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第403話 F級の僕は、エレンの言葉に少しだけ救われる
第403話 F級の僕は、エレンの言葉に少しだけ救われる
6月17日 水曜日17
「今からお話する内容は、ユーリヤさんの胸の内だけに留めてもらってもいいですか?」
僕の言葉を聞いたユーリヤさんが微笑んだ。
「自分で言うのも何ですが、私は口が堅い事で有名ですよ?」
ユーリヤさんの口が実際堅いかどうか判断材料は無いけれど、事ここに至った以上、中途半端な情報を彼女に与えるのは、かえって逆効果だろう。
そう判断した僕は、僕自身の素性について、彼女に説明する事にした。
「実は……」
「タカシ殿は異世界から降臨した勇者、ですよね?」
!?
セリフを先取りされて、僕は思わず目を見開いてしまった。
ユーリヤさんが苦笑した。
「あなたが実は勇者では無く、ただのレベル105の冒険者です、と告白してくる方が、驚きだと思いますけど?」
そう言えばトゥマにモンスターの大群が押し寄せた時、冒険者達から自分のレベルを尋ねられて、思わず本当のレベルを
ちなみに今朝、99層のゲートキーパー戦で『即死呪法のスクロール(Lv.100)』を使用した代償に、僕のレベルは104へとドレインされている。
「“エレシュキガル”があなたのご友人を
今思えば、あの時点で既に、ユーリヤさんは僕の事を“異世界の勇者”ではないかと疑っていたという事だろう。
「恐らくそうだと思います」
僕の答えを聞いたユーリヤさんが、重ねて問いかけてきた。
「それで“エレシュキガル”は具体的にはなんと?」
「具体的に、とは?」
「ですから、いついつまでに来いとか、来る時は一人で来いとか、そういった
「具体的には何も……先程も説明した通り、二人を預かっている、二人に会いたければ州都モエシアに来い、お前と個人的に話がしたい、としか告げてきませんでした」
僕の言葉を聞いたユーリヤさんが、
「それは奇妙な話ですね……」
「奇妙、ですか?」
「個人的な話をしたいだけなら、念話で済ませてもいいはずです。わざわざ州都モエシアにあなたを呼ぼうとしているという事は……」
もしかして……?
「罠、でしょうか?」
しかしユーリヤさんは首を傾げたままだ。
「普通に考えればそうなのですが……」
少し考える素振りを見せた後、ユーリヤさんが言葉を続けた。
「罠だとしても奇妙です。期限も切らず、人数の制限もせず、ただ州都モエシアまで会いに来い、というのは余りに漠然とし過ぎています。しかも相手はあなたの事を勇者だと認識している訳ですよね? “エレシュキガル”は具体的にあなたをどうしたいのでしょうか? 味方に引き込みたい? 或いは命を奪いたい? それとも全く別の思惑が有る?」
言われてみれば、確かに“エレシュキガル”の意図が全く分からない。
とは言え、僕が取れる選択肢としては、二人の安否が不明な以上、やはり州都モエシアに向かわざるを得ない訳で。
そんな僕の気持ちを見透かしたかのようにユーリヤさんが言葉をかけてきた。
「とにかく相手の意図が不明確な現状では、早まった行動は命取りになる危険があります」
「それは……二人を助けるために州都モエシアに行ってはいけないという事でしょうか?」
ユーリヤさんが優しい表情で首を振った。
「そうではありません。むしろこれで“エレシュキガル”が州都モエシアを拠点にしているという事が明確になりました。ご友人方を救出して“エレシュキガル”を斃すためにも、当然州都モエシアには向かうべきです。ただ、無策で乗り込むのは相手の思うつぼ。かえってご友人方を危うい状況にしてしまうかもしれません。ですから入念に準備を行ってから向かいましょう」
ユーリヤさんの話を聞き終えた僕は、彼女の言葉の語尾に引っ掛かりを感じた。
「向かいましょう……とは、もしかして、一緒に?」
ユーリヤさんが力強く頷いた。
「当然です。一昨日に属州リディアの総督モノマフ卿宛てに出した
しかし、それでは日数がかかり過ぎるのではないだろうか?
“エレシュキガル”は確かに期限を切ってはこなかったけれど、もし二人が
とは言えユーリヤさんの言葉通り、相手の意図が読めない現状、僕一人で州都モエシアに向かっても、はっきり言って出来る事は限られるだろう。
もやもやした精神状態のまま、とりあえず捜索隊が戻って来る夕方以降、もう一度皆で話をしようというユーリヤさんの提案を、僕は受け入れる事にした。
幕舎を辞して迎えの馬車に乗り込んだ僕は、エレンに念話で呼びかけた。
『エレン……』
すぐに念話が返ってきた。
『タカシ、どうしたの?』
『実は……』
僕は“エレシュキガル”が、本当ならアリアが持っているはずの『二人の想い』を使って念話で接触してきた事を説明した。
『……それでユーリヤさんには相談したんだけど、彼女の考えでは、“エレシュキガル”の意図が不明な現状、
そこまで話したところで、馬車がシードルさんの屋敷に到着した。
一度エレンとの念話を中断した僕は、出迎えてくれたシードルさんの執事、ドナートさんに馬車での送迎についてお礼を言った後、自分の割り当てられた部屋まで戻って来た。
誰も居ない部屋の中、一人ベッドに寝転がった僕は、改めてエレンとの念話を再開した。
『それで、僕はどう動くべきだと思う?』
すぐにエレンの念話が戻ってきた。
『前にも話したけれど、相手が“エレシュキガル”であれば、
明後日……
ユーリヤさんが属州リディア総督のモノマフ卿の説得に成功して“エレシュキガル”討伐の軍を起こせるとしても、一週間近くはかかるのではないだろうか。
それと比較すれば
僕は心の中のもやもやがいくらか晴れる気がした。
『ありがとう』
『お礼はいらない。むしろ必要な時にあなたの傍に居る事が出来ない私の方こそ、あなたに謝らないといけない立場』
『そんな事は無いよ。エレンとノエミちゃんが神樹の間で“戦って”くれているからこそ、僕等の世界も救われている。だからやっぱり僕の方こそ、エレンとノエミちゃんにありがとうって伝えなきゃいけない立場だよ』
エレンとの念話を終えた僕は、試しにもう一度右耳に『二人の想い(右)』を装着した。
そして“エレシュキガル”に向けて呼びかけてみた。
『“エレシュキガル”、念話が届いていたら返事をしろ』
しかしいくら待っても、アリアやクリスさんも含めて、誰の念話も返って来ない。
諦めた僕は、『二人の想い(右)』をインベントリに仕舞ってから【異世界転移】のスキルを発動した。
地球のボロアパートの部屋の中。
時刻は午後3時を少し回った所だった。
こっちを出る時、午後2時だったから、ちょうど予定通り、1時間程で戻って来た計算になる。
1時間なんて、ぼーっとしていてもすぐに過ぎてしまいそうな位短いはずだけど、その短い時間の間に、僕の心は大きく揺さぶられてしまっていた。
ティーナさんとは富士第一100層の攻略を約束していたけれど、こんな精神状態ではまともに戦えそうにない。
仕方ない。
ティーナさんには事情を説明して延期させてもらおう。
僕は右耳に『ティーナの無線機』を装着した。
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