第8戦:三度の出会い
二頭の怪物が戦闘を行っている最中,別の場所でも戦闘が行われていた。
「ハァハァ……,ユージ君大丈夫?」
倒壊したビルの陰に隠れ,ユキは小声で言った。
ユキたちはカルメールと別れた後,『
しかし,そこで思いもよらぬ敵と遭遇していた。
そして現在,その敵の攻撃を受け避難していた。
「ぼ……僕は大丈夫です。そ……それよりもユキさんのほうが……」
ユージは心配そうな声でユキの様子をうかがった。
それは『
だがしかしユージのその心配は杞憂だった。
「大丈夫だよ。アタシの心配はしなくていい。アタシの使う『
言葉通り,ユキの使用する『
故に理論上は永遠に使用することが出来る。永遠に使用できるとなればこの場から逃げることは容易である。
だがユキたちは現在,逃げることが出来ずにいる。
それは何故か。それは敵の使用する武器が原因だった。
「見ぃつけたー」
「「―――ッ!」」
見つかった―――かに思えたが違った。
その声の位置は遠く,はったりだった。だが安心はできない。
何せ敵は分身と爆弾を駆使して戦う少年―――ディアンなのだから。
『このままではいずれ見つかってしまう。どうすれば……』
逃げるにしても周囲一帯いたるところに爆弾が仕掛けてある。もしも『
だから隠れるしかなかった。万が一を考慮した場合,逃げるよりも隠れてやり過ごし、カルメールが来るのを待つ方が得策だと考えた。
「なぁ,どこにいるのか知らないけどさ,出てきてくれよ。仲良くしようぜ」
カルメールといた際にもディアンは争う姿勢はないと言っていた。
しかしそれは真っ赤な嘘だった。
ユキたちがこの場所に逃げてきた直後,分身か本物かディアンは姿を二人の前に表していた。
そしてその際,ディアンは二人に向けて―――
「もしかして、もしかしなくてオマエらだけか?だったら丁度いい。あの姉ちゃんには敵わねーがオマエらなら殺すのは簡単だ」
と言い放ち攻撃を仕掛けてきた。
ディアンはカルメールを警戒していただけ。敵わないの判断したから懐に入り込もうとしていた。
そんな強敵がいない今、一度戦い戦力にならないと判断した取り巻きに取り繕う必要はないということだ。
足音がユキたちの周囲を囲むように聞こえてくる。
距離は遠いがいつ近づいてくるか分からない。
神経がすり減り,動いていなくとも体力が削られ呼吸が荒くなる。
『どうすればどうすればどうすればどうすればどうすれば―――』
考えて考えて考えた。しかしその答えが出るよりも先にディアンが動いた。
「嬢ちゃんの能力さ,こうしたら使えなくなるんじゃないか?」
『カチッ』とボタンを押すような音が聞こえたかと思うと,ユキたちを囲むように大爆発が起こった。
次々にビルが倒壊し,その衝撃で立つことがままならない程の揺れと視界が遮断される程の土煙が舞い上がった。
「クッ―――」
バレていたのだ。ユキたちの隠れていた場所が。ディアンは分かったうえで知らないふりをし,爆弾を仕掛けていたのだ。
そしておそらくは,ディアンの言葉を真に受けるのならばディアンは『
だから周囲の建物を倒壊させた。足場を不安定にした。倒壊させて土煙を巻き上げた。視界を遮断した。
『
そのことに短時間で気が付き対応するなんて,敵ながら感心させられる。
だが感心している暇はない。手を考えなければ。
「さぁ出ておいで―,オレッちと遊ぼうぜー」
声がすぐそこまで近づいてきていた。見つかれば命はないだろう。仮に見つからなかったとしても手当たり次第に爆弾を投げてこないとも限らない。
ならば―――
「おい!爆弾野郎!」
「ユキさ―――ッ」
ディアンよりも先に反応したのはユージだった。
当たり前の反応だ。潜伏を選んでいた人間が突然叫んだのだから。それも何の意図もわからずに。
何故ユキはこのような行動に出たのか。それは賭けだった。
「お前はアタシの能力を勘違いしている。アタシの能力は高速移動なんかじゃない。その気になればお前を殺すことなんて簡単だ」
あえて強い口調で言った。そうすれば相手がさらに警戒すると踏んだから。
もしかしたら退いてくれるのではという期待もあった。
だがしかし,事はそううまくは進まない。
「ならやってみろよ。殺せるんだろ?ほら,早く」
ディアンは落ち着いていた。冷静に殺して見せろと言った。
当たり前だ。ディアンにとってそれは脅しにはならない。
何故なら今近くにいるディアンは天恵によって生み出された分身なのだから。
「どうした?やってみろよ」
一歩また一歩と近づいてくる。
ユキは意思を手に取った。
視界が悪いこの状況ならば,石とて脅威になりうる。
そこに嘘を混ぜれば動揺を誘える可能性もある。
土煙の中に人影が見えた。そして次の瞬間,その人影は崩れ去った。
突然のことでユキは唖然とした。
あまりに不自然。あまりに不可解。
理解するよりも先に答えが飛び込んできた。
「クソがこっちに来るんじゃねぇ!」
爆発音にかき消されるように聞こえた声―――その声はディアンのモノだった。
焦燥感にかられたような声。その言葉からして何かから逃げているようだった。
「もしかして……」
「いや違う」
直感だった。だがユキのその直感は当たっていた。
爆発音に入り混じって,雄叫びが響いた。
「助けッ誰か―――」
声が途切れると土煙を吹き飛ばすほどのスピードで,ユキたちが隠れている建物に何かがぶつかった。
「う……あぁ……」
うめき声が聞こえた。ぶつかったモノの正体はディアンだった。
ユキは身を乗り出すと,陰からディアンの様子を見た。
それはユキが生まれて初めて見る光景だった。
血にまみれ,腹が裂け中から内臓が飛び出たディアンの姿にユキは思わず声を上げてしまう。
「た……助け……て……」
ユキの存在に気が付いたディアンは声を振り絞った。だがその声は今にも消えてしまいそうなほどか細かった。
手遅れ―――誰がどう見ても明らかだった。
「お願い……た……すけて……」
その言葉はあまりにも身勝手。さんざん殺そうとしていた相手に助けを求めているのだから。だがユキにはその気持ちが理解できた。
何をしてでも生きたいという想いで戦ってきたのだろう。
非情になり切れないユキの中には,もしも助けられるのならばという気持ちがあった。しかし,どう考えてもユキの手に負える状態ではないし,もう一人の敵が待ってくれるはずもなかった。
「何……で……」
土煙の中から現れた相手を見たユキは驚愕した。。
姿は更におぞましく痛々しいものとなってはいたが,見間違えることはなかった。
獣のような肉体に欠損した四肢。目の前に現れたのはカルメールと戦っているはずの獣人だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます