第4話 死んだ姉に憑りつかれてしまったことで世界最強の霊能力者になった女

 学校にはほとんど来ていないのに学年主席の生徒が俺のクラスにいる。何か秘密があるのだろうと思っていたけれど、その秘密は俺が予想していたのとは全く別の方法であった。俺には真似できないし、世界中を探してみても同じことが出来る人は一人いるかなくらいだと思う。

 その方法は、亡くなっている自分の姉を使って他の人の答えを盗み見るという事だ。元々優秀な霊能力者の家系に生まれていて、その中でも数世代に一人の天才児と呼ばれていた女の子だからできる技だろう。俺には真似が出来ないし出来たとしても勿体ないのでそんな事には使わないと思う。

 逆に考えると、そのような事にも無駄に使えるくらい霊能力のストックがあるという事かもしれない。強い霊能力者がどのような感じなのかわからないけれど、彼女を見ていると、強い人はちょっとした事では動揺しないのだと思った。


 普段から幽霊を見ているのだからお化け屋敷とかは平気だろうけれど、絶叫系の乗り物は苦手だったりするのではないだろうか。どんな反応をするのかが気になって仕方ないので、次の休みに遊園地に一緒に行こうと誘ってみる事にした。


「遊園地は行ってみたいと思うんだけど、なんで鈴木君と一緒に行かないといけないのかな?」

「遊園地は皆で行った方が楽しいと思うからさ」

「鈴木君の言うみんなって言うのは誰の事なのかしら?」

「俺と鵜崎さんだよ」

「あのね、鈴木君の常識はわからないんだけど、世間一般で言うみんなとは他にもたくさんの人がいる状況を表すと思うんだけど、鈴木君の中では二人っきりでもみんなというのかな?」

「何言ってるのさ。貸し切りじゃないんだから俺と鵜崎さんの他にもお客さんはいると思うよ」

「知らない人たちを含めてみんなっていう人は今まで会ったことが無かったけど、鈴木君は私が今まであってきた人の中でもトップクラスに変わっていると思うよ」

「そんな事を言ったら鵜崎さんも変わっていると思うよ」

「私のどこが変わっているっていうのかな?」

「え、だって、いつも体にお姉さんが抱き着いているじゃないか」

「ちょっと待って、鈴木君は私のお姉ちゃんが見えるの?」

「今だって君の足と腰に抱き着いているじゃないか」


 俺がそう言った時に鵜崎さんは少し驚いていたようだった。絶叫系だけじゃなくて幽霊系も苦手なのかなと思っていたけれど、そうではないようだった。


「今って戦闘中じゃないんでお姉ちゃんの力は失われない程度に弱めているんだけど、どうしてそれが君にはわかっているのかな?」

「わかるっていうより、それだけ見つめられたら誰でも意識しちゃうと思うよ。見える見えないは別としてもね」

「お姉ちゃんってそんなに鈴木君の事が気になるの?」


 鵜崎さんのお姉さんは思いっきり首を横に振っているけれど、それが本心なのか照れ隠しなのかはわからない。もしも、本当に俺の事が好きだとしても諦めてもらわないと大変だ。昔から、幽霊に好かれた人は不幸になるのがお約束なのだ。


「お互いに波長が合うから見ちゃっているだけだと思うし、お姉さんは俺の事なんて全く興味ないみたいだよ。顔はハッキリ見えないんでどんな感じの表情かはわからないんだけど、きっと今の鵜崎さんと同じような顔をしていると思うよ」

「鈴木君がどうしてお姉ちゃんの姿を見ることが出来るのかはわからないけれど、見た感じだと霊感はなさそうだし、他に何かそういう能力があるとも思えないのよね」

「俺は幽霊とか見えないし、今もお姉さん以外の幽霊は見た事無いよ。見た事無いからこそ、お姉さん以外は気のせいなんじゃないかなって思うんだよね。だって、学校に来たらお姉さんは毎回見てるからさ」

