終戦 : 暇を持て余した神々の遊び
「改めて,おめでとう」
乾いた拍手が静寂に包まれた部屋に響き渡る。
「どうしたんだ。せっかく優勝できたのに浮かない表情じゃあないか」
「優勝?」
「そうだ。お前は優勝したんだよ。他の駒を出し抜いてな」
そう言いながらその優勝者を選んだ神は馴れ馴れしく肩に手を乗せた。
「……けるな」
「あ?」
「ふざけるな!」
怒号が響く。しかし神は臆することはなかった。
臆するどころか更に距離を積めた。
「ふざけてなんかねぇよ。お前らは駒だ。駒を自由に扱って何が悪い。ふざけてんのはお前の方だぜ?優勝させてやったってのに感謝の言葉の一つもない。おかしいと思わないか?」
「それに」と神は言葉を続けた。
「この結末を選んだのはお前だ。お前があの二人を殺したんだよ。わかってんだろ?ユージさんよぉ~」
ユージは神の言葉に直ぐ様反論することが出来なかった。
********************
ユキとユージは少しでも見つからないように建物の陰に隠れた。
「ユージ君,魔力は回復してる?」
「なんとか一回分は回復しています」
ユキは手元の爆弾に目をやった。
おそらくボタンを押すことで起動する爆弾。
ただ投げたところで当たらないのはわかっている。だからこそ絶対にユージの手助けがいる。
「じゃあ,あの時のようなバリアを出せる?」
「はい,出せます」
「それを自分以外の場所に出すことは?」
「出来ます」
かつてのユージなら断言することはなかった。だがユージもこの中で成長をした。
オドオドしていた頃の少年は消え去った。もう逃げたりはしないと決めたのだ。
「それじゃあ、ユージ君にやってほしいことがある」
*********************
「ちょこまかと逃げやがって。そこにいるのはわかってんだよ!出てこい!!」
ユキたちの元へ追い付いたガウルは二人が隠れている場所に向かって叫んだ。
すると建物の陰からユキが現れた。
「アタシたちがお前を殺す!」
「ハッ,ヤッてみろよ!!」
決着は一瞬でついた。
ユキは爆弾のボタンを押すと同時に『
作戦は極めてシンプル。ユキが爆弾をガウルの元へ持っていき,離れたらユージがバリアでガウルを囲む。そうして逃げられないようにして爆殺するというモノだった。
だがしかし―――
事はそううまくは進まなかった。
気が付いた時にはガウルの腕がユキの心臓を穿っていた。
『
頭が真っ白になった。飛び散る血が手から零れ落ちていく爆弾がスローモーションになっていた。
『もしもアタシが逃げられなくても絶対に躊躇しないで。いい?アタシに何があっても躊躇わないこと』
だが作戦開始前のユキの言葉がユージを現実に引き戻した。
現実逃避も悲しんでいる時間もない。
「ああああああぁぁぁぁッ!!」
ユージはすぐさまユキもろともバリアで覆った。
そして次の瞬間―――
バリアの中で大爆発が起こった。
もしもバリアがなければ周囲一帯が消し飛ぶのではないかという程の威力が,バリアを通じてユージに伝わる。
どれくらいの時間が経ったのか。
5分か,はたまた数十秒かユージが地面にへたりこむとバリアが消えた。
そして中にあった土煙が風に流されていくと,そこにユキの姿は存在していなかった。
自分もろとも犠牲にした最後の攻撃,だがしかし―――
ガウルは死んではいなかった。
骨が剥き出しになり,内臓がとび出し,手足がもげて尚ガウルは生きていた。
ゆっくりとだが確実にガウルはユージの元へと歩み寄っていった。
魔力が尽き動くことの出来ないユージにはどうする術もなかった。
只,自分の無力を痛感し唇を噛むことしか出来なかった。
ユージの目の前まできたガウルは千切れかけた手でユージの首を掴み持ち上げた。
「ガッ……アッ……」
気道を防がれ息が出来なかった。
抗おうにも身体はピクリとも動かない。
ユージの意識は消えかけたその時―――
ガウルの手が千切れた。
寸前の所で助かったユージは空気を取り込むと直ぐ様ガウルに目をやった。
すると――
「おめでとう」
ガウルの横には青年もといユージを連れてきた神が立っていた。
「お前の勝ちだ。見てみろ」
そう言って青年姿の神がガウルに触れると,ガウルは地面に倒れた。
「死して尚足掻くとは面白い。行くぞ」
神がユージに手をかざすとユージの疲労は一瞬にしてなくなった。
そして光がユージを包み込むと神と共にその場からいなくなった。
********************
「お前が授かった天恵はなんだ?ん?」
神がユージに顔を近づけるとユージは顔をそらした。
だがそれを許すまいと神はユージの頬を掴んだ。
そして問いに答えないユージの代わりに答えた。
「『
ユージは答えなかった。だが代わりに刺し殺さんという程,睨み付けていた。
その様子に感心した風な態度を見せると,神はユージから手を離した。
「なら誰のせいだ?言ってみろ」
「お前たちのせいだ。お前たちが……お前たちがこんなことをしなければ誰も死なずにすんだんだ!全部,全部お前たちのせいだ!」
「そうかそうか」
腹の底から叫んだ。怒りをぶつけた。
しかしその怒りは―――叫びは神には響くことはなかった。
神はユージの周りをぐるりと回ると近くにある椅子に座り,肘をついた。
「責任転嫁をするなよ。過程はどうあれ結果的にアイツらを死に導いたのはお前だ。なに自分のやったことから目をそらそうとしてんだ?まぁ,頭をいじくって円滑に進めるようにしていたヤツもいるけどよ,結局俺がお前に与えたのはきっかけにすぎない。この結果を選んだのはお前だってことだ。わかったか?」
「違う―――僕はこんなこと望んでなんか―――」
突然辺り一帯が光った。
おもわずユージは手で目を覆った。そしてゆっくりと手を退けると目の前に青年の姿をした神と同じように光輪と光の羽をもった者たちがいた。
「ま~さか君が生き残るなんてねぇ~。驚きだよぉ~」
「本当ですよー。あんな天恵で残るなんてなにかしましたね?」
方やユージに興味を示し,方や青年姿の神に探りを入れるように辺りを飛んでいた。
ユージは驚きと恐怖で動くことが出来なかった。だが青年姿の神は動じることなく,それどころか小馬鹿にしたような態度を見せた。
「なんだ?文句でもあるのか?」
「文句しかありません。アチシの決めたルールを破ってただで済むとでも?」
「クッ……ククク,ハハハ,ハハハハハ!」
青年姿の神は天を仰ぎ笑った。
「なにが可笑しいのですか」
「いや,別に」
「説明してください!」
「しょうがねぇな」
椅子から立ち上がると青年姿の神はユージの元へと移動した。
「いいか。俺様はルール違反なんてしてねぇ。俺様はコイツに天恵を与えただけだ」
「だったら―――」
「おいおい話は最後まで聞けよ。まだ終わってねぇだろ」
青年姿の神はユージの頭に肘を置くと,小馬鹿にしたような態度で語りだした。
「そもそもルールはなんだ?1,駒を決める。2,その駒に天恵を与える――だろ」
「そうです。だから文句があるといっているのです。『
その返答に青年姿の神はため息をついた。
「まだわかんねぇか?ここまで言って」
「どういうことですか」
「あーもういいや。教えてやるよ。いいか?俺様はコイツに天恵だけしか与えていない。お前と違ってな」
「いいががりですか」
「違う違う気にするな」
面倒くさそうにあしらうと青年姿の神は続けた。
「俺様が与えた天恵は『
「
身に覚えのない天恵にユージは困惑した。
そんなユージに興味を見せることなく青年姿の神は更に言葉を続けた。
「ホント,お前らってバカだよなぁ。言葉通りに受け取らずねじ曲げて解釈するんだからよぉ。誰が天恵は一人につき一つまでって言っていたよ。誰も言ってねぇよなぁ」
「そんなの普通に考えれば―――」
「だ~からバカだって言ってんだよ。相手が言葉を深読みしてくれるなんて思うなよ。言ったことだけが全てだ。後からあーだこーだ言う方がルール違反だろ?」
その言葉に相手の神は反論することが出来なかった。
「まぁ賭けだったけどな。天恵はなにが出るかは分からねぇ。もしかしたら更に不利になる可能性だってあったわけだ。だが俺様は引き当てた,最初から運は俺様にあったってわけだ」
認めたくはなかったがこれ以上無能をさらすわけにはいかない。
相手の神は一度深呼吸をして,気持ちを落ち着かせた。
「わかりました。今回はアチシたちの負けでいいです。ですが今度は同じようにいくとは思わないことですよ」
「安心しろ。次もお前たちを出し抜いて勝ってやる」
二人?の衝突は終わった。
これでめでたしめでたしとなる―――はずもなかった。
「ねぇ~この子どうするの~?」
二人?の会話に興味を示すことなく,ずっとユージを見ていた神が声をあげた。
「そういや忘れてたな。いいぞ帰って。もうお前に用はない」
青年姿の神が指を動かすとユージの身体は光に包まれ宙に浮いた。
「待っ―――――」
「お前の祖母も返してやる。喚くな」
「―――ッ僕はお前たちを絶対に許さない!絶対に絶対に絶対にだ!」
「おーそうか。覚えてられるといいな」
消える寸前、ユージは全力で魔法を放った。
しかしその魔法は神の眼前で弾けとんだ。
「――――――ッ!!」
そしてユージは光と共に消えていった。
「俺様たちも解散だ。じゃあな」
そう言うと青年の神はユージと同じように光に包まれ消えていった。
こうして闘いは幕を閉じた。
あまりにも呆気ない巻く引き。だが神々にとってはそれでもよかった。
永遠を生きる中での暇潰しの一つにすぎないのだから。
誰が生きようが死のうが関係ない。恨まれようが妬まれようが関係ない。
何故なら全てのモノは神の前では無力なのだから。
創造主に逆らえるモノなど存在しないのだから。
『神』それは人々が生み出した幻想。『神』それは人々がすがる希望。『神』それは全ての誕生の起源。『神』それは頂点に君臨する存在。『神』それは―――それは――――――身勝手で自由な永遠を生きる子どもである
~暇を持て余した神々の遊び~ 異種族入交の大乱戦 霜月 @sougetusimotuki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます