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第42話 F級の僕は、カイスと公開訓練に臨む
第42話 F級の僕は、カイスと公開訓練に臨む
5月16日 土曜日7
オシャレなカフェのようなお店でのランチを終えた僕は、改めて、アリアに提案してみた。
「さっきの話だけどさ」
「さっきって、もしかして、アールヴ行きの護衛依頼?」
「そうそう。あれって、僕等で引き受けられないかな?」
「え~~~!? 黒の森だよ? レベル40無いと、瞬殺されちゃうよ?」
「まあでも、他に強そうな人と一緒に護衛依頼受けるの、どうかなって。報酬良いし。それに、ノエミちゃんも……」
「そっか、ノエミちゃんの事があったね……」
アリアは、考え込んでしまった。
「その依頼って、冒険者ギルドに行けば、詳しい話聞けるかな?」
「うん、聞けると思う。とりあえず、行ってみる?」
僕とアリアは、連れ立って、冒険者ギルドに向かった。
数日ぶりの冒険者ギルドの建物内は、相変わらず、多くの冒険者達で賑わっていた。
その人ごみの中をかき分けて、掲示板の前に行くと、その依頼は、一際目立つように貼り出されていた。
【至急! アールヴ神樹王国までの護衛依頼。黒の森経由。報酬200万ゴールド】
僕とアリアは、その依頼の整理番号を控えると、カウンターに向かった。
カウンターに近付くと、僕等に気付いたらしい、獣人のレバンさんが、声を掛けてきた。
「アリア、お帰り。って、一緒にいるのは、タカシじゃないか? 大丈夫だったのか?」
大丈夫だったのか? っていうのは、もしかして?
「レバンさん、お久し振りです。大丈夫だったのかって……?」
僕は、レバンさんに挨拶を返しながら、聞いてみた。
「アリアから聞いたよ。お前さんが、誰かに拉致されたって。ギルドに捜索依頼出そうか、悩んでたぞ?」
「えっ? そうだったんですね」
アリアの方を見ると、少し赤くなって
「だって、いきなり拉致されたの、二度目でしょ? それに、今回、なかなか帰ってこなかったし。酷い目にあってるんじゃないかって……」
アリアって、やっぱり、とても良い子だ……
アリアの優しい気持ちが痛い程伝わってきて、僕は不覚にも少し涙腺が緩んでしまった。
「アリア……心配してくれてありがとう」
「う、うん」
そんな僕等に、レバンさんが少し呆れたような声を掛けてきた。
「こらこら、そういうのは二人っきりの時にしてくれ。ほら、後ろ、詰まってるぞ?」
振り返ると、いつの間にか後ろに並んでいた冒険者が、若干イライラした顔をして立っていた。
僕は、後ろのその冒険者に軽く頭を下げた後、改めて、レバンさんに話しかけた。
「すみません、この依頼についてお聞きしたいのですが……」
レバンさんは、僕の持ってきた依頼の整理番号を目にすると、ちょっと驚いた顔になった。
「この依頼受けたいのか?」
「一応、検討してみようかな、と」
「しかし、黒の森経由だぞ? 大丈夫か?」
「この依頼って、他に強そうな人と組んで受けたりって、出来ないですか?」
「そりゃ出来るけど、誰か心当たり有るのか?」
「それは……」
……無いので、誰か紹介して貰えませんか?
