第514話 F級の僕は、レヴィアタンを目視出来ないまま攻撃する


6月20日 土曜日8



黒い結晶体定理晶に手の平を当てながら、僕はオベロンに声を掛けた。


「で、具体的にはどう念じればいい?」

「先程も申したが、レヴィアタンの姿を心の中に思い浮かべながら、こう願うのじゃ。北極海のレヴィアタンを地球から消去したい、と」


僕は目を閉じて、心の中に、つい今しがた、オベロンから“視せてもらった”レヴィアタンの姿を思い浮かべながら念じてみた。



―――北極海のレヴィアタンを地球から消去したい!



―――ピロン♪



北極海のレヴィアタンを地球から消去するには、100,000,000,000,000,000,000の経験値を消費する必要があります。

あなたの現在の累積経験値は、2,744,341,923,587,590,000,000

レベル104を維持するのに必要な累積経験値は、2,744,287,948,362,700,000,000

実行しますか?

▷YES

 NO



え?

僕はポップアップしたウインドウを思わず二度見してしまった。


一、十、百、千、万……1がい!?


ってこれ、つまり完全にレベル104は維持出来なくなる計算だ。


僕は傍でふわふわ浮いているオベロンに視線を向けた。


「おい」

「なんじゃ?」

「必要経験値のけた数おかしくないか?」

「仕方なかろう。世界の壁を越えて目視出来ない敵を、前準備も無しで消去するのじゃ。コスト代償かさむのはむしろ当然であろう」


……仕方ない。

概算で、僕の累積経験値の1/27が失われるけれど、神樹の攻略を再開すれば、レベルは後からでも上げられる。


あきらめた僕は、▷YESを選択した。



―――ピロン♪



100,000,000,000,000,000,000の経験値を失いました。

あなたの現在の累積経験値は、2,644,341,923,587,590,000,000

あなたのレベルが103へと下がりました。

それに伴い、ステータス値も減少します。

レベル103を維持するのに必要な累積経験値は、1,829,525,298,908,470,000,000



連続して別のウインドウも立ち上がった。



―――ピロン♪



【ニニ繝ウ繧キ繝】のランクが上がりました。

73 ⇒ 95

新しい機能が解放されました。



……

…………ん?


僕は一応、オベロンに聞いてみた。


「おい、レヴィアタンはどうなった?」

「どうなったとは?」

「斃せたのか?」

「当たり前じゃ! 現におぬしは経験値を失ったであろう?」

「斃したとか、そんな感じのウインドウもポップアップしないし、手応てごたえ的には何も無かったぞ? まさか経験値だけ失って、実は地球では何も起こっていませんでした、とかいう笑えないオチじゃないよな?」


オベロンが口を尖らした。


「失礼な! わらわを誰だと思っておるのじゃ! 始原の精霊……」

「タカシ」


オベロンの口上に被せるように、エレンが声を掛けてきた。


「経験値、どれ位失ったの?」

「レベルが103に下がったよ」


エレンが今度はオベロンに視線を向けた。


「タカシの失った経験値は、今回もあなたが回収第474話した?」

「それは……じゃから、わらわの力をこやつが使うための必要経費という奴じゃ」


そう言えば、今回は【ニニ繝ウ繧キ繝】のランクが95に上がったとかいうウインドウがポップアップした。


「なあ、オベロン」

「なんじゃ?」

「お前、本当の名前は、ニニ何たらじゃないのか?」

「な、なんでそう思ったのじゃ?」

「今回、僕が経験値を失った事を告げるウインドウと同時に、ニニ何たらのランクが上がったってウインドウもポップアップした。確か、お前と契約第468話した時も、本来、お前の名前が入るはずの場所、ニニ何たらって文字化けしていたけれど、今回立ち上がったウインドウ内の表記と、文字化け具合が同じだぞ」

