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 血。

 乾いた鮮血。

 シーツを赤黒く染めている。〈ぼく〉は思わず鼻に手を充てた。けれど血が出ているのはそこからじゃなかった。

 共同の洗面所で手を洗っていると、窓の向こうに〈ベル〉の姿があった。

 白い横顔。何かを見つめている。その視線を追っていくと、校庭で、ホッケーに興じている一団に辿り着いた。かれが何を、いや誰に視線を注いでいるのか、わかった。

〈ぼく〉は石鹸を洗い流し、蛇口を捻って水を止めた。

 この世の理を全て悟ったような顔をしているくせに、〈ベル〉には誰の眼にも明らかな弱点がある。そこを突いた時に浮かべる表情といったらない。まるで森の中に一人、置き去りにされた子供のような顔をするのだ。

「一遍、食事にでも誘ってみたら良いのに」食堂で向かい合って朝食を摂りながら、〈ぼく〉は何気ない調子で言ってみた。意地悪い気持ちがなかったわけではない。

「何のこと?」言いながらも、話の主語を悟ったらしいかれは顔を強張らせる。

「〈クラウス〉のこと。さっきも庭でジッと見てたから」

「覗き見したの」

「たまたま目を上げたらいたんだ」

「そういうことにしておこう」かれは千切ったパンで半熟の黄身を拭い、口へ運ぶ。

「いつまでもこのままじゃ埒が空かないよ。一度、行動に移してみれば?」

〈ベル〉は何も言わない。

「……怖いの?」

「もし逆の立場だったら、君は何の躊躇もなく踏み出せるわけ?」

 フォークを持つ手を止め、考えてみる。

「躊躇はするかもしれないけど、行動には出ると思う」

「本当に?」かれが穿つような眼差しを向けてくる。

「本当に」〈ぼく〉は皿に目を落とした。

「見解の相違」

「みたいだね」

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