第5話 F級の僕は、レベルが上がった


5月10日 日曜日4


その後も、僕は、順調にスライムを倒し続ける事が出来た。

こんな僕でも、装備さえ整えれば楽に勝てるモンスターがいる、という事実は、少なからず、僕に自信を与えてくれた。

そして、11匹目のスライムを倒した時、それは起こった。



―――ピロン♪



スライムを倒しました。

経験値100を獲得しました。

Fランクの魔石が1個ドロップしました。

レベルが上がりました。

ステータスが上昇しました。



レベルが上がった?

ステータスが上昇した?


僕は、ドキドキしながら、ステータスウインドウを開いた。



Lv.2

名前 中村なかむらたかし

性別 男性

年齢 20歳

筋力 1 (+1)

知恵 1 (+1)

耐久 1 (+1)

魔防 0 (+1)

会心 0 (+1)

回避 0 (+1)

HP 10 (+10)

MP 0 (+1)

使用可能な魔法 無し

スキル 【異世界転移】【言語変換】

装備 鉄の小剣 (攻撃+10)

   皮の鎧 (防御+15)



確かに、レベルが2に上がっている!

そして、ステータスは……

ステータスは、上がっていない?

いや、数値の横の()カッコの中の数値が、+0から、+1に変わっている。

これが、上昇分という事だろうか?



僕が、首を傾げていると、アリアが声を掛けてきた。


「どうしたの?」

「今、レベルが上がったんだけどね……」

「えっ? レベルが上がったの?」

「うん。レベル1だったのが、レベル2に」

「ええ~~~!?」


アリアが、物凄い勢いで驚いている。


「ど、どうしたの?」

「タカシって、モンスター倒した事無いって言ってなかったっけ?」

「うん」

「ということは、今日、1匹目のスライム倒すまでは、経験値ゼロだったのよね?」

「うん」

「じゃあ、スライムたった11匹倒しただけで、レベルが、1から2に上がったって事?」

「そうなるのかな」

「えええ~~~~!?」


アリアが、先程にも勝る勢いで驚いた。


「なんかおかしいかな?」

「おかしいでしょ? レベル1から2に上げるのに、私なんか、スライム、1000匹以上倒さないとダメだったのに」

「そうなの?」


もしかすると、レベル上昇に必要な経験値に、個人差があるのだろうか?


「たまたま、僕がレベル上がりやすい体質、とか?」

「そんなの無いよ? みんな、レベル上がるのに必要な経験値って、同じだもん」

「そうなんだ……」


僕は、もう一度、ステータスウインドウを出して、Lv.2の部分を指で触れ、説明文を表示した。


『次のレベルまで、あと1,400の経験値が必要です』


「レベル2から3に上げるのに、経験値1,400必要みたいだね」

「そうね、そんなもんだったと思う」


僕の言葉に、アリアが、答えた。


「じゃあ、スライム1匹倒して、経験値100だから……」

「待って!」


僕が、次のレベルに上がるのに必要なスライムの数を確認しようとするのを、アリアが遮った。


「どうして、スライム1匹で経験値が100も手に入るの? スライムの経験値は、1でしょ?」

「ええ~~~!?」


今度は、僕が驚いた。


「だって、今日スライム11匹倒して、合計1,100経験値入って、それで……」


僕の言葉を聞いたアリアが、難しい顔をしたまま考え込んでしまった。


「アリア?」

「……つまり、理由不明だけど、タカシは、スライム1匹倒すだけで、経験値100ずつ獲得してたって事?」

「うん」

「ちょっと! それって、チートじゃない! あたしなんか、Lv.1からLv.2になるのに、半月以上かかったのに!」


アリアは、むくれてしまった。

僕は、懸命に彼女を宥めようと試みた。


「ごめん。でも、なんでこんな事になってるのか、僕にも心当たり無いんだけど」


アリアは、気持ちを落ち着けるように、深呼吸した。


「でも、ヘンね。獲得経験値が増えるスキルっていうのも聞いた事無いし。タカシって、何者?」

「ホント、僕って何者なんだろうね?」

「ちょっと、なにそれ?」


アリアは苦笑した。


しかし、本当に、これはどういう事だろう?

もしかすると、僕が、本来はレベルも経験値も存在しない、地球出身なのも影響しているのだろうか?

