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第330話 F級の僕は、中国がスタンピード鎮圧作戦を生中継しているのを見る
第330話 F級の僕は、中国がスタンピード鎮圧作戦を生中継しているのを見る
6月14日 日曜日1
翌朝、午前5時ぴったりに僕は目を覚ました。
もちろんここ、イレフの村の宿屋にモーニングコールなんて気の利いたサービスは存在しない。
僕を起こしてくれたのは、懐に入れてあった
アルラトゥの拘束に使用しているEREN製の拘束着は、対象の能力にもよるけれど、拘束維持のため、最短数時間おきにMP50を感応装置に流し込む必要がある。
昨夜は12時前の就寝寸前にその操作を実施した。
そこで安全マージンも取って、
ベッドの上で身を起こすと、床の上に敷いた布団の中では、ターリ・ナハとララノアが仲良く寝息を立てているのが見えた。
僕は彼女達を起こさないよう、そおっとベッドから抜け出して、部屋の隅、床の上に毛布を掛けられて横たわっているアルラトゥの方に近付いた。
彼女もまた目を閉じて寝息を立てていた。
彼女を簀巻きにしている拘束着を確認してみたけれど、特に異常は無さそうであった。
僕は彼女を起こさないよう気を付けながら感応装置にMP50を流し込んだ。
これで最短でも午前11時位までは、(彼女が地球で言うところのA級以下の能力者であれば)魔法もスキルも含めて完全に行動を制限出来る事になる。
今日本来の起床予定時刻は午前7時。
その後朝食を食べて、午前8時半頃、宿を
眠気はそんなに残っていないけれど、二度寝をするか、今の内に一度、地球の様子を見に戻るか……
そういや、今日だったよな。
中国がチベットで計画していた新しい作戦って。
ティーナさん、こっそり“観戦”しに行くって話していたけど。
そんな事を考えながらベッドに戻ろうとしたところで、布団の中にいるターリ・ナハと目が合った。
さっきは目を閉じていたから、アルラトゥの拘束着を確認する小さな物音か何かで目を覚ましてしまったのかもしれない。
「おはようございます」
ターリ・ナハがそのままの姿勢で
どうやら、隣でまだ眠っているララノアを起こさないように
「おはよう」
僕も囁き声で挨拶を返した。
しかしターリ・ナハが目を覚ましているのなら、ちょうど良かったかもしれない。
「ちょっと
「分かりました」
「遅くなっても2時間以内には戻って来るから、その間、もし誰か来たら対応、お願いしてもいいかな?」
「お任せ下さい」
僕はアルラトゥが先程と同じ姿勢のまま目を閉じているのをもう一度確認した後、【異世界転移】のスキルを発動した。
地球のボロアパートの部屋の中。
今日は生憎の天気らしく、大粒の雨が窓を叩いている。
机の上の目覚まし時計は、午前9時08分を指していた。
僕は充電器に繋ぎっぱなしになっていたスマホを立ち上げてみた。
関谷さんからのメッセージが、チャットアプリに届いている。
6月14日午前8時25分……
『中国がチベットで新しい作戦開始したってテレビでやってる』
確か
中国と日本の時差を考慮すれば、予定通りだと日本時間の午前8時作戦開始って事になるけれど。
僕はテレビを
いつもは朝の情報番組をやっているはずのチャンネルだけど、今は画面いっぱいに、どこかの荒野の空撮映像が映し出されていた。
かなりの上空から撮影されているらしく、地上の細かい事物は判別出来ない。
しかし、画面の中のあちこちで魔法陣が展開されているのが見て取れる。
そして時折、咆哮とも爆発音ともつかない大きな音が響き渡り、閃光と煙が地上を覆っていく。
左上にLIVEと表示されたその映像に
「……勇気に満ちた精鋭達が、モンスターどもの群れに対し、総攻撃を開始しました。我が物顔で我が領土を侵略していた化け物どもに、世界人民の力を今こそ思い知らせてやる時がやってきたのです……」
画面がプレスセンターのような場所に切り替わった。
現地に居るのであろうリポーターに、スタジオの司会者が話しかけた。
「小田さん、T京の吉川です。今、スタジオに入ってきた映像では、いよいよ総攻撃が開始されているようでしたけれど?」
「はい。こちらラサに設けられましたプレスのパブリックビューでも同じ映像が流されています。世界中から参加したS級41名による、これが
「しかし、中国も思い切りましたね。スタンピードの制圧作戦生中継。今まで行われた事の無いこの試み、中国の狙いはどこにあると考えられますか?」
「中国は、アメリカがいまだに制圧出来ていないミッドウェイでの大規模スタンピードを念頭に置いているものと思われます。つまり、全世界への公開生中継で、アメリカに先立って中国が大規模スタンピードを制圧する様子を見せつける事で、自分達の国際的な発言力をより高めたいという思惑が見て取れます」
「中国は、今回の作戦、それだけ自信が有る、という事でしょうか?」
「そうだと思います。あと、これはまだ確認が取れていない情報ですが、中国はこの作戦に、全く新しいタイプのレーザー兵器を投入しているもようです」
再び画面が、左上隅にLIVEと表示されたあの荒野の空撮映像に切り替わった。
空撮映像の一部がクローズアップされた。
そこには、あの“ベヒモス”と思われる巨大なモンスターの姿が映し出されていた。
“べヒモス”の周囲を閃光が走り、切り裂かれたらしい体表から、青い
猛り狂っているらしい“ベヒモス”が咆哮を上げ、周囲の地面が
恐らく参戦しているS級達の誰かによる攻撃によるものだろうけれど、とにかく、“ベヒモス”に傷を負わせる事が出来ている!?
中継でも、中国が新兵器を投入しているって話が出ていた。
曹悠然の言葉通り、本当に中国の戦術高エネルギーレーザー兵器(THEL)が、あの黒い結晶体の機能の一部を封殺しているって事だろうか?
僕はインベントリから『ティーナの無線機』を取り出すと、右耳に装着した。
そしてテレビに視線を向けながら、ティーナさんに
「ティーナ、今どこ?」
『Takashi? 今、Hawaiiの総合対策centerに詰めているところ』
ティーナさんが、いつも以上にヒソヒソ声で囁きを返してきた。
周囲に人がいるのかもしれない。
それにしても、ハワイ?
「チベットには行かなかったんだね?」
『こっそり観戦しに行く予定だったんだけど、中国がいきなりやらかしてくれたから、抜け出せなくなったのよ』
「やらかしたって、全世界に生中継ってやつ?」
『そう。日本でもやっているでしょ?』
「うん。今見ているところ。生中継って、曹悠然が話していたTHELでの先制攻撃の場面から始まったの?」
『中国は、THEL使用の場面は流していないわ。今日のHawaii時間正午、
関谷さんからのメッセージ、受信時間は朝の8時25分だった。
つまり関谷さん、実際の生中継が始まってすぐ、僕にメッセージを送信してくれたって事だろう。
「テレビで見たけれど、“ベヒモス”に攻撃、命中していたよね?」
『そうみたいね。中国がもし本当にこのまま完全勝利を収める事に成功するのなら、悔しいけれど辞を低くして、彼等に情報提供を求める事になるわ』
ティーナさんからの囁きが終わるか終わらないかのタイミングで、突然テレビの空撮映像いっぱいに白い光が広がった。
そして次の瞬間、画面がザーザーと言う音と共に、ノイズで
すぐに、T京のスタジオに画面が切り替わった。
司会者が、やや怪訝そうに口を開いた。
「……チベットからの中継映像に乱れが生じているようです。復旧するまでしばらくお待ち下さい……」
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