第503話 F級の僕は、ティーナさんの構想を聞く


6月19日 金曜日18



「世界が注視スル中で、国家が総力を挙げテモ達成出来なカッタ壮挙を私達のミデ成し遂げて見せレバ、それだけ私達の存在感を、世界に強く印象付ケル事が出来マス」


ティーナさんのその“構想”、僕にとっては初耳だ。


「ちょ、ちょっとエマさん?」


ティーナさん扮するエマさんが、満面の笑みを向けて来た。


「どうシマした? 中村サン」

「え~と、それって、顔出しでするって事?」

「顔出シトは?」

「つまり、僕達の存在を世界に強く印象付けるために、僕やエマさんの顔や名前を出す……って事かな~と」


地球で現在進行中のスタンピードを制圧するのは構わないというか、むしろ出来るならやり遂げたいけれど、だからと言って、僕自身が目立つ存在になりたくはない。

やるなら、富士第一でゲートキーパー達を斃して回った時みたいに、こっそり立ち回りたい。


「それデモいいんデスけどネ」


そう口にしながら、ティーナさんが悪戯っぽい表情になった。


「中村サン、目立つの好きジャナいですヨネ?」

「それはまあ……」

「ですカラ私達の個人名や顔は出サズ、だケドちゃんと私達が斃しタッテ分かる形に持って行こウカト」

「そんな事出来るの?」

「ふふふ、任せテオいて下サイ」

「待って、それ凄くいいかも!」


井上さんが、わくわくした雰囲気で僕達の会話に入ってきた。


「なんか秘密結社っぽいよね?」


まあ、言われてみればそうかも。


「気に入ってモラエたのナラ幸いデス。都合の良い事ニ、桂木長官が、“富士第一でゲートキーパー達を斃して回っテイルのは、謎の存在Xダ”って話しテクれていマシタし、そレニ上手く乗っかロウと考えていマス」


そうだ、思い出した。


「そう言えばその謎の存在Xについてなんだけどね……」


僕は改めてティーナさんに話題を振った。


「桂木長官は、どうして全国放送でわざわざあんな話題を出したんだろう?」

「桂木長官個人でハナく、均衡調整課とシテソういう見解に至っテイルみたいデスよ。ニュースの中でも触レテいましタケれど、今日の午後、日本政府がソウ発表してイマシたから」


その政府が発表したという内容も気にはなるけれど……


「もしかして、四方木さんが桂木長官に報告を上げたって事かな?」


以前、斎原さんが、僕が富士第一でゲートキーパーを斃して回っているのでは? と疑いの目を向けて来た時、四方木さんは僕の行動確認第362話を取ることで、僕への疑念を結果的にらしてくれた事があった。

その代り、結局富士第一97層のゲートキーパー、ベレトを斃した第375話僕は、少なくとも四方木さんから見れば、富士第一のゲートキーパー達の謎の消失に関して、完全にクロ扱いになっているはず。


「恐らク、そうデショウね」

「でも、だとしたら、どうして?」

「それはモチロん……」


ティーナさんが僕に試すような視線を向けてきた。


「中村サンを、均衡調整課で囲い込むタメだと思いマスよ」

「囲い込む?」


ティーナさんが頷いた。


「多分その内、四方木サンあたりカラ、中村サンの“目立ちたクナい”って気持ちを逆手さかてにトッテ、均衡調整課の嘱託職員でイル限り、外部の雑音は、均衡調整課が全部シャットアウトしてあげマスヨって話が持ち込まレルんじゃなイカと」

「なるほど」

「まあそうナッタラそうなっタデ、逆に私達が均衡調整課を利用さセテもらえば良いダケなんデスケどね」


……うん。

さすがはティーナさん。


感心していると、ルームサービスを一人でほとんど全部平らげた――毎度のことながら、こいつの胃袋はきっと、ブラックホールか何かと繋がっているに違いない――オベロンが、僕に声を掛けてきた。