「待って!」


僕とオベロンの会話を聞いていたらしいエレンが声を上げた。

そして何かを思い出そうとする顔になった。


「ニニ……ニニン……?」


オベロンがひどく慌てた雰囲気になった。


「ほ、ほれ、神樹のコピーのような富士第一が地球に生じておる事だし、色々……その……前提となる設定に……錯誤が……じゃ、じゃから、文字化け程度は気にするな!」

「それと今回は、ニニなんたらのランクが上がったってウインドウがポップアップしたぞ?」


【ニニ繝ウ繧キ繝】のランクアップを告げるウインドウ、以前にも何回かポップアップした事が有った。

それは決まって、僕が経験値を消費してこいつの力を使用した時だ。

つまり……


「お前、僕が失った経験値を回収して自分をランクアップさせているって事か?」

「それはその……おぬしが使用出来る力がランクアップしておる……という事じゃ。威力やら代償コストやら……ゴニョ」


何故か一旦、尻すぼみになった後、今度は声を張り上げた。


「とにかく! 早く地球に行って、レヴィアタンが斃されている事を確認するのじゃ!」


【ニニ繝ウ繧キ繝】に関して、気にはなるけれど、今は確かに、さっさと向こうに戻るべきだろう。

確かJMマリオネット、午後4時にはチェックアウト第507話しないといけなかったはず。


僕は帰還のための転移をお願いしようと、エレンの方に顔を向けた。

彼女はまだ一生懸命、何かを思い出そうとしている。


「エレン……」


エレンがハッとしたような雰囲気で顔を上げた。


「どうしたの? 何か気になる事でも?」


彼女はオベロンをチラッと見てから首を振った。


「大丈夫。それじゃあ戻る?」

「うん。宜しく」



シードルさんの屋敷の中、自分に割り当てられている部屋に戻って来た僕は、ララノアに声を掛けた。


あっち最果ての海にいる間、僕達を暖めてくれてありがとう」


ララノアが頬を染めてうつむいた。


「あの……ご主人様……寒いと……いけない……」

「うん。だからありがとう。それで……」


僕はエレンに視線を向けながら言葉を続けた。


「今日の事は、エレンも含めて、他の皆には秘密にしておいてもらってもいいかな?」


人間ヒューマン至上主義、かつ、魔族に敵愾心てきがいしんを持つこの国の人々に、外見が魔族であるエレンについて伝えるのは時期尚早だろう。


「ひ……秘密……ご主人様と……私だけ……」

「そう。僕と君だけの秘密にしておいて欲しいんだ」

「は、はい! も……もちろん!」


ララノアが上気した顔で僕を見上げて来た。

理由不明に随分前のめりだけど、まあ、これが彼女の個性という事だろう。


僕はエレンにも改めてお礼を言った。


「今日は手伝ってくれてありがとう。向こう地球で本当にレヴィアタンを斃せていたら。出来るだけ早く、君にも教えるよ」

「気にしないで。あなたを手助けする事は、私の喜びでもあるから」



二人と別れの挨拶を交わした僕は、スキルを発動した。


「【異世界転移】……」



―――ピロン♪



地球に戻りますか?

▷YES

 NO



そしていつものように▷YESを押した僕の視界が切り替わった瞬間……!?



―――ピロン♪



レヴィアタンを倒しました。

経験値1,000,000,000,000,000,000,000を獲得しました。

海王の牙が1個ドロップしました。

レベルが上がりました。

ステータスが上昇しました。



唐突に立ち上がった、レヴィアタン打倒を知らせるそのウインドウを目にして、一瞬固まってしまった僕に、周囲から声が掛けられた。


「中村サン?」

「中村君?」

「どうしたの?」


僕は改めて、自分がJMマリオネットホテル最上階、スイートルームに戻って来ている事、そして井上さん、関谷さん、そしてティーナさんが、僕に怪訝そうな表情を向けてきている事に気が付いた。

僕は再度、自分の目の前にポップアップしているウインドウに視線を向けた。

表示されている内容通りとすれば、レヴィアタンは斃され、アイテムがドロップし、図らずも僕は失った経験値の10倍の経験値を獲得して、レベルを104に戻せたって事になるけれど……

そんな事を考えている内に、ウインドウは自動で消滅した。


僕は苦笑しながら三人に声を掛けた。


「ただいま。それでドローンでの撮影、上手くいった?」


ティーナさんが言葉を返してきた。


「ソウ聞いて来るトイう事は、レヴィアタンを斃せたのデスね?」

「どうもそうみたいなんだけど、確証が欲しくてね。実は向こうイスディフイからの攻撃時、結局、こっち地球の情景が“視えたり”はしなかったからさ」

「もう5分もスレば、ドローンが戻って来るはずデス。それトモ……」


ティーナさんが、僕達の反応を確認するような素振りを見せながら言葉を続けた。


「いっそ、皆デ見に行ってみマスか?」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る