ともかく、僕は、この世界では、かなりイレギュラーな存在なのかもしれない。

こういう話って、広まってしまえば、今後、もし僕がこの世界で何かする時、色々不都合な事が起こるかも。


そう考えた僕は、アリアに声を掛けた。


「ごめん、アリアにお願いがあるんだけど」

「何?」

「この話、ここだけにしといて貰えないかな? ほら、僕自身、記憶曖昧だからさ。ヘンな話が広まってしまうと、何かと具合が悪いかな、と」


アリアは、しばらく僕の顔を見ていたが、やがて微笑んだ。


「分かった。秘密にしといてあげる。その代わり……」


アリアは、悪戯っぽい笑顔で、僕の顔を覗き込んできた。


「これからも、一緒に冒険してくれる?」

「それは、こっちからお願いしたい話だよ」

「やったー」


アリアは、思いの外喜んでいる。

僕は、少し不思議に感じたので、たずねてみた。


「でもいいの? 僕、この世界の事、全然知らないし、レベルだってまだ2だし」

「何言ってるの? タカシは、もしかしたら、ガンガンレベル上がっちゃうかもしれないって事でしょ? だったら、一緒にいれば、直に、私の方が、色々楽出来るって事じゃない」


そうか、そういう考え方もあるか。


「途中で私を捨てたら、承知しないからね?」

「捨てたりなんかしないよ」


そろそろ、お昼の時間帯。

なんだか、他の人が聞いたら絶対に誤解しそうな会話を交わしつつ、僕等は一旦、街に戻る事にした。



お昼過ぎ、僕等は、ルーメルの街の冒険者ギルドに戻って来ていた。

一階の、雑然とテーブルが並んでいるホールは、特に今の時間帯、昼食を楽しむ大勢の冒険者達で賑わっていた。

僕等は、幸いにも二人掛けの空きテーブルを見付けて、そこに腰を下ろす事が出来た。

料理を注文した僕等は、午後からの計画を話し合う事にした。

と、向こうから、なんだか妙にキザな笑顔を浮かべた冒険者らしい青年が一人、こちらに近付いて来るのが見えた。

年齢は、僕と同じ位であろうか?

高価そうな鎧を身に纏い、剣を腰に吊るした金髪のイケメンは、僕等の傍までやってくると、わざとらしく髪をかき上げ、アリアに声を掛けてきた。


「やあ、愛しのアリア、ご機嫌いかがかな?」


声を掛けられたアリアは、少し嫌そうな顔をして、言葉を返した。


「あら、カイス、あなたも元気そうね」

「僕はいつだって元気さ。特に、今は、輝く君の笑顔が、僕に向けられているからね」


ちなみに、アリアは、笑顔と呼ぶには、程遠い表情をしている。


「アリア、ところであの話、考えてくれたかな?」

「……あの話は、断ったはずよ?」

「そんなに照れなくても良いんだよ。そうそう、僕等、向こうで食べてるんだけど、君も一緒にどうかな?」


そう話すと、カイスは、アリアの腕を掴んだ。


「ちょっと、放してよ!」

「いいからいいから」


アリアは、明らかに嫌がっているようだった。

僕は、少し迷った挙句、カイスに声を掛けた。


「えっと……嫌がってるみたいなんで、放してもらっても良いですか?」


カイスは、僕の方に視線を向けてきた。


「おや? 今、何か聞こえた気がしたけど、気のせいかな?」

「気のせいじゃないと思います」

「あ?」


カイスが、僕に顔を寄せてきた。

そして、僕が首から掛けていた冒険者登録証に目をやると、馬鹿にしたような表情になった。


「おいおい、レベル1の駆け出しが、俺に話しかけてくんじゃねえよ」

「それとこれとは、話が別と言うか……」


カイスの勢いに気圧された僕は、しどろもどろになってしまった。


「この女は、俺のモノだ。クズは引っ込んでろよ」


―――ガチャン!


テーブルの上に置かれていたガラスコップが、床に転がり落ちて割れた。

見ると、アリアが、凄まじい怒りの表情を浮かべながら、テーブルに手をついて立ち上がっていた。

いつの間にか、周りが少し静かになっていた。

周囲の冒険者達も、それとなく、こちらの様子を伺っている。


カイスは、アリアの表情と周囲の様子に気付くと、わざとらしく髪をかき上げ、アリアに話しかけた。


「分かったよ。返事は、また今度聞かせてもらうよ」

「だから、断ってるでしょ!?」

「そんなに怒ったら、可愛い顔が台無しさ」


カイスは、アリアの怒りを大して気にする風でも無く、颯爽と去って行った。


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