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第415話 F級の僕は、ターリ・ナハから衝撃の目撃談を聞かされる
第415話 F級の僕は、ターリ・ナハから衝撃の目撃談を聞かされる
6月17日 水曜日29
ワームホールを潜り抜けて戻って来た時、僕の部屋の目覚まし時計は午後6時43分を指していた。
「とりあえず、関谷さんも呼んで情報交換しておこうか?」
今朝の“エレシュキガル”からのコンタクトの話もまだ、彼女とは共有出来ていないし。
僕の問い掛けに、ティーナさんはしばらく考える素振りを見せた後、言葉を返してきた。
「私は一度
ティーナさんが自分の右耳に装着された『ティーナの無線機』を指差しながら言葉を続けた。
「……情報交換しましょ」
1時間後、【異世界転移】でトゥマの街に戻って来た僕は、シードルさんの屋敷の中に割り当てられた自分の部屋のベッドに一人、仰向けに寝転がっていた。
あれから関谷さんも交えて『ティーナの無線機』を介して色々話をしたけれど、結局僕等に出来たのは事実関係の確認のみ。
オベロンに出会ったあの謎の空間についても、ブエルを斃した謎の光の柱についても何も分からないままだ。
それにしても、今日は朝から色んな事があった。
富士第一98層ゲートキーパー、シトリーとの二度にわたる戦い。
幻惑の檻に振り回されてしまった富士第一99層ゲートキーパー、グシオンとの戦い。
インドでカマラから聞かされた衝撃的な話の数々。
“エレシュキガル”からの突然の接触。
謎の空間でのオベロンとの
そして何者かの攻撃により斃された富士第一100層ゲートキーパー、ブエル……
突如として乱雑に膨大な情報を押し付けられ、その処理が追い付かないような奇妙な感覚。
そうした様々な出来事を頭の中で
…………
……
―――コンコン
誰かが扉をノックする音に、僕の意識は急速に現実へと引き戻された。
気付くと部屋の中はすっかり暗くなっていた。
ここに戻って来た時、部屋には窓から外の光が射し込んできていたはず。
どうやら自分でも気づかない内に寝入ってしまっていたらしい。
僕は一人苦笑しながら身を起こすと、ドアの方へと歩み寄った。
「タカシ様、ご在室でいらっしゃいますか?」
扉の向こう側から、聞き覚えのある声が掛けられた。
確かこの屋敷のメイドさんの一人じゃ無かったかな?
「すみません。今開けます」
扉の向こう側には、はたして僕の予想通りの声の主が立っていた。
僕の姿を確認した彼女が、深々とお辞儀をしてきた。
「お休みでしたでしょうか?」
「すみません。横になっていたらいつの間にか眠ってしまっていたみたいで……もしかして、お待たせしてしまいました?」
僕が寝ている間、何度かここを訪れてくれた、或いはずっと扉の外で待っていたのなら悪い事をした。
彼女は笑顔で首を振った。
「いいえ。私の方こそ、せっかくのご休息を邪魔してしまい申し訳ありませんでした」
「そんなの気にしないで下さい。ところで、どういったご用件……」
問い掛ける途中で思い当たった。
窓の外の暗さから推測すると、そろそろじゃないだろうか?
