第5戦:同盟とはいずれ滅びるものとならん
「あの,二人の天恵ってどんな能力なんですか?」
ユキはカルメールとユージが調達した食材を食べながら質問した。
「うん?あーウチの天恵か,そやな今から見せたるでちょっと端にいっとってくれるか?」
この場で見せてくれるということなのだろう。言われた通り,ユキたちは端によった。
「ほないくで,よお見とき」
カルメールはそう言い一歩踏み出すと,一瞬にして姿が消えた。
何処に行ったのか―――辺りを見渡すと遠くから声が聞こえた。
「おーい,ここやここ」
カルメールがいたのは先ほどまでカルメールが立っていた場所のはるか先だった。
そして大きく手を振っていたカルメールがまた一歩踏み出すと,一瞬にしてユキたちの元まで戻ってきた。
そして自慢気に鼻をこすった。
「どやすごいやろ。一歩出して遠くに移動する,これがウチの天恵『
「すごい……」
ユキは思わず声を漏らした。それは驚きと同時に歓喜でもあった。
理由は簡単―――子供のころ一度は夢見た能力を目の前の
そして最後にもう一つ,その能力をユキが使えるようになったからである。
「でもまぁ,無限に使えるっちゅう訳やないんやけどな。これ使うとめっちゃ体力持ってかれんねん」
「ハハハ」と笑ったかと思うと突然カルメールは唖然とした表情になった。
「やってもーた……。助けたとはいえユキちゃんは敵やのに,手の内さらしてしもーた。かくなる上は」
カルメールはユキの首に手を伸ばした。
殺される―――ユキの脳がそう判断する前に体が動いた。すると―――
「消えた―――!?」
一瞬にしてユキはカルメールの目の前から消えた。
正確に言うと消えたのではなく移動したのだが,カルメールにとってはどちらでも同じだった。
それよりも重要だったのはユキがカルメールと同じように足を動かした途端,その場から消えたことだった。
すぐさまカルメールは辺りを見渡した。すると背後のはるか遠くに怯えたユキがいるのが見えた。
「おいおい,ユキちゃん冗談やよ。も~そんなビビらんといてーな」
カルメールは『
「からかってごめんて。怒らんといて,な?ホントもーかわええなー」
そしてユキの頭をなで髪をくしゃくしゃにした。
全く笑えない冗談だ。ましてやこの状況で―――こちらは本気で殺されると思っていたのにそんなことを微塵も知らぬかのようにカルメールはニコニコと笑っていた。
不思議と嘘を言っているようには感じない。そもそも殺す気だったらとっくに殺している。
ユキはカルメールの言葉を信じることにした。
「分かりましたから離してください」
ユキは鬱陶しそうにカルメールを離すと乱れた髪を整えた。
ユキが髪を整えている様を見ながら,カルメールは先ほどまでのおとぼけた様子ではなく静かに落ち着おた口調で質問した。
「なぁユキちゃん,ユキちゃんの天恵ってなんや?さっきのあれ,ウチと同じ能力やったよな」
カルメールの質問にユキは手を止めた。
本当のことを言うべきか迷った。いずれここにいる二人とは殺し合わなくてはいけない関係なのだ。そんな敵に己のもっとも重要な情報を易々と教えていいものか―――しばしの葛藤の末,ユキは答えを出した。
「アタシの天恵それは―――」
その瞬間大地が揺れた。それも少しではない,全身に振動が伝わる―――地震とはまた違う揺れ。
「ユキちゃん,ユージ―――!!」
カルメールはユキを掴むと『
「な,ななな何が起きたんですか!?」
「分からん。やけど一つだけ分かることがある。敵が近くにおる」
焦るユージと裏腹にカルメールは冷静だった。いや,冷静を装っていた。
騒がず焦らずカルメールはどう対処するべきかを考えた。
今もなお揺れは続いている。このまま下水道に籠っていれば生き埋めになる可能性がある。だが外に出れば奇襲される恐れがある。
相手もこちらに気づいているとは限らない為,このまま隠れているのが得策か―――
『さて,どうするべきやろか』
だがその答えはすぐ出ることとなった。
遠くのマンホールのある場所から光が差し込んだかと思うと,そこから何かが降ってきた。
そして次の瞬間―――その何かは爆発を起こした。
「――――――ッ」
カルメールは爆発に巻き込まれるよりも速く『
徐々に距離は離れ,爆発の影響がない場所まで来ると一度足を止めカルメールは二人を下した。
「ここまで来ればひとまずは大丈夫やろ」
だが安心はできない。ひとまずの難は去ったが,先の爆弾攻撃,その前の地響きといい敵は爆破系統に精通していると考えられる。
もしこのまま隠れ続けていたとしても,生き埋めにされる恐れがある。
そうなった場合,『
「カルメールさん,ありがとうございます。今の爆発って……」
「場所がバレとるな。ここも危険かもしれやん」
一か八かで地上に出るしかないかと,カルメールは近くの梯子に目をやった。
「ユキちゃん,ユージ二人はもう一つ先から出るんや。ウチはここから出て注意を惹くからその間にどこかに隠れるんや」
「でも……それって」
不安そうな表情をするユージの頭をカルメールは優しくなでた。
カルメールの発言,それはカルメール自身が囮になるということだった。
