第8話 ウィルスの策略
その時だった。
「フッフッ……」
それは右席のマリーの声だった。
「マリーどうした?」
彼女の顔は宇宙服のヘルメットのバイザーでよく見えない。
「やっと、地球へ行けるわ。計画通りね」
よく見ると、マリーのヘルメットの中、彼女の顔の前を黒い物体が飛んでいる。
「えっ? マリー……、君は……?」
彼女が僕の方を振り向くと彼女の顔の表面に黒い
「私はとっくに感染してた。でも彼らは私達が思っている以上に利口よ。もっと繁殖する為、どうやって人類の母星に到達するか? それを熟考して私の脳にのみ感染して、私の身体を操っていたの」
「えっ? なんだって?」
もうマリーの顔は真っ黒だ。
「他の仲間も潜伏していて国際宇宙ステーションに到着して一気に感染を拡大させたわ。そして私が地球へ感染を広げる……」
「そんな……」
僕は大きく首を振った。
「私が地球からの通信を遮断して、酸素の量を減らしたの。地球からは帰還するなと云う通信がずっと入ってたけどね……。貴方が地球帰還を選択せざるを得ない状況を作った……」
僕は余りの衝撃に言葉も出なかった。マリーのヘルメットの中はもう黒いウィルスで一杯だ。
「大丈夫、貴方も直ぐに仲間よ。そして人類を喰いつくしましょう」
そう言いながら、マリーはヘルメットのシールドを上げようとしている。ウィルスをコックピット内に撒き散らすつもりだ。
僕に残されたオプションは一つだけだ。
僕は腰に付けていたハンドブラスターをシャトルのコックピットのウィンドシールドに向けて躊躇すること無く引き金を引いた。
その瞬間ウィンドシールドが破壊され、コックピットの与圧が宇宙空間に抜けた。その激しい空気の流れは、マリーの宇宙服からコックピット内に飛び出した黒色ウィルスを全て宇宙空間へ吸い出してくれた。
気がつくと右席には"マリーだった"空の宇宙服が残されているだけだった。
しかし、ウィンドシールドに穴の開いたシャトルで大気圏突入は不可能だ。もう大気圏突入まで五分を切っている。
僕はコックピットの座席から立ち上がるとシャトルの貨物室に向かった。
そこには緊急脱出ポッドが装備されている。
そのポッドに搭乗すると、僕はボッドの射出ボタンを押した。ロケットモータの力で脱出ポッドがシャトルから射出された。
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