第5話 夜にイイコトをしてくれるお姉さんは昼は保母さんです

 俺がいるから妖怪みたいなのが襲ってくると言われても、俺が悪いわけではないのだから勘弁していただきたい。そう思っていたのだけれど、今みたいに女の子たちに助けられっぱなしなのはどうも落ち着かない。そこで、三人に相談してみたところ、本格的な修行とかは無理だと思うけど、俺の家の近くで能力を診断してくれたり向上するためのプランを立ててくれる案内人がいるらしい。もちろん、無料というわけではないみたいなのだけれど、お年玉貯金を切り崩せば何とかなるくらいの金額らしい。お年玉は貯金していなかったからいきなりのピンチを迎えてしまったのはすぐにバレていた。


 鵜崎さんの実家は有名な霊能力者が集まっていて、その元締めが鵜崎さんのお婆さんらしいのだけれど、高校を卒業しても妖怪たちに襲われるようだったら修行しに来ていいよとのお誘いを頂いていた。ちなみに、鵜崎さんは高校を卒業したら外国に修行の旅に出るらしい。深い意味は無いのだけれど。


 結局、三人の中で俺の悩みを真剣に考えてくれるのは鵜崎さんだけで、麗奈もアリスも俺が弱いほうが守りがいがあって楽しいと言っている。きっと、それは本心だと思うのだけれど、完璧な人間ではないからそういう発想になってしまっていると俺は思う事にした。鵜崎さんも若干そう言う傾向がみられるけれど、俺はそれに気付かない振りをしてやり過ごしていた。


 近所の診断してくれる人がどんな人なのかわからないけれど、説明を求めても三人とも会ったことが無いと言っていた。どうしてかというと、三人ともそれ系で助言を求めることは無いし、各自に独立した情報網を構築しているらしいので、他から不確かな情報を入手する必要もないそうだ。

 それにしても、近所と言われていたけれど、家から歩いて五分も経たずに目的地に着きそうだという話になっている。俺には全く感じないけれど、ちゃんとした能力がある人には感じることが出来る波動が垂れ流されているとの事で、それを追っていけば看板とかが無くても目的地に着くことが出来る。ソレだとしたら、俺一人では辿り着くことも出来なかったという事だ。


 気のせいかもしれないけれど、皆で向かっている道が物凄く馴染みのある道になっていて、何だったら昨日もこの道を通っていた。その時は親戚のお姉さんに夕ご飯を届けに行ったのだけれど、思いのほか世間は狭いのだとその時に感じてしまった。

 そして、目的地を見た時には、世界は俺を中心に回っているのだと確信することになってしまった。


 噂の診断所は俺の親戚のお姉さんの家だった。もしかしたら、誰かと同居していてその人が相談に乗ってくれるのかもしれない。今まで平日は晩御飯を届けに行く事が多かったんだけど、いつも一人分だけしか持って行っていないし、部屋の中にも誰かが隠れている形跡はなかったと思う。幽霊的なのが住んでいるとしたら、そこは早々に引き払っていただきたいとさえ思ってしまった。


「ねえ、目的地に着いたと思うんだけど、聖斗の顔色大丈夫?」

「あ、ちょっとここは良くないと思うんだけど、他のとこにしようよ」

「何言っているのよ。高校生のお小遣いで見てもらえるところなんて他にないのよ」

「いや、そういう心配をしているんじゃなくて、ここって昨日も来たんだよね」

「なんで?」

「なんでって、晩御飯を届けに」

「どうして?」

「親戚のお姉さんが一人暮らししてるからって、近所に住んでるって理由で平日はご飯を届ける係になっているの」

「案内人と親戚だなんてやっぱり鈴木君は普通じゃないのね。それにしても、そんなに身近な人に凄い人がいるなんて羨ましいわ」

「それを美春が言うのはおかしいと思うけど、ツッコんだら負けなのかな?」

「負けじゃないですよ。ミハルの方が人脈は異常ですからね。日本最強がゴロゴロいるですもんね」


 そんなこんなで呼び鈴を押してみると、いつもと変わらない愛華姉さんが出てきた。俺の姿を見て笑顔になってくれたけれど、後ろにいる三人の女の子を見た瞬間に表情が曇ってしまった。親戚の子が女の子を三人も連れて遊びに来たらいい予感はしないだろう。


「あのさ、愛華姉さんって案内人なの?」


 俺は話を逸らそうと思っていたのだけれど、いきなり革新的な話から入ってしまった。


「うん、そうだけど。それで今日はこの三人と一緒なんだね」


 愛華姉さんはちょっとやり直すから五分くらい待ってくれと言って部屋の中に戻って行ってしまった。俺たちはそれを受け入れて、今見たことは無かったことにして五分くらい待っていた。

