クリームソーダの向こう側
事故物件に住んで早一ヶ月。
既に亡くなっている建築主、鮫岡夫婦との共同生活も段々と慣れてきた。
美千江さんは食材を買っておけば調理してくれるし、敏之さんは流石は作家さん。今までの仕事の話や全国を廻った話は、創作の参考になった。
問題なのは、干渉がそこそこ激しいこと。
二人は子供が出来たようだと喜んでくれているが、家に居れば朝から晩まで相手にしないといけないことに内心疲れてきた。
ここ最近は案内所へ避難している。
篠崎さんが昼御飯と3時のおやつを買ってきてくれるし、花子を撫でていると癒される。
小田はと言えば、ノートパソコンのキーボードを打ち込んで、時々、花子の散歩に出掛ける。
何もしないで居座るのは気が引けるので、掃除をしているが、いかせん狭い室内。30分もあれば終わってしまう。
篠崎さんは机に向かって時々、書類を整理したり器用に小物を作ったりしているが、大体は煙草を吸って過ごしている。
単調な毎日だ。何か刺激が欲しい。
思い返せば、なんて浅はかな考えなんだと、この時は一片も頭には無かった。
「ヘーイ!篠ちゃーん!おっちゃんおるぅ?」
昼御飯のカレーライスを食べ終え、本をだらだら読む至福の時間を引き裂いたのは、お手本のような外国人が話す底抜けに明るい関西弁。
「自分、杉ちゃんやろ?おっちゃんから話きいとるわぁ!うちはレディいうねん!」
真っ赤なコートに黒いスキニーパンツを履いた青い目の女性。
髪はストレートのブロンズで、身長は180センチはありそうだ。
「なにしに来たんだよ?所長は花子の散歩。」
普段と変わらない抑揚のない声だが、横顔からは苛立ちが見てとれる。正面から見たら、切れ長の目を細めていただろう。
ポケットから乱暴に煙草を取り出して一服。
大袈裟に煙を吐き出して、自分の縄張りを主張しているようだ。
対するレディさんは、シトラス系の匂いで。
「篠ちゃん、昔は素直で可愛かった。態度も胸もえろお大きくなって悲しいわぁ。」
わざとらしく落ち込むリアクションも、お手本のようだ。
「黙れ。胸はお前が小さいだけだ。」
「昔は」って、二人は顔見知りなのか?二人の関係を想像していると、篠崎さんからの刺さる視線に身が縮む。
「じゃっ、杉ちゃん借りてくでえ!」
椅子に座っている僕の腕をひいて、半強制的にレディさんに連れて行かれる。
「死ぬなよ。」
確かに篠崎さんは、こちらを見て呟いた。
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