『
「ごちゃごちゃ言わんとさっさと行きな。ウチは大丈夫や,簡単に死んだりしやんって。ユキちゃん,ユージのこと頼んでいいか?」
ユキは大きく頷き,ユージの手を取った。
「行くよ!」
「え……あっ……」
決心のつかないユージを無理やり動かし,ユキは走った。
辛くないわけがない。後ろめたい気持ちがないわけじゃない。
だがこれが最善なのだ。
だから走った。振り返らず,ただ前だけを見て。
「さてと……それじゃ,やろかな」
ある程度ユキたちが進んだことを見届けるとカルメールは膝を曲げ,力をためると勢いよく地上へと飛び出していった。
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「待って……待ってください!」
息を切らしながら叫んだユージはユキに捕まれた手を引っ張り,足を止めた。
「ハァ……ハァ……,ユキさん……本当にカルメールさんを見捨てるんですか?彼女は僕たちの命を助けてくれた方なんですよ!?」
ユージは震えていた。本来は内気な性格なのだろう。だが勇気を振り絞ったのだ。勇気を振り絞り訴えたのだ。このままでいいのかと。
だがユキもこのままでいいとは思っていなかった。命を助けてくれた恩人を一人で,しかも囮として使って心が痛まないはずがなかった。
「……分かってる……でも―――」
轟音と共に下水道全体が大きく揺れた。前の揺れとは比較にならないほどの大きさ。
激しい揺れに立っていることがままならず,ユキたちは膝をついてしまう。
そして,揺れの衝撃に耐えられず壁に亀裂が入り,天井が崩れだす。
「クッ―――」
ユキは掴んでいたユージン手を力強く握り返すと,カルメールの前で見せた『
間一髪―――先ほどまでいた場所は崩れ去り瓦礫の山と化してしまった。
「ユージくん,行くよ速く!」
揺れが弱まり,何とか梯子に掴まったユキは梯子を上った。
そしてその後を急いでユージもついていった。
二人が外に出るとそこには驚きの光景が広がっていた。
「何……これ……」
周囲の建物は倒壊し,火柱を上げている場所もあった。
ドラマや映画で見る戦時中のような光景に,ユキは思わず立ち尽くした。
それはユージも同じだった。見たことのないような光景に絶句していた。
そしてそんな二人をあざ笑うかのように,炎を背に一人の少年が現れた。
「何驚いてるのさ。これは戦い―――殺し合い。ボーっとしてたら殺されちゃうぜっっ」
銀色の髪で炎の光を反射させながら現れた少年は手に持っていた球体のボタンを押すと,ユキたち目掛けて投げつけた。
そして球体は弧を描きながらユキたちの足元へと落ちた。
それが一体何なのか―――ユキの脳は瞬時に理解した。
それとほぼ同時に球体は奇妙な音を立て,周囲を巻き込んで爆発した。
「へぇー,よく避けたね。どんな能力なんだ?赤い姉ちゃんと似たような能力か?」
ユキの能力で間一髪回避した二人に向かって,銀髪の少年は耳を疑う言葉を発した。
『赤い姉ちゃん』―――その言葉が示す人物はおそらく,いや確実にカルメールの事だろう。
自分たちを逃がすために,囮となったはずのカルメールが此処におらず,カルメールのことを知っている少年がいることが意味することは―――
「キミ……カルメールさんをどうしたの……?」
ユキの問いかけに少年は不適な笑みを浮かべた。
まさか―――まさか―――信じられなかった。いや、信じたくなかった。短い付き合いとはいえ、親しみを覚えた者がこんなにもあっさりと消えてしまうなんて。
「安心しなよ。すぐに君たちも送ってやるからさぁ!」
悲しみに暮れる暇もなく,少年の放った爆弾が炎を噴き出し,ユキたちに向かっていった。
「ユージくん!」
ユージの手を取りカルメールの天恵と似た能力で避けるも爆弾は軌道を変え,どこまでもユキたちを追尾していく。
『あぁもう,しつこいッ―――!?』
気が付いた時それはもう目の前にあった。
もう一つの追尾型爆弾―――それはいつどこから放たれたのか―――ユキは逃げながらも少年から目を離しはしなかった。そしてそれはユージも同じ。それなのに何故,建物の陰から同じ爆弾が現れたのか―――
足を踏み出さねば移動はできない。だが足を出すよりも速く目の前にある爆弾はユキたちにぶつかった。
そして轟音と衝撃を響かせ二つの爆弾は爆発した。
至近距離で爆発に巻き込まれたのだ,生きているはずがないと少年は勝利を確信していた。しかし―――
「なんだあれ?」
煙が晴れていくと先ほどまで二人のいた位置に半透明の円柱があった。
その円柱の存在意義を少年は瞬時に理解した。
円柱が音もなく崩壊すると中から出てきたのはユキとユージの二人―――円柱は二人を爆破から守ったのだ。
少年はすぐさま爆弾を投げ込もうと手に取った。
「えっ―――?」
だが―――爆弾は少年の手から離れることはなかった。その代わりに少年に首は百八十度回っていた。
意識の途切れる刹那,少年の目に映ったのは赤い肌と角を持った女性だった。
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