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第631話 F級の僕は、猿芝居をなんとか切り抜ける
第631話 F級の僕は、猿芝居をなんとか切り抜ける
6月21日 日曜日27
数分後、僕を乗せた車は竹林に囲まれた登美ヶ丘第三ダンジョンの駐車場へと戻ってきていた。
駐車場には先に到着していたらしいパトカーが1台停まっていた。
横脇にはN県警の文字が入っている。
そして2人の人物が、地面にしゃがみこんで何かの作業に当たっている。
しかし更科さん含めて、均衡調整課関係の車や職員は見当たらない。
僕を乗せた車が停車するのとタイミングを合わせるように、しゃがみこんでいた2人が立ち上がった、
2人とも壮年の男性で、制服を着用してはいるものの、明らかに普通の警官とは異なる雰囲気を
もしかすると、それなりの“実力者”という事なのかもしれない。
僕を乗せてきてくれた均衡調整課の男性職員が声を掛けてきた。
「更科の方は後数分ほどで到着すると聞いています。外は暑いので、このまま車内でお待ち下さい」
「分かりました」
男性職員は僕の返事を確認すると車外に出た。
そして先に到着していた2人に歩み寄り、一緒に何かを話し始めた。
僕は試しに【看破】のスキルを発動しつつ、車外にぐるりと視線を向けてみた。
けれど、僕達以外の車も怪しい人影も見当たらない。
当然ながら4人組の襲撃者達は、既にここを立ち去っているようだった。
彼らは
そしてティーナさんの推測通りなら、彼らは今も僕達の動きを何らかの手段で監視している可能性が……
そんな事を考えていると、やがて横脇に均衡調整課のロゴと文字が入った黒塗りの車が1台、駐車場に入ってきた。
そして僕が乗っている車と隣り合わせで並ぶ位置に停車した。
車内には3~4人乗り込んでおり、後部座席に更科さんの顔も見える。
目が合った彼女がこちらに会釈を向けつつ車外に出てきたので、僕も慌てて扉を開けた。
「中村さん、お疲れ様です」
「更科さんこそお疲れ様です」
「申し訳ありません。鈴木さんのお買い物に付き合わせて頂いていたので、少し遅くなりました」
「いえいえ、とんでもないです。ところで……」
僕は一応、聞いてみた。
「どうしてまた、鈴木の買い物に付き合う事に?」
更科さんが懐から、黒いIDカードのような物を取り出した。
「均衡調整課の方で費用の負担を、との事でしたので、私が同行して、このカードで支払わせて頂きました。残念ながらこのカード、支払い時に事前に登録された職員の静脈認証が必要になるのですが、鈴木さんは職員ではありませんので」
なるほど。
つまりお財布代わりに同行してくれたようだ。
しかしそれはそれで、なんだか凄く悪い気がする。
鈴木の買い物の話、元々、
とはいえ、鈴木が僕のでっち上げ
「鈴木は何か言っていましたか?」
更科さんが笑顔のまま言葉を返してきた。
「特には何も。ただ、中村さんから買い物を任されているけれど、詳細は説明出来ない、とは話していましたが」
鈴木のやつ、意外と口が堅いのかもしれない。
今は緊張を強いられる猿芝居の真っ最中。
これで鈴木の件まで何か考えないといけなくなっていれば、確実に色々破綻していたはずだ。
少しばかりホッとしていると、先程の警官2人組と、僕をここまで車で送ってくれた男性職員がこちらに近付いてきた。
彼らは更科さんと短く挨拶を交わし合った後、その中の一人、眼光鋭い警官が僕に声を掛けてきた。
「中村さん。コレ、確認して頂けますか?」
彼の
「あちらの現場で回収されたものですが、心当たりはありますか?」
謎の4人組の襲撃、筒状の何かから針状の何かを発射するところから
「多分、襲ってきた連中が僕に向けて発射してきた物だと思います」
その警官はチラッと更科さんに視線を向けた。
彼女がその視線に応えるように口を開いた。
「では中村さん。詳しい状況、お聞きしても宜しいですか?」
それから数分程かけて、僕は駐車場での出来事を“具体的に”説明した。
気晴らしに一人で潜っていたC級ダンジョンから出てきたところ、いきなり見覚えのない連中から襲撃された事。
早い段階で、スキルか何かを使用され、身動き取れなくなった事。
そこうしている内に、気付けば曹悠然の車に引きずり込まれていた事……
話し終えると、警官の一人が更科さんに声を掛けた。
「どうしましょうか。四方木さんの方からは、中央審議会経由で外事にも動いてくれって話になっていますが……」
「その
「では……」
短く打ち合わせと思われる会話を交わした後、更科さんが再び僕に顔を向けてきた。
「中村さん。お疲れ様です。今日はこれで結構です。恐らく明日、またお話を伺わせて頂く事になるかと思いますので、その時は宜しくお願いします」
「分かりました」
……終わった?
一気に緊張が解けるのを自覚した。
明日また事情聴取ってコトだけど、とりあえずその前に一晩寝られるし、明日の話はこの後、ティーナさん達と詰めればいいだろうし。
すっかり心が軽くなった僕は、そのまま駐輪場に停めてあるスクーターの方に向かおうとして、更科さんに呼び止められた。
「鈴木さんの方はどうしましょう?」
「え~と……鈴木の方とは……?」
「所長からお聞きでは無いですか? 鈴木さん、今、買い物終えられて、均衡調整課で待機してもらっているんですよ」
……そう言えば四方木さんとの電話で、そんな話になっていた……ような気がする。
「え~と……」
とりあえず、鈴木の話は後回しにしたいから……
「彼女には一旦、家に帰ってもらって下さい」
「購入した品々はどうしましょう?」
「それも一緒に持って帰ってもらって下さい」
更科さんが少し困惑顔になった。
「鈴木さんにわざわざ買い物を頼まれたって事は、中村さんにとってはすぐにでも必要な品々だったのでは? なんでしたら、購入した品々はウチでお預かりしておいて、あとでアパートの方にお届けしましょうか?」
あとで……
しかし僕はこの後も予定が詰まっている。
黒い
つまりこの後、僕は確実に夜中……場合によっては、明日までアパートを留守にする。
「お気遣いありがとう御座います。ですがこういう状況ですし……購入した品々も、鈴木に一旦、持って帰ってもらって下さい。僕の方から改めて彼女に連絡入れておきますので」
登美ヶ丘第三を出発した僕は、とりあえず一番近くのコンビニまでスクーターを走らせた。
そしてそのままコンビニのトイレを借り、扉を閉めてからインベントリを呼び出した。
とりあえずティーナさんと連絡を取っておこう。
僕はインベントリから取り出した『ティーナの無線機』を、右耳に装着した。
「ティーナ……」
僕の囁き声に、すぐに反応があった。
『Takashi。終わったの? 均衡調整課の検分』
「うん一応。それでそっちはどう?」
『現在進行形で地下施設に向かっているところ。具体的には京西物流集団のE - 15倉庫の床下に隠されていた地下施設に至る
僕はスマホを立ち上げた。
時刻は午後5時10分。
曹悠然がティーナさん、オベロンと共に鹿畑第一のゲートを“飛び出して”行ってから、1時間も経っていない。
「つまり順調?」
『今のところはね。多分、向こうからすれば完全な奇襲になっているせいだと思うわ。ここまで交戦らしい交戦も無かったし』
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