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第460話 F級の僕は、総督府の建物の前に辿り着く
第460話 F級の僕は、総督府の建物の前に辿り着く
6月18日 木曜日11
念話で僕等の今の状況について説明していく内に、エレンが凄まじい勢いで不機嫌になっていくのが伝わってきた。
説明し終えると、エレンが問い掛けてきた。
『状況は分かった。だけどあなたには、明日まで待てば、私と光の巫女があなたと合流出来るから、それまでは危ない橋は渡らないでって
まあ、エレンのこの反応と疑問は想定内だ。
だけどあの世界で体験させられた“ルキドゥスの滅亡”について、まだ全然心の折り合いを付けられずにいる僕には、彼女の“なぜ”を満足させる答えを用意する事は出来ない。
僕は出来るだけ心を落ち着けながら――そうしないと、エレンには全て伝わってしまうかもしれないから――念話を返した。
『心配をかけてごめん。それと心配してくれてありがとう。だけど僕には出来るだけ早くここに来なきゃいけない理由があったんだ。全部終わったらちゃんと説明するから、その理由は、今は聞かないで欲しい』
『……分かった。あなたを信じる。その代り、“エレシュキガル”と遭遇するまで、このまま念話は繋いでおいて』
つまり随時、念話で状況を知らせて欲しいという事だろう。
『それは
『今の私はせいぜい、あなたの周囲に居る人物の魔力の質を視たり、呪術その他の術式の存在に気付く事しか出来ない。だけど何かに気付いたら、必ずあなたに知らせてあげる』
『ありがとう。それで、ここからが本題なんだけどね……』
僕は改めて今、僕を襲っている得体の知れない異様な感覚と、州都モエシアの総督府を覆い尽くしている正体不明の黒い
『エレンには、そういうモノの正体みたいなのに心当たりはない?』
エレンから念話では無い、強烈な“思念”が伝わってきた。
―――黒い……負の感情……やはりあいつが……
『エレン?』
『ごめんなさい。ちょっと考え事をしていた』
『謝る必要は無いよ。それより、君が“黒い負の感情”について、何か考えている感じが伝わってきたけど?』
『500年前、私の記憶と身体を奪って世界を破滅の淵に追い込んだ魔王エレシュキガルは、人々が生み出す黒い負の感情を
『“もし”って言っているって事は、今は黒い
『もう少し……恐らく数m位の距離まで近付けば、はっきりすると思う』
『そっか。それで……』
僕はそっとユーリヤさんや他の同行者達に視線を向けた。
皆、思い思いに何かを話し合っているけれど、ユーリヤさんだけは僕をじっと見つめていたらしく、彼女と目が合ってしまった。
ユーリヤさんが、
「終わりましたか?」
「あ、すみません。もう少しだけ待っていて下さい」
僕はユーリヤさんに言葉を返してから、再びエレンに念話で語り掛けた。
『その黒い負の感情って、僕等には影響無いかな?』
『影響とは?』
『例えば、黒い負の感情が凝集しているような場所に近付いたら、身体に変調きたしたり、人格が豹変したり、なんて事は……』
実際、僕自身が今、全身
『黒い負の感情は呪いの
それって、あの世界での僕――メルとアルラトゥ以外の誰からも認識されず、誰にも影響を与える事が出来なかった――と同じ……
『あの世界って?』
エレンから
僕の考えた事の一部が伝わってしまったようだ。
『あ、気にしないで。それより……』
僕は話題の軌道修正を図った。
『それならなぜ、僕にはあの黒い
『もしかすると、私のせいかも……』
『エレンの?』
どういう意味だろうか?
『私は黒い負の感情を視る事が出来る。それが凝集すれば、あなたがいう“総毛立つような異様な感覚”にも襲われる。私があなたとパスを繋いだせいで、あなたにも同じような感覚が備わってしまったのかも。ほら、理由はよく分からないけれど、あなたはいつの間にか私の名前を
エレンと
そして500年前の世界でエレンの来歴を知り、その全てを受け入れようと決意した時、今度は【
以前は確かに“理由不明”だったけれど、“アルラトゥ”と
僕は自分なりに
パスで繋がっているエレンには、“それ”が伝わってしまう可能性がある。
彼女に“それ”を伝えるのは、
それはともかく……
『とりあえず、このまま進んでみるよ』
エレンの推測通りなら、少なくともユーリヤさん達には、あの黒い
『分かった。だけど無理はしないで。少しでも危険を感じたら遠慮なく私を呼んで。光の巫女の祈りを無理矢理中止させてでも、あなたを助けに行くから』
僕は心の中で苦笑した。
『前も同じような事を話したけれど、そうそう危険な事にはならないと思うよ』
【エレンの祝福】の効果で即死無効だし、いざとなれば【異世界転移】でこの世界から完全に姿を
『無理はしないって約束するからさ。エレンも先走ってノエミちゃんを困らせないようにしてあげて』
『元々、あなたが明日まで待たなかったのが原因』
『それはもう、凄く反省しているから。それじゃあね』
エレンとの念話を無理矢理(?)切り上げた僕は、ユーリヤさんに声を掛けた。
「お待たせしました。出発しましょう」
「総督府を
「現時点では、少なくともユーリヤさんはじめ、皆さんに危険を及ぼすモノでは無さそうです。数m位まで近付けば、もう少し詳細に調べられると思うので、このままあの総督府に近付いてみましょう」
数分後、僕等は総督府の建物の前に到着した。
壮麗な、中世ヨーロッパのお城を思わせる白亜の建造物――らしいけれど、僕には相変わらず真っ黒に塗り潰されたようにしか見えていない――が、今僕等の居る地点から二~三十段階段を
僕はユーリヤさん達に声を掛けた。
「皆さんはここでちょっと待っていて下さい。あの黒い
皆から離れ、階段を一人、慎重に登り出した途端、あの全身総毛立つような異様な感覚が急激に膨れ上がってきた。
同時に、大勢の人々の声とも思念ともつかない何かが頭の中に響いて来た。
―――くそ! なんであいつだけが!
―――ざまぁ見ろ! あいつの全てを奪ってやったぞ!
―――羨ましい、羨ましい、羨ましい、羨ましい……
―――助けて! 私以外の人は殺してもいいから、私だけは助けて!
凄まじいまでの純粋な黒い負の感情!
頭の中で
「タカシさん!」
誰かが階段を駆け上がって来る足音が遠くに聞こえる中、僕はとうとうその場で盛大に嘔吐してしまった。
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