裏商店街会合

電話を終えた瑠衣香が二人を連れてきたのは、近所の喫茶店だった。

 この店は杉水もよく知っている。

季節のフルーツを丸ごと使ったケーキが人気の店だ。

そのよく知っている店が悪魔達の集会所とは、考えた事も無かった。

「本当はもっと広い所でもっと集まるけど、今日は臨時だから。」

瑠衣香はどこか誇らしげに語る。

「お店の人達はみんな協力者たがら、気にせずお話してね。」

頭を撫でられるエメラダは、店に入る前から既に涙目になっていた。


「いらしゃいませぇ。」

今日も品の良い白髪のマスターが、カウンターの中でコーヒーを淹れている。

 昼下りの店内に客は二人。

 テーブル席からるい姉に親しげに手を振るパーマの掛かった長髪で眉毛が無い男と、カウンター席に座り、湯気がたつコーヒーカップを眺めている丸眼鏡のサングラスの男。髪を後ろで一つに束ねている。

「急な会合で他が来てないが、後でまとめを送ればいい。初めまして。黒牟田初郎(くろむたはつろう)です。」

赤地のアロハシャツに黒の短パンと派手な見た目に相反して、誠実そうな人だ。目が鋭いけど。

「右左上左右右(うさがみそうすけ)。」

こちらを一瞥すると再びコーヒーカップを眺めている。

こんな暑い日に黒のジャケットを着込んでホットコーヒー。

極度の寒がりなのか?声からは神経質な印象を受けた。


テーブルを挟んで椅子に座る黒牟田さんと壁際のソファ席でエメラダをるい姉と挟むように座る。

エメラダはるい姉の腕をぎゅっと抱いて離そうとしない。

「瑠衣香から大まかな事は聴いたが、杉水君から詳しく聴きたんだ。」

「バイト先にあった本を試してみたら、このちんちくりんが現れたんです。」

「その本は持ってきてくれたのかな?」

「ええまあ、一応ですが。」

今回の騒動の発端となった本を手渡す。

黒牟田さんは探るように指で文字をなぞってみたり、表紙を眺めたり、端を指先で擦ってみたり。

「不思議な本だ。書かれている言葉は人間と悪魔の共用語だが、気になるのはこの紙とインク。どちらの世界の物じゃない。」

感嘆のため息を吐き出した。

「そして、杉水君はエメラダちゃんに襲われた訳だ。」

「そうなんです。なんかこう、目が光ったと思ったら体が動かなくなりまして。」

出来る限り言葉にして伝えようとするが、どうにも記憶が曖昧である。

連日の暑さにやられているのか?

「ちがうもん……。」

るい姉との間から声がする。とても小さく語尾が震えている。

「エメラダなんにもしてないもん!」

俯いたまま叫んだ。

「エメラダちゃん、それってどういう」

「あ"ぁ"ーーあーん!」

るい姉の質問を遮るように泣き叫ぶ。

傍から見れば大人3人で泣かせている地獄絵図だ。

計らずとも3人は口に出さずに各々が「どういう事だ?」の疑問を共有した。









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