「タカシよ」

「あれだけ食べたのに、まさか御馳走、追加で寄越せとか?」

「違うわい! ちと、確認したい事があるのじゃ」

「なんだ? 言ってみろ」

「おぬしは、富士第一とやらで、100層までのゲートキーパー達を斃した、と申しておったな?」

「まあそうだけど」

「では、神樹の第100層は今、どうなっておる?」


神樹……

僕が神樹でゲートキーパーと戦ったのは、確か先月末第174話、第85層のグラシャが最後だったはず。


「多分、まだ解放されていないんじゃないかな」

「う~む……」


オベロンが難しい顔になった。

と、ティーナさんがオベロンに問い掛けた。


「オベロンサン、結局、あなたガイたあの謎の空間は何ダッタのでスカ?」


オベロンがジロリとティーナさんを睨んだ。


「おぬしは確か、あの時第410話の……」


対照的に、ティーナさんは満面の笑みを浮かべている。

オベロンが、不愉快そうな雰囲気のまま、言葉を続けた。


「何か勘違いをしておるようじゃが、わらわは神樹第100層のゲートキーパー、ブエルのドロップアイテム、『精霊の鏡』に……」

「オベロンサン、知ってイマしたか? ドロップアイテムは、【スリ】盗る事は不可能ナンですヨ?」


オベロンが目に見えて狼狽した。


「な、何を根拠にそのような戯言ざれごとを?」

「だって私達、あの後、何百回も試しマシタけど、たダノ一度も成功しナカッタですから」


“何百回”は言い過ぎだけど、確かにドロップアイテムは【スリ】盗れなかった第413話


「でスガあの謎の空間デハ、中村サンはあなたが封じラレテいたはずのドロップアイテムを【スリ】盗レタ……」

「何が言いたいのじゃ?」

「ここカラ先は、あくマデモ推測デス」


そう前置きしてから、ティーナさんは自分の“推測”を口にした。


「あの謎の空間ハ、本来ならバ、恐らく神樹第100層のゲートキーパーの間を模して創ラレル予定であった。当然あソコにいたブエルも創り物。たダシ、綿密に模倣しヨウト試みたにも関わラズ、ブエルはHPが設定されてオラズ、『精霊の鏡』もドロップアイテムでは無く、所持品にナッテしまっテイタ。これは“創造者”がミスを犯しタカ、或いは“創造者”が事前に予想してイナカった不確定な要素が影響シタのか……」


ティーナさんが、オベロンに笑顔で問い掛けた。


「どうデス? こうイウノは?」

「ふん!」


オベロンが鼻を鳴らした。


「なんとでも言うが良いわ。わらわは神樹第100層のゲートキーパー、ブエルのドロップアイテムである『精霊の鏡』に封印されておったのじゃ。何がどう間違って、その“謎の空間”とやらでおぬしらに出会う事になったのか、わらわの方が知りたいくらいじゃ」

「では……」


ティーナさんが、笑顔のまま、オベロンに提案した。


「神樹では無いデスが、富士第一100層のゲートキーパーの間、一緒に行ってミマせんか?」

「ゲートキーパーの間に?」

「はい」

「と言うヨリ、オベロンさんコソ、行ってみタイのでは?」

「……なぜそう思ったのじゃ?」

「顔に書いてありマスヨ」

「な、なんじゃと!?」


オベロンが大慌てで、部屋の隅に置かれた鏡台の方へ飛んで行った。

そして鏡の前で、自分の顔をペタペタ触りながら、いろんな角度で“何か”を一生懸命確認し始めた。

……なんだかとっても分かり易い精霊王サマだ。


僕はそんなオベロンを横目で見ながら、ティーナさんに問い掛けた。


「どうして突然、オベロンを富士第一に誘ったの?」

「顔に書いてアッタからデスヨって言うのは冗談で……」


ティーナさんもオベロンに視線を向けた。

ちなみにオベロンはまだ鏡の前だ。


「私自身、少し確認してオキタい事がありマシテ、ちょウド良い機会だカラ、あのオベロンなる精霊も一緒に連れて行ってミヨウかと」


そしてティーナさんは、関谷さんと井上さんにも声を掛けた。


「どうデス? 今からチョット、富士第一100層のゲートキーパーの間、行ってミマセんか?」


井上さんが不思議そうな顔になった。


「行くって……どうやって? まさかヘリコプターでもチャーターするの?」


ティーナさんが微笑んだ。


「そんな事をしナクテも、中村さんの秘密道具がアルジャ無いデスか」

「秘密道具……」


そう口にしながら、井上さんが何かを思い出した雰囲気になった。


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