「……もしかして捜索隊が戻ってきました?」
僕の言葉に彼女が
「はい。本日の捜索結果に関しまして、ユーリヤ様から少しお伝えしたい事が有る、と」
「分かりました。すぐに行きます」
5分後、僕は彼女の案内でユーリヤさんの部屋を訪れていた。
部屋の中では、ユーリヤさん、スサンナさん、ポメーラさん、そしてターリ・ナハが僕の到着を待っていた。
「お待たせしました」
皆に軽く会釈する僕に、ユーリヤさんが言葉を掛けてきた。
「タカシ殿、少々確認させて頂きたい事が有ります」
「どうしました?」
言葉を返してから、ユーリヤさん……というより、この場の雰囲気に強烈な違和感を抱いた。
なぜか皆、
「タカシ殿が“エレシュキガル”から『二人の想い』を介してコンタクトを受けたのは、今日の午前中、私と話す30分程前だったという認識で合っていますか?」
僕はチラっとポメーラさん達に視線を向けた。
僕の視線に気付いたらしいユーリヤさんが言葉を続けた。
「ご安心下さい。“エレシュキガル”の件は彼女達にも伝えてあります」
口止めしたわけでは無かったし、あれ程の
僕は改めて言葉を返した。
「“エレシュキガル”との念話が終了してすぐ、ユーリヤさんに会いに行きましたから、その認識で合っていると思います」
「という事は……」
そう
「ターリ・ナハ、あなたが目撃した一部始終をタカシ殿にお伝えしなさい」
「分かりました」
ターリ・ナハはユーリヤさんに頭を下げた後、僕の方に視線を向けて来た。
「タカシさん、私は今日の午前中、アルラトゥが『二人の想い(左)』を使用しているのを目撃しました」
「!」
アルラトゥが?
『二人の想い(左)』を?
一瞬の時間差を置いて、その言葉の持つ強烈な意味合いが僕に襲い掛かって来た。
僕の心臓の鼓動が次第に早く大きくなっていく。
「それは一体……」
上ずる僕の声とは対照的に、ターリ・ナハの声は冷静だった。
彼女の話によると、今日の午前中の捜索中、皆から死角――ターリ・ナハにとってはそうでは無かったけれど――になる位置で、アルラトゥが秘かにインベントリを使用したのに気が付いた。
彼女がインベントリから取り出したのは僕が持つのと対になる『二人の想い(左)』。
「……どうしてターリ・ナハはそれに気付けたの?」
僕の問い掛けにターリ・ナハが淡々とした口調で答えてくれた。
「ご存知のように、私の父アク・イールはインベントリを
アルラトゥは手の平の中に隠すように『二人の想い(左)』を取り出したが、ターリ・ナハの鋭敏な感覚はそれを見逃さなかった。
取り出した『二人の想い(左)』を自身の左耳に装着したアルラトゥは、それをさりげなく左の手の平で覆いながら、熱心に捜索に参加する風を装い続けた。
そして数分後、アルラトゥは再びインベントリを呼び出し、『二人の想い(左)』をしまいこんだ……
「私は読心術に類するスキルは所持しておりません。ですからアルラトゥが『二人の想い(左)』を用いて誰とどんな会話を交わしたかまでは読み取る事は出来ませんでした。しかし……」
ターリ・ナハの言葉を引き継ぐようにユーリヤさんが口を開いた。
「アルラトゥが『二人の想い(左)』を使用していた、と
「つまり……」
僕の声は自然に震えていた。
「……アルラトゥが“エレシュキガル”……? ですが……」
僕は午前中の“エレシュキガル”からの念話を思い返してみた。
「ですが少なくとも、“エレシュキガル”の声は、アルラトゥとは違っていました」
むしろあの声はモエシアを禁呪で破壊し、ネルガルに滅びを告げたあの幻影の声とそっくりだった。
アリアやクリスさん、それにエレンとの念話では、彼女達自身の声がそのまま僕の心の中に届いていた。
念話で声を
そう考えたのだが……
ユーリヤさんが険しい表情のまま口を開いた。
「念話でタカシ殿に届けられた声こそ、本来のアルラトゥの声であった可能性があります」
「本来の?」
ユーリヤさんが
「念話を
「別の……声……」
ユーリヤさんが深く息をついてから言葉を続けた。
「少なくとも、アルラトゥは何らかの方法で『二人の想い(左)』を入手しているにも関わらず、タカシ殿はじめ、誰にもそれを報告しておりません。彼女が“エレシュキガル”であるかどうかに関わらず、彼女を拘束して調べる必要があると考えます」
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