おもちゃのティンカーにて その2

店内に残された三人は、互いに顔を見合わせ「どういう事だ?」を共有した。

奇しくも昨日、喫茶店でエメラダの話を聴いた後と一緒のシチュエーション。

 そんな三人を嘲笑うように、玩具のゴリラが手に持っているシンバルを鳴り響かせた。

「おい、誰か奴の顔を見たか?」

立ち位置からして顔を見た可能性が一番あるのは右左上さん。

聞いてくるという事は右左上さんも顔、見てないのか……。

「余りに一瞬の出来事だったので……。右左上さんは見てないんですか?」

「奴の黒い横髪が邪魔で、バナナが音も無く吸い込まていく所しか見えてない。面倒くせぇ。」

「え?僕、あのレディって悪魔の後ろ姿しか見てませんが、金髪のポニーテールでしたよ。」

再び互いに顔を見合わせて沈黙。

3人元共、口が半開きで滑稽。

 店長の鏡は、そんな三人を見て思わず吹き出した。

黒牟田がぱん!と手を叩いた。

「防犯カメラを観てみましょう!何か映っているはずです。」

名案とまでいかない。少し考えれば直ぐに思いつく案。

三人はそんな直ぐ思いつく案に辿り着けない、思考回路が大渋滞を起こしていた。

「あっ、ごめん。ここ防犯カメラとか設置してない。」

天井を見回せば、確かにカメラが付けられていない。

「防犯上の秘密で本当は何かに紛らわせているとかじゃなくて、本当に設置してないの。」

鏡さんは申し訳ないと両手を顔の前で合わせて謝った。

杉水は霞む頭でぼんやりと考えた。

3ヶ月分のアルバイト代がぽんっ!と消える商品を陳列しているのに、防犯意識が甘いんだ。

「もしカメラが有ったとしても無駄だな。」

右左上が店の出入口になっているガラス扉の前で呟く。

「小僧と俺で擬装の認識を変える芸当。念の為にこの店を一時的に世界から遠くに切り離す、隔界(かくかい)の札が真っ二つにされている。」

破られた札をクシャッと丸めると、ポケットに仕舞った。

「簡単に逃げられた。奴はそこら辺の悪魔じゃなさそうだ。」

丸眼鏡のサングラスで表情は分からない。その代わり、声から悔しさと静かな怒りが溢れている。

「そんな奴を野放しにする訳には行かない。今週は祭りがあるからな。必ず捕まえてやる。」

杉水には、さっさと店を出る右左上の背中が一瞬、真夏の入道雲のように大きく見えた。

「今はそっとしておこう。右左上さんって面倒くさがりだけど、責任感は誰より強いからね。確かにかつて無い事態だ。だからあの人は燃えるんだよ。」

でもそこが玉に瑕と黒牟田は苦笑した。

「さて杉水君、僕もお祭りに向けて色々と準備をするから帰るね。実を言うと、会合を抜け出して来てるから。またお祭りで会おう。」

一人残って店の商品を見て回る。

値札に書かれた金額は、目玉が飛び出そうな物ばかり。

今も古本屋の奥に陳列されているガラクタ達と同じ雰囲気なのに、何が違うのか?

「杉水君だっけ?うちもお祭りで夜店を出すから寄ってね。」

満面の笑みで約束を取り付けれれた。

まさか夜店でも、この値段の商品達を売る訳じゃないよな?

『折角のお祭りだから』の気分に任せて買える品物じゃない。

「大丈夫大丈夫。そんな高い物は流石に出さないよ。」

本当に?穴が開くほど鏡さんの顔を見ていても仕方ないし、僕も家に帰る事にした。

病み上がりで気分が悪いと嘘をついてアルバイトを早めに切り上げさせて貰ったけど、本当に気分が悪くなってきた。



「バナナ美味しかったなぁ。せめて祭りが始まるまでは自由にさせてもらうで。分っとる、迷惑かけたりはせえへんて。」

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