「それがどういう理屈なのかわからないけれど、お姉ちゃんが嫌がっていないようなら大丈夫だと思う」

「じゃあ、遊園地に行くのはいつがいいかな?」

「鈴木君は人の話を聞いていないのかな?」

「ちゃんと聞いてはいるけど、理解はしていないかもしれない」

「それなら、ちゃんと理解してもらいたいんだけどね。私は遊園地に行くと一言も言っていないんだけれど」

「俺も鵜崎さんが遊園地に行きたいってまだ聞いてないけどね」

「まだも何も、恋人でもない男女が二人っきりで遊園地に行くのって変じゃないかな?」

「変じゃないと思うし、お姉さんもいるから二人っきりじゃないと思うんだけどな」

「じゃあ、行くとしたら他にも誰か誘いましょうよ」

「そうだね、ちょっと考えていいかな?」

「どうぞ、って言ってもあんまり誘える人いなさそうだけどね」


 誘うとしたら誰がいいんだろ。麗奈は一緒に何度も行っているから何度目立って話になりそうだし、アリスがいると身長制限で絶叫系が却下されてしまいそうだ。

 結局のところ、今のメンバーなら二人の方が平和だと思う。それとも、親戚のお姉さんを誘ってみるのはどうだろうか。


「じゃあ、誘う人を発表したいと思うんだけど良いかな?」

「期待はしていないんだけど、一応誰を選んだのか聞いてみてもいいかしら?」

「うん、色々と考えてみまして、麗奈を誘ったとしても麗奈は年間パスポートを持っているので何度目かわからないと思うので新鮮さが無いので却下となりました。アリスを誘ったとした場合なんだけど、絶叫系のアトラクションがメインなのに身長が足りないから絶叫マシンに乗れないようなと思うんだよね。そんなわけで、今回はその二人は誘えません。よって、今回誘うのは愛華姉さんです」

「ごめん。その人は知らないわ」

「俺の親戚のお姉さんだよ。昼間は保育園で保母さんをやっています」

「その情報を貰ったとしても、興味もわかないんだけど」

「俺が逆の立場だったとしてもそう言っているかもしれないな」

「うん、それなら遊園地は中止にしましょうね」


 鵜崎さんは誰とでも壁を作ってしまう。仲良くなっていると思っていたけれど俺との心の距離が無くなる日は来るのだろうか。それは鵜崎さんのお姉さんに聞いてもわからないだろう。心の距離をもっと近付けるために何か遊びを試してみるのもいいだろう。


 どんなゲームを選んだとしても俺の方が有利だと思う。問題はお姉さんがズルをして隠れている場所だったり、見せられないモノを処分している事なのだ。

 これ以上誘ったとしても鵜崎さんは首を縦に振らないだろう。こうなったら、首を縦に振ってもらうんじゃなくて横に振らないような形のクマの組まぬ身だと思う。


 ゲームをやっている時間が無駄になるという考え方もあるよ。麗奈が縦に振ってくれている時間はやってくるのだろうか。


「あんまりこういうことは言いたくなかったんだけど、適当に好きな人でも誘うといいんじゃないかな」

「俺の好きな人って誰なんだ?」

「そんなのは知らないけれど、私にそう言うのを求められても困るのよね」


 鵜崎さんは本当に困ったような顔をしていたのだけれど、鵜崎さんのお姉さんはどこか嬉しそうな感じだったのが印象に残ってしまった。もしかしたら、鵜崎さんはあんまり誰かと遊んだことが無かったのだろうかもしれない、と思ってしまったのはなぜかわからない。


「もしもだけど、鵜崎さんが誘いたい人とかいたら遠慮なく誘っていいんだからね」

「そうなの?」

「うん、どうせなら楽しい思い出たくさん作りたいからさ」

「ふふ、何だか鈴木君って思っていたよりも良い人なのかもしれないね」


 鵜崎さんもお姉さんも嬉しそうにしてくれていて俺も何となく嬉しくなってしまった。


 嬉しいなと思っていると、どこからともなく巨大な骸骨の大群がこちらに向かってきているのが見えた。今までとは違って、その数は両手でも数えきることが出来なそうだ。何も出来ない俺は鵜崎さんだけでも助けようと思っていて、少しでも時間稼ぎになれればと手を広げて鵜崎さんの前に躍り出た。


