第382話 F級の僕は、表彰式に出席する


6月16日 火曜日13



結局ユーリヤさんの裁定で、僕への報酬は、希望したドロップアイテムと名誉騎士エクィテスの称号、そしてAランクの魔石500個下賜という事になった。

シードルさん達の話では、Aランクの魔石500個全てを帝国通貨に換金すれば、大体、帝国白金貨8万枚になるらしい。

この国の貨幣価値がまだよく分からないけれど、ユーリヤさんは、城が買える(!)と話していたし、いずれにせよ分不相応な位高額な報酬だという事だけは理解出来た。


そういや魔石、どれ位持っているんだっけ?


今更ながら僕はインベントリをチェックしてみた。


Sランクの魔石は……35個!

Aランクの魔石は……58個!


ここにAランクの魔石500個追加で……これってもしかして、魔導電磁投射銃400億円買えてしまう?

今日の午後の式典終わったら、均衡調整課に持って行って聞いてみようかな……


ちなみに表彰式は、昼食後、午後1時から街の外、駐屯軍の敷地内で行われるとの事であった。

なんでも街の住民達も自由に参列して、僕を筆頭に、昨日軍功を挙げた者達へユーリヤさんが直接声を掛け、報酬の目録を手渡していくらしい。

式次第が書かれた紙を手渡してくれたシードルさんが、にこにこしながら僕に話しかけてきた。


「昨日もお話しました通り、タカシ様には、街を救って下さった英雄として、また皇太女殿下おん自ら騎士エクィテスに推挙なされたお方として、お言葉を賜る予定でございますので、宜しくお願いします」

「えっ?」


……そういや、昨日の夕食の席でそんな話第365話が出ていた。

しかし実際何か話せと言われても全く思いつかない。

というより、元々性格的に目立つの好きじゃ無いんだけど……


困惑していると、ユーリヤさんが助け舟?を出してくれた。


「私から目録を受け取ったら、群衆に向かって、“危難の中にあっても昂然とこうべを上げ続けた貴方達こそ、英雄の名に相応ふさわしい。トゥマの街に祝福あれ!”とでも大声で叫んでおけば、後は人々が勝手に英雄万歳! 帝国万歳! って感動してくれますよ」

「……すみません。それ、どっかメモっといてもいいですか?」



戦功を挙げた人々に対する表彰式は、予定通り午後1時過ぎから、街をぐるりと囲む城壁の外、駐屯軍の敷地内で始まった。

何千人もの街の人々が見守る中、式典は粛々と進められた。

ユーリヤさんが顕著な戦功を挙げた冒険者や兵士達に言葉を掛け、手ずから目録を手渡していく。

そして最後に僕の順番がやって来た。


「ルーメルの冒険者、タカシ=ナカムラ!」


精霊魔法により拡声されたユーリヤさんの声が響き渡り、僕は事前に教わっていた作法に従って、彼女の目の前に進み出た。

ユーリヤさんの顔に悪戯っぽい笑顔が浮かんでいる。

僕はそれには気付かない振りをして膝をつき、こうべを垂れた。

ユーリヤさんが大きな声で宣言した。


「強大なモンスターの大群に敢然と立ち向かい、召喚門を破壊して街に勝利をもたらした。英雄とはまさに汝の為に用意された言葉と言っても過言では無い。皇太女たる私、ユーリヤ=ザハーリンの名において、汝を騎士エクィテスに推挙する」


そして彼女は目録と、名誉騎士エクィテスの称号を使用する事を許可する書状とを僕に手渡してきた。

作法に従ってそれらを受け取った僕は立ち上がった。

周囲に視線を巡らすと、数千の群衆の視線が僕一人に集中しているのが感じ取れた。


こういうのは絶対に慣れる気がしない……


心の中で小さくため息をついてから、僕は“打ち合わせ通り”群衆に向かって語り掛けた。


「危難の中にあっても昂然とこうべを上げ続けた貴方達こそ、英雄の名に相応ふさわしい。トゥマの街に祝福あれ!」



―――おおおおおぉぉぉ!



