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第576話 F級の僕は、曹悠然と“取引”する
第576話 F級の僕は、曹悠然と“取引”する
6月21日 日曜日E16
「とりあえず、夕ご飯を食べに行きませんか?」
そう話した
周囲に他の人の姿は無い。
しかし
彼は僕たちに気付くと、にこやかな笑顔を浮かべながら近付いて来た。
そして
「
「
「
そしてさらに二言三言会話を交わした後、そのコックの格好をした中年男性は、再び奥の扉の向こうへと消えて行った。
僕は
「今の方は?」
「司厨士、つまり調理担当の船員です」
「もしかして、今からあの方が僕達の夕ご飯を準備して下さる、という事でしょうか?」
「そうです」
「船に乗り組んでいる方々と言いますか、船員の皆さんは、全員中国人ですか?」
「そうです」
「でしたらその……」
僕は声のトーンを落としつつ、聞きそびれていた事をたずねてみた。
「僕が日本語で話をするのを見られたり聞かれたりしたらまずいですか?」
今、僕――と
しかし彼女は意外な言葉を返してきた。
「この船内では別に日本語で自由に話してもらって構わないですよ。むしろ日本語での会話の方が、都合が良い位です」
「どういう意味でしょうか?」
「第一に、この船は“特別手配”されたものなので、船員達が私達の素性を気にする事は有りません。第二に、彼等は全員、日本語を
なるほど。
僕にもようやく、少しだけ彼女の考え方というか、性格が分かってきた。
つまり理由は不明だけど、
だけど同時に、完全には信頼しておらず。故に機密を要する話は、彼等が理解出来ない言語を使用した方が安心出来る、と考えているのだろう。
そんな事を考えていると、奥の扉が開き、コック姿の中年男性が、お盆の上にドンブリを二つ乗せてこちらへと歩いて来た。
そしてドンブリをテーブルの上に置くと、
「さあ、頂きましょう」
運ばれてきたのは、いわゆる牛肉麺だった。
お腹が空いていた事もあって、いつも以上に美味しく感じられた。
彼女と当たり障りの無い話をしつつ食事を楽しんでいると、汽笛の合図とともに、何か中国語で船内放送が行われた。
「なんでしょうか?」
彼女がチラッと自分の右腕に嵌めている時計に視線を向けた。
「出港を知らせる放送です。今ちょうど午後8時ですから予定通りですね」
食事を終えた僕達は、そのまま誰とも顔を合わす事無く、部屋まで戻って来た。
そしてツインベッドの縁に腰を下ろすと、ようやく一息つく事が出来た。
思えば今日の午後は、ジェットコースターに乗せられているかの如く、盛りだくさんの出来事が起こった。
【異世界転移】して
そして最後に巻き戻ってからも、ティーナさんと一緒にダンジョンで
そこに遅れて現れた
さらには彼女とダンジョンの中でゆっくり話をして、
僕に起こっている“巻き戻り”現象について明かしたら、彼女から“
僕は向かい合う位置のツインベッドに腰を下ろして、やはり一息ついているらしい
「そう言えば
「欠片?」
そう聞き返してすぐに思い当たったのだろう。
彼女が懐から円柱形の小さな“物体”を取り出した。
そしてその上下を右手の指で挟んで、僕が見える位置にかざしてきた。
「コレの事ですか?」
夕方、鹿畑第一ダンジョンの中で見せてもらった時と変わらず、透明なガラスを通して、内部に小さな黒い欠片が中空で静止しているのが確認出来た。
「そうです」
「コレがどうかしましたか?」
いい機会だ。
最初に見せてもらった時に聞きそびれていた事を今聞いてみよう。
「確か
彼女の顔が一気に強張った。
「……はい。お話しましたが、何か気になる点でもありましたか?」
「いえその……」
彼女、或いは中国は、その黒い結晶体がイスディフイでは
しかし直接この話を持ち出せば、もしそうした情報を彼女が持ち合わせていない場合、藪蛇になってしまうかもしれない。
どうすれば、上手く聞き出せるだろうか?
頭の中で質問方法を考えていると、逆に彼女の方から質問を投げかけられた。
「中村さんは、コレについてどこまでご存知ですか?」
「どこまで、とは?」
「夕方にもお話しましたが、コレを創造した時、その起源についての情報も得る事が出来ました。つまりコレの起源が、欧米の科学者達がBrane-1649cと呼ぶ異界にある事を私は知っています」
彼女が探るような視線を向けてきた。
「中村さん、あなたは“あちら側”に渡る事の出来るスキル、或いは何らかの能力を有していますよね?」
それは夕方にも彼女から投げかけられたのと同じ質問だ。
そして僕はあの時同様、全てを話しても良いと思えるほどには、彼女を信頼出来てはいない。
それは今の彼女の“背景”、言い換えれば彼女が完全に個人として動いているのか、
「その質問に答える前に、僕からも確認させて頂きたい事が有ります」
「何でしょうか?」
「まず、登美ヶ丘第三ダンジョンで僕を
彼女の目が細くなった。
「つまり、情報を取引しよう、という事ですね?」
別に取引しようって話では無くて、単に彼女が、僕が色々明かしても大丈夫そうな人物かどうか、つまり信頼出来る人物かどうかを確認しておきたいって事なんだけど。
しかし僕的に理解している彼女の性格上、信頼云々って話より取引って話にしておいた方が、スムーズに情報を引き出せるかもしれない。
「そう受け止めてもらっても結構です」
彼女は少しの間考える素振りを見せた後、言葉を返してきた。
「……彼等は国家安全部第二十一局の
「えっ!?」
僕は思わず彼女の顔を二度見してしまった。
それってどういう事だ?
つまり彼女もまた、あの襲撃者側の人間って事だろうか?
しかしすぐに、そうだとすると色々奇妙な点が多い事にも思い当たった。
襲撃者達は、有無を言わせず攻撃してきた。
それも、僕を殺しても構わない位の勢いで。
もし彼女が襲撃者側の人間であれば、僕を“救出?”した後の行動に、合理的な説明が付かない点が多々出て来てしまう。
それよりなにより、今ここで、自分が襲撃者側だと白状するメリットが存在しない……はず。
僕は問いを重ねてみた。
「もう少し、詳しく説明してもらってもいいですか?」
「その前に」
彼女が僕の反応を確かめる様な素振りを見せながら言葉を継いだ。
「これは取引です。私はあなたの質問に答えました。次はあなたが私の質問に答えて下さい。YESかNOだけでも結構です。あなたは“あちら側”に渡る事の出来るスキルか能力をお持ちですよね?」
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