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第380話 F級の僕は、トゥマの政庁を訪れる
第380話 F級の僕は、トゥマの政庁を訪れる
6月16日 火曜日11
「中村君はアパートでいいんだよね? エマさんは、どこまで送りましょうか?」
昼食を終えてお店を出てから関谷さんが僕等にたずねてきた。
「うん。僕はアパートでいいよ」
「じゃあ私は関谷サンと一緒に大学に戻ろうカナ」
「分かりました」
ここへ来た時と同じく、助手席にティーナさん、後部座席に僕が乗り込み、関谷さんが駐車場から車を発進させた。
僕は前の座席に座る二人に声をかけた。
「この後、僕は一度
ティーナさんがまず言葉を返してきた。
「今日は午後3時以降、外セナイ用事があるノデ、あとの事はお二人にお任せシマス。あ、無線機での連絡は可能だと思うノデ、必要があれば呼び出して下サイ」
「私の方は今日は特に用事が無いから、中村君がこっちの世界に戻ってきたら電話……あ! スマホ、私が使っちゃっているからどうしようか?」
ティーナさんが言葉を挟んできた。
「では私の方でグループトーク設定にしてオキマスので、お互いの無線機同士でやりとりスレバいいと思いマスよ」
「分かりました」
「了解」
って答えたけれど、ティーナさんの無線機が“親機”である以上、僕と関谷さんとの会話はティーナさんに筒抜けって事だよね?
いやまあ、別に聞かれてやましい会話をする予定は無いんだけど。
10分後、僕は無事自分のアパートに帰り着いていた。
ちなみに部屋に戻って来る前に集合ポストを確認したら、ちゃんとスクーターのカギが入っていた。
そして駐輪場に置いてある僕のスクーターもガソリンが満タンになっており、セルも回る事が確認出来た。
鈴木って、意外といい奴なのかもしれない。
なんて少し思ってしまった僕は、慌ててその考えを振り払った。
あいつは基本、ストーカーだ。
これも僕に取り入るための、あいつなりの“作戦”の可能性も有る。
それはともかく、あいつはなんでまたあんなに“強さ”に
まあ色々助かったのは確かだし、今度会ったら、理由位は聞いてやろうかな……
部屋に戻って来ると、時刻は午後2時半になっていた。
って事は、向こうは午前10時半。
ターリ・ナハとアルラトゥが加わった捜索隊は、とっくにトゥマの街を出発しているに違いない。
そんな事を考えながら、僕は【異世界転移】のスキルを発動した。
「お、お帰り……なさい……」
2時間半ぶりにシードルさんの屋敷の3階、僕等に割り当てられている客室に戻って来ると、ララノアが出迎えてくれた。
「ターリ・ナハとアルラトゥは?」
「そ……捜索……隊に……」
予想通り、二人は捜索隊と一緒にトゥマの街を離れたらしい。
「それで僕の留守中、何も無かった?」
僕の言葉に、ララノアがおずおずといった雰囲気で、封書を差し出してきた。
「これは?」
受け取って封を切ってみると、ユーリヤさんからの伝言が入っていた。
『タカシ殿
タカシ殿への報酬と午後の式典について、打ち合わせをしたいので、お戻りになられたら、政庁までお越し下さい。
ユーリヤ』
僕はララノアにたずねてみた。
「この街の政庁の場所、分かる?」
ララノアが頷いた。
「こ……ここからだと……歩いて……10分……」
「じゃあ案内してもらおうかな」
ララノアの先導で客室を出た僕は、廊下で掃き掃除をしていたメイド姿の女性に声をかけた。
「すみません、今から政庁まで行って来るので、しばらくここを留守にします」
その女性は手を止めて笑顔を向けて来た。
「かしこまりました。それでは馬車の手配を致しますので、お部屋でお待ち頂けないでしょうか?」
「え? あ、いや、政庁ってここから歩いて10分位なんですよね? ララノアに案内してもらうので、わざわざ馬車なんて……」
言いかけた所で、その女性に遮られた。
「英雄殿を政庁まで歩かせた等という風聞が広がれば、旦那様の名誉に関わります」
う~ん、名誉の基準が良く分からないけれど、ここは素直に好意を受け取っておいた方がいいのかな?
「分かりました。それでは部屋で待たせて貰いますね」
ララノアと一緒に今出て来たばかりの客室に再び戻った僕は、待ち時間を利用して、アリアやクリスさん達と連絡が取れないか、確認してみる事にした。
インベントリから「二人の想い(右)」を取り出して自分の右耳に装着してから、もう何度目かになる念話を送ってみた。
『アリア……』
『クリスさん……』
しかし相変わらず何も返っては来ない。
本当に二人はどこへ行ってしまったのだろうか?
エレンが念話の中で話していたように、まさか本当に何者かによってどちらか一方、或いは二人とも拉致された?
いや、“拉致”ならまだいいけれど、まさか殺さ……
背中を冷たいものが走り抜けた。
二人を永遠に失ってしまう可能性について考えるのは、僕自身が思っている以上に、僕の心が受け付け無さそうだ。
気付くと、ララノアが心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。
僕は無理矢理笑顔を作って彼女に言葉を掛けた。
「どうしたの? そんな顔して……」
ふいにララノアの胸の中に抱きすくめられた。
「大丈夫……です……絶対……会え……」
「ララノア……」
彼女の優しさが心に
10分後、客室の扉がノックされた。
扉を開けると、先程の女性ともう一人、やや痩せ気味で片眼鏡をかけた初老の男性が立っていた。
確かこの男性、昨夜の夕食の席で、シードルさんの屋敷の執事、ドナート、と自己紹介してくれていた。
そのドナートさんが口を開いた。
「タカシ様、馬車の準備が整いました。どうぞこちらへ」
「ありがとうございます」
ドナートさんの案内で屋敷を出ると、門の前に、立派な白い二頭立ての馬車が停まっていた。
ドナートさんが、
「どうぞ、お乗り下さい」
待っている10分の間に、本当だったら、政庁に着いていたんじゃないかな、という感想は飲み込んで、僕とララノアは馬車の中に乗り込んだ。
ほんの数分で馬車は再び停車した。
外から扉が開かれ、僕等が降り立つと、目の前には3階建ての茶色いレンガ造りの建物が立っていた。
事前に連絡を受けていたのか、建物の入り口に立っていた衛兵が僕等に近付いてきて手に持つ槍を立てた。
「タカシ様、お待ちしておりました」
なんだかいちいち
僕は心の中で苦笑しながらその衛兵の案内で、ララノアと一緒にその建物――政庁――の中に足を踏み入れた。
建物の中では、衛兵から政庁の職員に、僕等の案内が引き継がれた。
「ちょうど皆様、お集まりでございます」
その職員からそう声を掛けられて、僕とララノアは、政庁1階の奥、執務室と表示された部屋へと案内された。
職員が木製の大きな扉をノックした。
「タカシ様をお連れ致しました」
「どうぞお入り下さい」
中から声が返って来て、扉が開かれた。
出迎えてくれたのは、筆頭政務官のシードルさんだった。
中は思ったよりも広かった。
部屋の真ん中には大きく立派なテーブルが置かれていた。
その上には多くの紙や書類が、所狭しと広げられており、それを数人の人々が覗き込んでいた。
僕が入って来たのに気付いた彼等は一斉にこちらに笑顔を向けて来た。
彼等の中に、ユーリヤさんの姿もあった。
ユーリヤさんが、僕に声を掛けて来た。
「ちょうど良かった。今、昨日の軍功への報酬と、今後について皆で協議していた所です。タカシ殿とも相談したい事が有るので、こちらへいらして下さい」
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