特訓、そして
別に疲れなんて溜まっていないのに体が重い。
この気怠さ、昨日のバイト帰りによく似ている。
嫌だな、続くようなら病院に行かなければならない。
辛気臭いのは古本屋と変わらないけど、あの薬品の匂いがこもる空気を吸うのはどうも。
どうせまた寝れば治る。
部屋まで続く階段を1段1段、昇っていく。
夕方に差し掛かった昼下りの太陽から、熱を感じない。
少し陰ている程度なのに。足元の床が溶けてゆく……。視界も端から……。
「あ"あぁあ"あ"ーん!あーーっ!」
廊下の向こうから緑色の物体が突撃してきた。
不意の事に廊下で尻餅をつく。じんわり広がる痛みが硬いコンクリート床の存在を証明する。
止めど無く溢れ、服を濡らすエメラダの涙と密着する体温が熱を証明する。ぎゅっと抱きつくエメラダを離す力が出ない。
半開きの玄関の扉から、るい姉が半身を出していた。
「ごめんなさい。私が付いていながら。」
エメラダがひっつき虫のように離れないものだから、一人がけのソファに座ろうにも窮屈で腰が痛む。側に開きっぱなしのファッション誌が何冊か落ちている。
「本当にごめんなさい。」
るい姉は謝ってばかりだ。
「状況がよく分からないけど、るい姉さぁ、とりあえず謝らなくても良いから。」
顔をあげない。
「あれからずっとエメラダちゃんの擬装の特訓をしていたの。ずっと……。でもね、全く前進しないの。」
言いたくないけど。そんな力の無い言い方だった。
エメラダが強く抱き着いてくる。
擬装が出来ないとこの世界には留まっては居られない。
それは嫌だと無言の訴え。
「魔法は自分本位では駄目。正しく使う意志がないと。エメラダちゃんがこの世界に居たいって思う事は、何も悪くないのに……。」
部屋が薄暗くなる。
窓に目をやると、夕立ちの厚い雲が一面に広がっていた。
さっと一雨が降るか。その後は晴れるのか?
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