大歓声が沸き起こった。


「英雄タカシ万歳!」

「帝国万歳!」


近付いて来たユーリヤさんが、そっと囁いてきた。


「お疲れ様。英雄殿」

「え~と……これで僕の出番、終わりですよね?」


ユーリヤさんが苦笑した。


「ふふふ、数千のモンスターを前にしても顔色一つ変えなかったあなたが、こうして狼狽している姿を見るのは、ちょっと面白いですね」

「勘弁して下さい」

「冗談ですよ。とにかくこれであらかた式典は終了です。後は、夕食の時間までのんびり過ごしてもらって大丈夫です」

「ありがとうございます。多分、ちょくちょく“倉庫”に物を取りに行くと思うので、僕が留守の時には、ララノアに言づけて頂ければ」

「分かりました」



馬車に揺られてシードルさんの屋敷に帰り着いた時、時刻は午後3時になろうとしていた。

客室に戻った僕は、ララノアに声を掛けた。


「ちょっとまた向こうに行って来るよ。多分1時間位で戻って来れると思うから、誰か来たら伝言聞いておいて」


ララノアがうなずくのを確認した僕は、【異世界転移】のスキルを発動した。



ボロアパートの部屋の中。

時間的にはまだ明るさが残っているはずの窓の外は、降り続く雨のせいか真っ暗になっていた。

僕は部屋の電気を点けてから、インベントリを呼び出した。

そしてその中から『ティーナの無線機』を取り出して、右耳に装着した。

ティーナさん、確か自分が持っている親機の方で、グループトーク可能に設定しておくって話していたよな……


「関谷さん……」


僕の呼びかけに、すぐに関谷さんの囁きが返って来た。


『中村君? 戻って来たの?』

「うん。今アパートに居るけど、関谷さんは?」

『私は今、スーパーで買い物中よ』

「そっか……」


僕は机の上の目覚まし時計に視線を向けた。


時刻は間も無く午後7時になろうとしている。


「均衡調整課への連絡って、今どうなっているの?」

『あ、それならもう終わりよ。30分位前に四方木さんから電話が掛かって来て、斎原さん達が戻って来たって』


斎原さん達が戻って来たって事は……


「富士第一97層のゲートキーパーについて、何か聞いた?」

『詳しくは聞いていないけれど、なんでも午後7時から斎原さんが記者会見するって。テレビで生中継されるみたいよ』

「そうなんだ」


僕は手元のリモコンを操作して、テレビをけてみた。

ニュース番組にチャンネルを合わせると、ちょうど斎原さんの記者会見の中継が始まった所だった。

画面のテロップに、『ゲートキーパー、またも謎の消失か!?』と表示されている。


「今テレビ点けてみたんだけど、斎原さんが出ているよ」

『そう言えばそろそろ7時だもんね……』


関谷さんがなぜか口ごもっている雰囲気が伝わって来た。


「どうしたの?」

『その……買い物終わったら、中村君のアパート……行ってもいいかな?』


なんだか関谷さんが少し緊張気味でそう話してきた。

まあ、僕としては断る理由は見付からない。

というかスマホも返してもらいたいし、今日一日、結局四方木さんとどんな話をしていたのかも聞いておきたい。


「もちろん構わないよ。あと1時間位はこっちに居る予定だし」

『良かった。それで……中村君、お腹空いていない?』

「お腹……?」


表彰式の前、今から2時間ほど前に、向こうトゥマの街でユーリヤさん達と一緒にお昼ご飯を済ませたばかりだ。

正直、お腹はあんまり空いていない。

けれど……


「……あ! もしかして関谷さんはお腹空いているよね?」


ここN市の今の時刻は、午後7時2分。

そろそろ本当なら夕食の時間だ。


『う、うん。軽くパスタでも作って食べようかな~なんて……どうかな?』


なんで自分の夕食のメニューを僕に相談してくるんだろう?


「いいんじゃないかな」

『ホント?』

「? うん。いいと思うけど?」

『じゃあ急いで行くね』


急いで? 

あと1時間はこっちに居るって伝えたはずだけど……

もしかして、早くスマホを僕に返して、家に戻ってパスタを作って食べたいって事かな?


「うん。待っているよ」


関谷さんとの通話を終えた僕が、改めてテレビの画面に視線を向けようとしたところで、今度はティーナさんの囁き声が右耳に届けられた。


『Takashiって、相変わらずいい根性しているわよね?』


“ティーナモード”って事は、グループトークの設定を切っているのだろう。


「ティーナお疲れ……って、いい根性って何?」

『私が聞いているって分かっていて、Sekiya-sanにまた夕食作ってもらおうとしているし……もしかして、私にやきもち焼かせたいの?』

「やきもち焼かせたいも何も、夕食作ってもらうって何の話?」

『Duh……』

「なんで溜息?」

『まあいいわ。今ちょっと忙しいからまた後で連絡する。あ! 無線機、こっちに居る間はずっと装着してなさいよ? さもないと、飛行機の中からでも、無理矢理wormhole開いてそっちに行くからっ!』


なんで切れ気味なんだ?

もしかして僕等と別れて北京に戻った後で、何か嫌な事でもあったのかな?


それはともかく、彼女との通話を終えた僕は、改めてテレビの方に視線を向けた。


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