 俺のスマホに愛華姉さんから連絡が入ったので、呼び鈴を鳴らしてみた。


 すると、ゆっくりとドアが開いているのだけれど、そこには誰もおらず、賃貸なので自動ドアではない事も確かなので、見えない何かがドアを開けているのだと理解した。

 ドアが完全に開ききると、部屋の奥の方から強い光に照らされてしまい、そこに立っている愛華姉さんの顔が見えなかった。きっとすました顔をしているのだろう。

 愛華姉さんが一歩ずつこちらに近付いてくるのと、周りから恐ろしいほどのスモークが焚かれていた。ここは賃貸アパートなのだけれど大丈夫なのか心配になるくらいの演出がこれでもかと言わんばかりに続々と繰り広げられていた。


 一通り演出を追えて満足したのか、愛華姉さんは俺たち四人を中に招き入れると、いつもとそんなに変わらない愛華姉さんに戻っていた。愛華姉さんはいつもと変わらないのだけれど、部屋の空気はいつもと違って重苦しくて息苦しかった。


「じゃあ、いつもなら色々と質問をして考えていくんだけど、聖斗君はどういった用事でここに来たのかな? 晩御飯の器を回収するにはまだ早いよね?」

「それなんだけどね、この三人の話だと俺は妖怪たちにたくさん狙われてしまうらしいんだけど、一人でもなんとか出来るくらいになれればと思って案内人の人を訪ねてきたんだよ」

「そっか、聖斗君は潜在的な能力は高いと思うんだけど、そのチャンネルに合わせることが出来ない人だもんね。よし、三人の為にもお姉さんは頑張っちゃうよ」


 そんなほほえましいやり取りをしていると、俺の後ろで待っている三人も少しだけ会話に混ざりたそうだった。気にせずには行って来ればいいのにと思っているけれど、鵜崎さんはともかく麗奈とアリスが大人しいのは気になってしまった。


「あ、お仕事モードのままにしてたんだった。今戻すから待っててね」


 愛華姉さんは箪笥の上に飾ってあるぬいぐるみに何かを伝えると、部屋の空気がいつもの感じに戻った気がしていた。


「ごめんね、仕事の時は集中してやりたいから強い人には黙っててもらうんだけど、それを今もやっちゃってたよ。聖斗君の知り合いなら問題ないと思うんだけど、聖斗君はモテモテだね」

「いやいや、そういう関係ではないんだけどね」

「でも、聖斗君は気付かないかもしれないけど、昔からモテてるんだよ」

「俺がそんなにモテてたなら彼女出来てるじゃん」

「ああ、そうだよね。ごめんごめん。聖斗君がモテるのは妖怪とか物の怪とかそう言った感じの女性だもんね」

「ちょっと、それは知らないけどショックだわ。愛華姉さんもそんな冗談言わなくてもいいのに」

「え、だって、今日だって狐ちゃんと蝙蝠ちゃんと幽霊ちゃんと仲良くここに来たじゃない」

「愛華姉さんってこの三人の事がわかるの?」

「もちろんわかるわよ。それくらい見抜けなかったら案内人なんて出来ないし。って言いたいところなんだけど、私達の業界ではこの三人は有名だから一目見ただけで正体はわかるのよね」


 三人は少し複雑そうな顔をしているけれど、もしかしたら有名になる事は良い事ばかりではなく悪い事もあるのではないだろうか。特に、彼女たちのような事をやっていると顔と名前が知れ渡っているのは悪い事の方が多そうだ。


「それにしても、あなた達の誰かか三人が聖斗君の封印を解いたでしょ。本当ならもう少し大人になってから始める予定だったんだけど、今の状況なら仕方ないかもしれないわね。もう少しいろんなことを経験して心を成長させてからの方が良かったと思うんだけど、今ももう大人みたいなもんだし大丈夫かもね。うん、大丈夫だって信じるか」

「あの、聖斗と案内人さんは完全な人間なんですか?」

「ええ、完全な人間よ。その点では幽霊ちゃんとは少しだけ違うかもしれないわね」

「でも、昔から人間なのに何か他の子と違うように思ってたんですけど、それってお姉さんが聖斗の力を抑えてたからなんですか?」

「私がしたのは手伝いだけなんだけど、力を抑えるのは幽霊ちゃんのお婆さんに頼んだのよ。お婆さんと幽霊ちゃんは波動が近いから聖斗君の封印が反応しちゃったのかもね」

「聖斗の力ってやっぱり凄いんですか?」

「凄いと思うけど、私には多分無効なんだよね。と言うか、妖怪とか物の怪の雌にしか反応しない技と言うか、何て言うんだろう。そうね、簡単に説明すると、聖斗君の力って人間以外の雌にしか効かないんだ。どういう風に効くかって言うと、近くに行くとどんな妖怪の雌でも性的興奮を覚えてしまって無抵抗になってしまうってことなのよ」


 愛華姉さんの説明を聞いて俺は酷すぎる力に落胆してしまったけれど、三人の美少女は思いっきりドン引きしていた。俺が三人の立場だとしても、同じようにドン引きしていただろう。