「よくわからないけどあいつらは危険だよ。鵜崎さんなら知っていると思うけど、麗奈とアリスならあいつらと戦えると思う。だから、二人を探して一体ずつでもいいからあいつらをどうにかしてほしい。俺でも君が逃げる時間くらいは稼げると思うから心配しなくていいよ」


 俺はこれっぽっちも守れるとも時間を稼げるとも思っていなかったのだが、それでも鵜崎さんを守らなくてはと思っていた。思っていたのだけれど、そんな俺を制するように鵜崎さんは俺の前に出てしまった。


「いくら鵜崎さんが霊能力者だと言ってもあの数は危険だよ。ここは俺に任せて助けを呼びに行ってくれよ。少しでも時間は稼ぐからさ」

「ありがとうね。今までもあいつらの相手をしたことがあるみたいだけど、私なら大丈夫だからさ」

「いや、妖狐でもヴァンパイアでもない普通の人間である君があの数を相手にするのは無理だって」

「大丈夫だからね。それに、君にいくつか教えないといけないことがあるんだけど良いかな?」

「強がらなくてもいいんだから逃げてよ。俺なら本当に大丈夫だって」

「うん、君なら大丈夫かもって思えるけど、今はまだ無理だよ。戦う力を持ってないでしょ。それに、私はあの程度の雑魚ならなんてことないからね」


 俺は戦う方法も手段も得ていないけれど、こんな状況で女の子一人守れなくては男が廃るってもんだと思っていた。思っていたけれど、それは俺が状況判断がまだ出来ていないだけだと思ってしまった。鵜崎さんを連れて一緒に逃げる事も出来ただろう。


「じゃあ、せめて一緒に逃げよう。あの大きさなら学校の中までは入ってこれないと思うし、学校には誰か残っているかもしれないからどうにかなると思うよ」

「私の事じゃなくて、自分の事をもっと考えてもいいんだよ。それに、あの程度は本当は相手にしないんだけど、鈴木君がいるからそうも言っていられないのよね」


 このやり取りをしている間にも巨大な骸骨は不快な音を立てて近付いてきていた。あと少しで手を伸ばせば掴めそうな距離になってしまう。俺は何だかわからない恐怖心に包まれてしまって動けなくなってしまった。


「一つ教えておくんだけど、私はあの程度の妖怪は何ともないんでそこで見てていいからね」


骸骨軍団の戦闘が鵜崎さんに手を伸ばした瞬間、なぜだかわからないけれど鵜崎さんに触れる直前で骸骨は一瞬で灰になってしまい、そのまま灰となった骸骨は風に乗って消えていった。

 俺は目の前で見ていたのだけれど、何が起こったのかわからなかった。


「だからね、あの程度なら大丈夫だって言ったんだよ。いちいち相手にするのも面倒なんだけど、君がいるから仕方ないよね。他の二人もそうだったと思うしさ」


 俺はいまだに混乱していたけれど、鵜崎さんは骸骨に触れることなく全て倒してしまった。どうやったのかはわからないが、骸骨の軍団が一瞬で灰になって消えてしまった。


「そうそう、鈴木君に教えておくことがあるんだけど、あの骸骨が狙っていたのは私達じゃなくて君だよ」

「なんで俺を狙ってるってわかるの?」

「それはね、君がもう少しで十六歳になるからだよ。君はある人の生まれ変わりなんだけど、その人の力を少しずつ取り戻していくのね。そうなるとあいつらは困るわけなんだけど、君が強くなる前に殺しちゃおうって考えてるんじゃないかな。今までも何度か力を手に入れる前に殺されていたしね。でも、大丈夫よ。今度は上手く守るからね」