しかし、僕が最後まで言い終わる前に、横から声が掛かった。
「おや? 愛しのアリアじゃないか。こんな所で君に会えるなんて、僕はなんて幸せ者なんだ」
声の方を見ると、カイスとその取り巻きの女の子達が立っていた。
見た所、カイスは元気そうだった。
朝、思わず投げ飛ばしてしまったが、後遺症も残って無さそうで、僕は、少しホッとした。
一方、カイスの姿を目にしたアリアの顔には、うんざりしたような表情が浮かんでいた。
「あら、カイス。私は、今、少し不幸な気分よ」
「それはいけない」
カイスは、大仰に心配したような顔をして、アリアの傍にササっと寄ってきた。
「君を不幸にするモノ全ては、ぼくが切り払って見せよ……ん?」
カイスは、言葉の途中で、僕とアリアが、カウンターに出している整理番号を書き留めた紙に、気付いたようであった。
「それは……確かアールヴ行きの?」
アリアが、カイスの視線を遮るように移動した。
「気にしないで。私とタカシで受けるかどうか考えている所だから。あなたには関係ない」
「君と、こいつで?」
カイスが、馬鹿にしたような表情で、僕を見た。
僕は、朝の事もあって、カイスからそっと視線を外した。
「アリア、僕にとって君がどんなに大事な存在か知ってるだろ? こんなレベル1の冒険者と、黒の森に行こうだなんて、そんな無謀な事、僕が許すわけないじゃないか」
カイスが、アリアの腕を掴もうと、手を伸ばしてきた。
僕は、それを反射的に
僕に手を掴まれたカイスが、氷のような視線を向けて来た。
「おい、なんのつもりだ?」
僕は、慌ててカイスの手を離した。
「すみません、アリアが嫌がってるみたいなので……」
「なんだと?」
カイスは、僕に凄んできた。
そんな僕とカイスの間に、アリアが割り込んできた。
「ちょっと、カイス! あなたには関係ない話してる最中だって、言ってるでしょ?」
「関係なくはないな。君は、いずれ僕の大事な宝石箱に収まるべき女性だ。そんな君が危険に近付こうとするのをみすみす……」
「すまんが、他でやってくれんかな?」
見かねたレバンさんが、口を挟んできた。
カイスは、やれやれといった顔になった。
「レバンさん、ギルドの訓練場、借りてもいいかな?」
「訓練場? 何に使うんだ?」
カイスは、わざとらしく、自身の金髪を手櫛で掻き上げた。
「なあに、新人冒険者に、ちょっと稽古をつけてあげようと思っただけですよ」
そして、僕の方に、人差し指を突き付けて来た。
「おい、そこのお前! お前が、アリアにふさわしいかどうか、僕が直々に確かめてやる!」
ギルドの訓練場は、建物裏手に併設されていた。
主に、大人数のパーティーに所属する初級者に、上級者が、戦闘技術を実地で教授するために使用される設備だ。
広いグラウンドのような敷地の周りには、強力な魔法結界が張られている。
訓練は、その内部で行われ、いかに激しく戦おうとも、魔法結界のお陰で、周囲にその余波が及ばないように設計されていた。
訓練を行う者は、あらかじめ用意されている訓練用の武器と防具を使用する事が義務付けられていた。
武器は、軒並み刃を潰された殺傷力の低い物、防具は、防御力が高い物が揃えられていた。
訓練場の使用者は、誓約書を書かされる。
1. 訓練場内で相手を殺さない
2. 訓練場内での事故で後遺症が出ても、完全に自己責任
そして、僕は今、カイスと向かい合って立っていた。
僕は、当然、カイスからの挑発に、頭を下げて、勘弁して欲しいと、懇願したのだが……
ちらっと振り返ると、たくさん集まっている野次馬に混じって、アリアの姿が見えた。
彼女は、僕と目が合うと、両手を合わせてごめんなさいのポーズを取っていた。
そう、カイスの態度にキレてしまったらしい彼女が、勝手に喧嘩を買ってしまったのだ。
ありがちなやり取りの末、結局、僕は、今からカイスと“公開訓練”を行う事になってしまったのだ。
カイスが、周囲の野次馬達に向けて、右手を振って見せた。
主に、女性陣からの嬌声と、男性陣からのブーイングが混じって、大騒ぎになった。
まあ、顔だけみれば、僕等の世界でアイドルやれそうな位のイケメンだしな……
僕が、この“公開訓練”をどう切り抜けようか考えていると、こちらに向き直ったカイスが、勝ち誇ったような顔をして、話しかけてきた。
「可哀そうなお前に一つ良い事を教えてやろう。僕は、レベル41。つまり、この街で最もレベルの高い冒険者だ。僕のような人生の勝利者から直接指南してもらえるんだ。感激でむせび泣いても良いんだぜ?」
うん。
この男の価値観は、一生理解できない事が改めて確認できた。
それにしても、レベル41か……
今朝、カイスを易々と投げ飛ばせたのは、もちろん、彼が油断してたからっていうのが一番だろうけど、僕とカイスとのレベル差も影響してたのかも。
僕が、そんな事を考えていると、カイスが周囲の野次馬達に向けて、大きな声で語り掛けた。
「みんな、聞いてくれ! 僕は、弱い者いじめは、好きじゃない。だから、ここに宣言しよう! この公開訓練は、彼が一太刀でも僕に入れる事が出来れば、直ちに終了する事を!」
―――キャー、カイス、素敵!
―――死ね、イケメン!
野次馬の歓声と罵声が、一際大きくなった。
そして、僕とカイスとの公開訓練が始まった。
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