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第611話 F級の僕は、成すべき事に取り掛かる
第611話 F級の僕は、成すべき事に取り掛かる
6月21日 日曜日8
「あの
オベロンが告げてきた内容は、
「まあ
いつも通り腰に手を当て、無い胸を張っている自称精霊王サマを横目で見つつ、僕は今からどう行動するべきか、自分なりに考えてみた。
“彼女”はオベロンの力を使うなと話していた。
確か……オベロンの力は因果律に……なんだっけ?
理由不明に、肝心な部分が、
……
それはともかく、この世界に存在しているはずの黒い
まあ場所は分かっているし、別段、オベロンの力を使わなくてもティーナさんに事情を説明すれば転移出来るだろうし、彼女と力を合わせれば、わざわざ反物質爆弾を用意しなくても黒い
そしてその後は……
その後、僕は曹悠然を殺せるのだろうか?
いや、そもそも彼女を殺す必要はあるのか?
確かにあの閉じて壊れた世界で、僕は一度、彼女を殺す覚悟を決めた。
しかしそれは避けられない運命ならば、自らの手でけじめをつけるべきだと考えたからだ。
だけどここは僕が“巻き戻った”世界だ。
彼女という存在に固着して、弾け飛ぶ事が運命づけられた世界じゃない。
虚無としか表現出来ないあの空間で、“彼女”は悲観していたけれど、この世界の彼女も、もしかしたら全てを伝えれば理解してくれる可能性はあるはずで……
最終的に不毛な“巻き戻り現象”をこうして解決出来たのは、“巻き戻り”の記憶を有していなかった彼女と僕とが協力し合えたからだ。
そうであれば、この世界の彼女とも協力し合えるはず。
そこまで考えた時、僕は奇妙な事実に思い当たった。
結局僕は覚悟を決めていたはずなのに、彼女を自らの手で殺してはいないはず……少なくとも記憶の上では。
しかし現実問題として、僕はここに【異世界転移】が再び使用出来る状態、つまり異常事態が解消した状態で戻ってきている。
ということは、黒い
するとあの虚無としか表現出来ない空間で語り掛けてきていた“彼女”は……?
死の直前、何らかの手段で僕に語り掛けてきた?
あるいは自ら死を選んだ直後、残留思念みたいな感じで語り掛けてきた?
そもそも、どうして僕はあの虚無としか表現出来ない空間にいた?
まさか“彼女”は……
「こりゃ!」
「うわっ!?」
物思いにふけっている真っ最中にいきなり声を掛けられた僕は、大きくのけぞった。
いつのまにか、オベロンが僕の顔を
オベロンが口を尖らせた。
「おぬし! 驚き過ぎじゃ!」
「いきなりだとびっくりするだろ?」
「いきなりではない! 人がせっかく色々手順を考えてやっておるというのに、おぬし、
「ちょっと考え事していただけだよ」
「考え事とは何じゃ?」
「まあ気にするな。で、何の話だ?」
オベロンが右の人差し指を突き付けてきた。
「おぬし、早速
「お前の力を? なぜ?」
オベロンが少しばかりイラついた雰囲気になった。
「じゃからまず、あの贋作の所に転移させて欲しいと願うのじゃ。で、転移したら今度は贋作をこの世界から消去してくれと願うのじゃ。で、その後、曹悠然のところに転移させて欲しいと願うのじゃ。で、その後はおぬしのスキルか何かでサクッとあやつを殺すのじゃ。ちなみに言っておくが、この説明、二度目じゃからな?」
相変わらず大味な“計画”だ。
こいつらしいと言えばこいつらしい。
どうせ採用するつもりは無いけれど……って、あれ?
「オベロン。曹悠然を殺す場面では、お前の力は使わなくてもいいのか?」
何の気なしに返した言葉に、なぜかオベロンが意外な程反応した。
「そ、それはその……地球人を殺すのに
相変わらず悪意の全く感じられないこいつのドヤ顔を眺めている内に、僕の方も今から取るべき行動を決める事が出来た。
今の時間は……
チラッと机の上に置いてある目覚まし時計に視線を向けた。
13時23分。
こっちに戻ってから10分経過した計算だ。
まあ10分位なら、誤差の範囲内じゃないかな。
充電器に繋いであるスマホに手を伸ばしながら、オベロンに声を掛けた。
「ところで黒い
「何を言っておる。あんなのは出来うる限り速やかに破壊せねばならぬ。でなければ、また
「だからそのタイムリミットみたいなのは?」
「なんじゃ? おぬしまさか今更気が変わって、あの贋作を我が物にしたいとか言い出すわけでは無かろうな?」
「そんな訳ないだろ」
僕は苦笑しつつ、スマホを立ち上げてみた。
“
1件目は関谷さんから。
動画の編集終わったから、連絡して欲しいという内容のメッセージ。
2件目は……
『ご無沙汰しております。動画の件で、至急、直接お会いしてお話したいのですが、お時間頂けないでしょうか? ご連絡、お待ちしております』
これも記憶通りの曹悠然からのメッセージ。
オベロンが試すような視線を向けてきた。
「まあ、今日中に破壊出来ればそんなに問題は生じぬとは思うが……」
「そっか」
僕はそのまま、チャットアプリに登録されている曹悠然の電話番号をタップした。
数回の呼び出し音の後、電話口の向こうに女性が出た。
『
曹悠然の声!
僕は、あの閉じて壊れた世界で彼女と4日間を共に過ごしたからこそ沸き上がってくる感慨を一生懸命抑え込みながら、努めて冷静に、相手を確認する言葉を口にした。
「
『中村さん? 今、お部屋でしょうか?』
「そうです。あなたからのメッセージを確認したので、こうしてお電話させて頂きました」
そして僕は彼女の返事を待つ事無く、一気にまくし立てた。
「今急いでいるので用件だけお伝えします。友達に頼まれて、僕は今からN市内のダンジョンに潜る予定です。多分、午後3時過ぎには終わると思うので、その後、落ち着いたらまた連絡します。ダンジョンに潜るのでスマホは部屋に置いていきます」
それから相手の返事を待たずに電話を切った。
さて、次は……
N市均衡調整課の電話番号をタップしようとした僕に、オベロンが怪訝そうな雰囲気で問いかけてきた。
「おぬし、中国娘から先に始末するのか?」
「まあそんな感じ」
適当に話を合わせつつ、そのままN市均衡調整課に電話を掛けた。
こちらも数回の呼び出し音の後、僕の良く知る人物が電話口の向こうに出た。
『お待たせしました。N市均衡調整課です』
「更科さん、こんにちは。中村です」
『中村さん? どうかされましたか?』
「え~とですね。知り合いから一緒にダンジョンに潜ってくれと急に頼まれまして。今から午後3時過ぎ位まで、N市内で予約の入っていないダンジョン、あれば教えてもらえないでしょうか?」
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