「ごめん、全然理解できない」

「今は全部理解出来なくてもいいのよ。これから先どうなるかはわからないけれど、戦力は少しでも多い方が良いし、青木さんもアリスさんも君を守りたいのは一緒だからね」


 もしかしたら、俺はこの美少女三人に護られるために産まれてきたのかもしれない。守る側ではないのが気掛かりだけど、美少女が俺の為に何かしてくれるのは嬉しいものだ。


「でもね、私を守ろうとしてくれたのは嬉しかったよ。君がちゃんとした力を手に入れて強くなった時には守ってもらうかもしれないね」


 そう言って微笑んでいる鵜崎さんの後ろでは次々と現れている骸骨軍団がドンドンと灰になっていた。鵜崎さんの言葉は俺の言葉と違って強がりなんかではなく、本心から来ているようだった。


「それにしても、ちょっと面倒になって来たわね。簡単に処理できると言っても数が多いと面倒なのよね。少しだけ鈴木君の力を借りてもいいかしら?」


 手招きされて鵜崎さんの近くに行くと、俺の手を取ってそのまま握られた。所謂、恋人繋ぎというやつだ。


「うん、思っていたよりは強そうね。今はまだこの程度かもしれないけれど、きっと大丈夫よ。じゃあ、ちょっとだけ力を借りるね」


 俺が答える前に鵜崎さんは俺の手を強く握った。鵜崎さんの手から何かが吸い取られているように見えたのだけれど、その光が何なのかはわからなかった。わからなかったけれど、少しだけ疲労感と倦怠感を感じてしまった。


 一方の骸骨軍団はと言うと、今も現れては灰になるの繰り返しで終わる気配が見えていなかった。見えていなかったのだけれど、骸骨が出てくるペースが鈍くなっていた。そのまま見ていると、骸骨が出ていた場所に魔法陣のようなものが描かれていたのだが、そこに何か蓋のようなものがされると、骸骨は出てこなくなっていた。


「とりあえず、ここはこれで大丈夫だよ。色々とありがとうね」

「よくわかってないんだけど、あいつは俺を狙っているってことなの?」

「そうだよ。君はこれから多くの経験をして様々な力を手に入れると思うんだけど、それが世界の役に立つのよ」

「それはあの骸骨にとって邪魔な事だから俺が狙われてるってことなのかな?」

「そうね、でも安心していいよ。あいつらがこの世界に出てくるには条件があって、一つは君がいる事とで、もう一つはある程度の力を媒介にしないと出現できないって事なの。言いにくいんだけど、私とか青木さんとかアリスさんみたいに戦える人の力が無いと出てこれないのよね」

「じゃあ、君達と一緒にいるのはお互いにとって危険だって事かな?」

「いいえ、一緒にいないと君の本当の力は解放できないと思うし、成長も出来ないと思うのよね。何より、中途半端に力を手に入れてしまった状態であいつらの相手を一人でするのは無理だと思うわ。今までもそれで失敗したこともあったんだからね」


 今までも失敗したことがあるってのは、俺みたいな人が何人かいてその度に護ってきたと言う事なのだろうか。という事は、同じことを何度も繰り返してきたってことにならないか?


「もしかしてだけど、今まで何度も俺みたいな人を護ってきたのかな?」

「ええ、何回目かわからないけれど、君を何度も護って来たよ。失敗が積み重なったおかげなのかもしれないけれど、私も青木さんもアリスさんも信じられないくらいの強さを手に入れてしまったわ。私の場合はもともと人間では最強だと思ったんだけど、それでも妖怪相手には手も足も出なかったこともあるんだよね。今ではある程度の妖怪なら一人でも苦にならないんだけどさ」

「それって、お姉さんの力も関係しているの?」

「どうしてそう思うのかな?」

「えっと、上手く言えないんだけど、さっき手を繋いだ時にそう感じたんだよね」

「そうね、もともと私はそれなりに強かったんだけど、お姉ちゃんが亡くなって成仏する前に私に憑りついたんだけど、その時に私の力とお姉ちゃんの力が合体して史上最強の霊能力者になった感じかも。それからも闘いを通してより強くなったんだけどね」


 俺も彼女たちのように強くなって一人であいつらに立ち向かう日が来るのだろうか。麗奈みたいに燃やすのもいいと思うし、アリスみたいに圧倒的な力でねじ伏せるのもいいと思う。でも、出来る事なら鵜崎さんみたいに触れずに処理できるのがいいなと思った。

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