっと鼻先で笑う態度に 、巫女さんが激昂するのは当然の結果だった。

長い髪を振り回し、錯乱していた。

血の気のない白い肌に、人間味のある赤色が浮き出てきた。

「そのうち分かるよ。さっ、起きよお兄ちゃん。」

夢から醒める感覚。視界を黒が覆ってゆく。

完全に塗りつぶれる直前に見えたのは、踞り大声で泣く一人の女性。

たった1人。遊園地で親とはぐれた時、無機質な待機室でぽつんと残された僕のようだった。


「なるほどねぇ。そんな因果が隠れていたのかぁ。」

おっちゃんがさっきから何をしているのか、うちには分からん。知ろうにも何も答えてくれへん。

「さてぇ、ここには3つの選択肢があるよぉ?どうする?」

怪物はもう動いていない。正確に言えば、少しずつ崩れ始めとる。

「ここで消滅かぁ、このお札で封印かぁ、それかねぇ...君も色々と罪深いからねぇ...」

なんぞ物騒な言葉がぎょうさん飛び出しとる。

こっちに背を向けるおっちゃんの肩を掴もうと一歩踏み出した瞬間、視界は暗転した。








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