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第476話 F級の僕は、地上へと転移する
第476話 F級の僕は、地上へと転移する
6月18日 木曜日27
「申し訳ありません。先程もお話しましたように、私は元々この国の人間ではありません。ですからニヌルタさんの事は知らないのですが、ルーメルでの冒険者仲間に、転移の魔法を使用出来る者がおりまして……」
話していると、住民達の様子を確認し終えたのであろう、クリスさんとノエミちゃん、そしてターリ・ナハが連れ立ってこちらに歩いて来る姿が目に飛び込んできた。
三人は僕と目が合うと、僕に向かって笑顔で手を振ってきた。
僕の視線に気付いたグレーブさん達もまた、三人の方に視線を向けた。
グレーブ総督が僕に問い掛けてきた。
「あいつらもお前の仲間達か?」
「はい」
戻って来た三人の内、クリスさんがグレーブ総督達に視線を向けながら、僕に声を掛けて来た。
「そちらの方々は?」
「こちらの方は……」
説明しようと口を開きかけた所で、グレーブ総督を守るように立つ男――先程、僕を怒鳴りつけて来た人物だ――が大声を上げた。
「言葉と振る舞いには気を付けろよ? こちらにいらっしゃるのは属州モエシア総督、グレーブ閣下だ!」
クリスさんは一瞬虚を突かれたような表情になったけれど、すぐに型通りの臣礼を取った。
同時に、ノエミちゃんとターリ・ナハもクリスさんに
「お初にお目にかかります。私はトゥマにて【白銀の群狼】という冒険者パーティーのリーダーを務めさせて頂いております、イサークと申す者です。そして後ろにおりますのが……」
精霊の力によって、見た目
グレーブ総督は臣礼を取る三人をジロリと視線でひとなめした後、僕に問い掛けて来た。
「他の仲間は?」
つまりここで臣礼を取る三人以外、という事だろう。
「後は……」
僕は暗がりの向こう、エレンが転移の魔法陣を構築中であろう方向を指差しながら言葉を続けた。
「先程もご説明しましたように、向こうで皆さんを地上へお送りする準備を進めている者が一人おりまして、それで全てです」
「するとここへ来たのは、お前を含めて5人というわけか」
「はい」
グレーブ総督は少し何かを考える素振りを見せた後、口を開いた。
「では、その転移の魔法陣とやらへ案内せよ」
僕はチラっとクリスさん達に視線を向けた。
クリスさんは、僕にだけ分かるよう肩を
「かしこまりました。ですがまずは私とそこにおりますタカシとで状況の確認をして参ります。皆様方には、いましばらくこの場にてお待ち下さいますよう、お願い申し上げます」
ノエミちゃんとターリ・ナハをその場に残し、二人でエレンの
「確認だけど、グレーブ総督には、事情は説明したんだよね?」
僕は
「打ち合わせ通り、お話しておきました」
「それであの態度って事は……」
クリスさんは少し言い
「これはちょっと、気を付けた方が良いかもしれないね」
クリスさんの言葉に引っ掛かりを覚えた僕は、その意味する所を問い直してみた。
「気を付けた方が、とは?」
「普通なら、窮地を救ってもらえれば、どんな人間でも少なからず感謝の念を
言われてみれば確かにその通りだ。
グレーブ総督達からは、“救援ご苦労”的な声掛けは一切してもらえていない。
まあ、僕個人としては、別段感謝されたくてやっているわけではないけれど。
「それどころか、グレーブ総督のあの目。あれは、僕等に強い
「猜疑心?」
クリスさんが、そっと後ろを振り返りながら言葉を返してきた。
「僕の個人的な感覚だけどね。僕等の事を
話していると、薄暗がりの向こうから、エレンが
エレンの方も僕等に気付いたらしく、立ち上がってこちらに笑顔を向けてきた。
床には、恐らくエレンが準備したのであろう、転移の魔法陣と
「どう? 準備の方は?」
クリスさんの問い掛けに、エレンが淡々と言葉を返した。
「ちょうど今終わった所。
「転移先の座標か……」
クリスさんが少し考える素振りを見せた後、僕の方に視線を向けてきた。
「確か、城外には大軍を引きつれたゴルジェイさんが布陣しているんだよね?」
「はい」
ここへ乗り込む直前、僕はユーリヤさん達と一緒に、城外に布陣しているゴルジェイさんと実際に会って話をしている。
「彼はグレーブ総督の三男だし、彼が布陣するすぐ近くに住民達を転移させて、
州都モエシアの
エレンにも異論は無いらしく、転移先は、ゴルジェイさんが布陣している場所から見て、丁度街とは反対側になる空き地に設定する事になった。
「準備が整い次第、一度タカシ君とエレンとで地上に転移してもらってもいいかな? いきなり100人からの住民達を転移させたら、向こうもびっくりするかもしれない。事前に知らせておけばトラブルも生じないだろうし、それなら向こうの指揮官のゴルジェイさんと顔見知りの君と、実際に転移の魔法陣を用意してくれたエレンとで説明しに行ってもらうのが良いと思うんだけど」
僕とエレンが
「よし、これで
「お疲れ様です」
自然に
よく考えれば、クリスさんはトゥマがモンスターの大群に襲撃された
一見、そんな風には見えないけれど、実は相当疲労しているのかも言しれない。
「ありがとう。
若干お茶らけた感じでそう口にするクリスさんに、エレンが問い掛けた。
「猜疑の目って?」
「そっか。君はまだ知らなかったね」
クリスさんが、
「ま、無いとは思うけれど、疑心暗鬼に
「分かった」
エレンは床に描かれた魔法陣の中心部に立ち、何かを口ずさんだ。
瞬間、魔法陣全体が一瞬だけ発光した。
「これでいつでも地上に転移出来る」
「それじゃあ、地上のゴルジェイさんへの説明は任せたよ。僕はその間にあのおエライさんに、準備が整ったって伝えておくから」
「了解です」
僕はエレンと共に魔法陣の中心へと向かおうとして、足を止めた。
クリスさんが小首を
「どうかしたかい?」
少し
「あの……
命の
その場所を離れてから、そんなに時間は経ってはいないけれど、彼女の
ちなみに彼女については、“エレシュキガルに操られた憐れな犠牲者”としか説明していない。
だけどクリスさんにとって、
「分かったよ。任せておくれ。ちなみに今は……」
しかしクリスさんは微笑みを浮かべながら即答してくれた。
そして何かを探る素振りを見せた後、言葉を継いだ。
「状況に変化は無いようだよ。大丈夫。僕が責任を持って、ちゃんと“視て”おいてあげるよ」
その言葉は涙が出る程嬉しかった。
「ありがとうございます」
僕は深々と頭を下げた。
クリスさんに見送られながら、僕とエレンは、たった今設置されたばかりの転移の魔法陣を使用して、地上へと転移した。
―――※―――※―――※―――
今回は
ま、あやつらの茶番に付き合うつもりもないし、ちょうど良かったわい。
ズズ……アチチチ
ちとお湯の温度が高過ぎたようじゃ。
おっと、タカシがエレンと一緒に地上へ
どれ、
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