「それって、ウチラにも効いたりするんですか?」

「効くと思うんだけど、今は想像を絶するくらい妖力に差があるわけだし、差が激しいとそんな効果は無効になっちゃうと思うんだよね。でもね、近くにずっといるくらいだったら影響ないかもしれないけど、長い時間肌が触れ合っていると影響出てくるかもしれないわね」

「じゃあ、ウチが聖斗と手を繋いで歩いていたら大変な事になっちゃうかもしれないってこと?」

「そうだと思うんだけど、どれくらいの間なのかはわからないわ。今も蝙蝠ちゃんが聖斗君の足に抱き着いているけど普通な感じだしね」

「でも、それでどうやって強くなるんですか?」

「この能力を設計した人は頭がおかしいと思うんだけど、聖斗君の力で幸せを感じた相手が多ければ多いほど、その幸福感が深ければ深いほど経験値が溜まっていって、妖力自体は強くなっていくみたいね。どこまで強くなるのかはわからないけど,きっと限界は無いんじゃないかなって思うのよね。底が見えないからアドバイスらしいアドバイスも出来ないんだけど、とにかくその三人に守ってもらいながら妖怪の類と戦っていればいいと思うよ」

「女の妖怪だったらそれでもいいと思うんですけど、鈴木君だって男の妖怪に襲われるときもあると思うんですけど、その時はどうしたらいいんですかね?」

「それなら何の問題も無いよ。色々あって妖怪世界からこちらに来れるのは女の妖怪だけみたいだからさ。男の妖怪は神との戦争でほとんど死んでしまって、わずかに生き残った男妖怪も奥で静かに暮らしているみたいだからね」


 それにしても、俺の能力ってイマイチどころかイマニ、イマサンくらいの使えなさのように思えてしまう。何となく麗奈に触れてみようかと思って手を伸ばしたのだけれど、俺が麗奈に触れることは出来なかった。本気で避けている妖狐に触れることが俺には不可能な事にしか思えない。アリスはアリスで俺が触れようとすると半実体化状態になって触れることが出来なかった。何となく鵜崎さんに触れてみようと思って肩を触ろうと手を伸ばしたところ、急に振り向いた鵜崎さんの胸を触ってしまった。大きさはそれ名入りだったけれど、一瞬だけ触れた感じだけど、やわさの中にもハリがある感じだった。ちゃんと謝罪しようと思っていると、鵜崎さんはそのまま部屋を飛び出して行ってしまった。


「ああ、聖斗に胸を揉まれたら性的興奮とか発情レベルになっちゃうかもね。ウチだったらしばらく近寄れないかも」

「でも、ミハルはそんな感じじゃなかったように見えるけど、アリスもマサトに触れられないように気を付けなくちゃね」

「君たち二人は気を付けた方がいいと思うけど、幽霊ちゃんは幽霊に取りつかれているってだけで、普通の女の子だからそういう効果は無いと思うんだよね。憑いてる幽霊もそれは大丈夫だって言ってるんだけど、もしかしたら聖斗君の事意識してるのかもね」

「今までそんな感じはなかったと思うけど、もしかしたらあるかもしれないね。この前二人で怪しい感じだったしね」

「マサトとミハルが付き合ったらレナは泣いて寝れなくなっちゃうかもしれないもんね」

「そんな事無いって。これからのアリスは考えてから喋ろうね」


 俺の能力のせいで三人がぎくしゃくしなければいいなと思っていたんだけど、今の感じだと鵜崎さんにだけ触れないように気を付ければいいのかもしれない。この二人には本気を出したとしても触れることが出来ないだろう。


「そうそう、これから晩御飯を届けてくれる時に成長具合見てあげるし、それに対してのアドバイスを送るよ。昼は仕事で忙しいし、学校が無い日だったら一晩中相手をしてあげてもいいんだけどね。そっちの二人も聖斗君に対する耐性を付けといた方がいいと思うんだけど、暇があったら来ていいからね」

「二人だけじゃなくて私もいいですか?」


 いつの間にか戻ってきていた鵜崎さんがそう尋ねると、愛華姉さんは嬉しそうに微笑んでいた。


「もちろん大歓迎よ。私だけじゃできない事もあるし、みんなで協力して聖斗君を強くしましょうね。それと、私の事は愛華お姉さんって呼んでいいからね」

「わかりました。お姉さんの邪魔にならないようにします」

「私も鈴木さんの邪魔をしないように気を付けますね」

「あたしもアイカの力になれるように頑張るよ」


 僕を見つめる四人の目が獲物を見つけた動物のように見えてしまった。そんなことは無いと思うけれど、夜通しと言われても途中で帰ることにしよう。


「途中で逃げる事なんて許されるわけないでしょ。朝までたっぷり楽しませてあげるからね」


 心を読まれないようにする方法を教えてもらわないといけないなと思ってしまったけれど、これも筒抜けなんだろうなと思ってしまった。

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