第3話 太陽の下で見る吸血鬼も可愛いものです
パステルカラーのロリータ服を着ているアリスは他の人も注目するほど目立っていた。黙って立っているだけでも目立っていると思うのだけど、今日は服装も相まって絵本からそのまま飛び出してきたような感じなのだから、いつも以上に目立っていたのだ。
俺はいたってシンプルで地味な服装なので、アリスの横にいると誰も存在を認識していないだろう。俺の方を見ていた人は何人かいたのだけれど、俺と目があった人は誰もいなかったので、俺を見ていたのではなくアリスを見ていた時にたまたま俺の方を見ていただけだと思う。
アリスは仮の名前で本当の名前は忘れてしまったらしいのだけれど、今はアリス・ドラクルという名前を名乗っているのだ。どちらの名前も百年ほど前に決めたそうで、アリスは好きな本から撮ったらしいのだけれど、ドラクルは最後に殺した男に決めてもらったのだと言っていた。
アリスは中世ヨーロッパ後期に産まれたらしいので年齢は少なくても四百歳を超えていると思われる。生まれも育ちもれっきとした人間なのだけれど、両親が仕えていた屋敷の主人が吸血鬼だった。その吸血鬼に襲われた際に両親はそのまま無くなってしまったのだけれど、アリスはその力に打ち勝つどころか奪い取ってしまい、今ではこの世にいる最後の吸血鬼かもしれないとの事だ。
オリジナルの吸血鬼ではないアリスは眷属を作る事はせず、どこかの国で教えてもらった幻術を使うので一般的な吸血鬼のイメージと違うのも仕方ないのだ。元が人間で完全な吸血鬼ではないため普通の吸血鬼に出来ないことが出来たりもするのだけれど、こうもりに変身したりといった事は出来ないようだ。
それにしても、俺と同じくらいの年に吸血鬼になったため肉体的には年を取らなくなったとの事だけど、本当の年齢はどれくらいなのか気になってしまう。
「あたしの年齢を気にしているみたいだけど、麗奈だって私と同じくらいの年齢だと思うよ。もしかしたら、あたしよりも年上かもしれないけどね」
アリスはここに来るまでは自分と同じ世代の人に合うことが無かったようだけれど、麗奈は妖狐なのでそれなりに年齢を重ねているらしく、生まれ育った場所は違っても話は意外と合うそうだった。
休日にアリスと二人で出かけているのには理由があって、本意ではないのだけれど買い物の手伝いをする事になっていた。欲しいものが何なのかは聞いていないのだけれど、今日の服装を見る限りではアウトドアやスポーツ系ではなさそうな事が予想できた。
それにしても、ヴァンパイアなのにこんなに天気のいい日中から外に出ても大丈夫なのだろうか。心配をよそにアリスは太陽の下で楽しそうにしている姿は映画のワンシーンを切り取ったようにも思えていた。
「ねえ、マサトは何がしたいのかな?」
「俺はこれと言ってしたい事も無いんだけど、アリスは何か欲しいものとかあるの?」
「欲しいものは特にないけど、こうして二人で色々見て回るのも楽しいよ」
アリスは俺に無邪気な笑顔を向けると他の店へ入っていった。先ほどからファッションよりも食欲のように見えるのだけれど、吸血鬼も普通の食事をとっているのかと思うと、少しだけ身近に感じていた。
俺のイメージするヴァンパイアと違ってアリスは陽の光も気にしていないようだし、ニンニクが強めのスパゲティとかも食べているのだから、世間が抱いているヴァンパイアのイメージと乖離しすぎな部分が多すぎる気がしていた。
極めつけは、アリスが身につけているアクセサリーが純銀製だという事だ。吸血鬼は瓶製品が苦手だと聞くし、鏡にも映らないと言われているのに試着している時は鏡に映っていたと思う。俺が今まで抱いてきた吸血鬼とヴァンパイアは違う生物なのかと思うくらいアリスは俺の想像していた吸血鬼像とは異なっていた。
それが良いのか悪いのかわからないけれど、こうして楽しそうにしている姿を見ているのもいいものだと感じていた。
「そろそろこの服も飽きてきちゃったから変えちゃおうかな」
「どこかいい店でも見つけたのかな?」
「私はヴァンパイアだから服を買わなくてもいいのさ。ある程度までの人なら催眠で操れるんだけど、服を着替えるのにそんな面倒な事はしていないよ」
アリスが何を言っているのかわからなかったけれど、そのまま家の陰に隠れて出てきたときはゴスロリに近い服装になっていた。見た目とマッチしているせいか、他の人がきたとしてもここまで完成度の高いコスプレは見られないだろう。
色々な店を見て回るのかと思っていたのだけれど、アリスはあらかじめ行きたい店をピックアップしていたみたいだった。目的の場所を書いた紙を忘れてしまったため、地図を見て思い出そうとしていたのだけれど、マスコットやキャラクターの描かれていない普通の地図ではアリスの行きたい場所が見当たらないだけではなく、特にこれと言ってしたい事も思い出せないようだった。
「ところで、ヴァンパイアと吸血鬼って違うの?」
「あたしも最近ヴァンパイアになったばかりなんで他の人に会った事無いんだけど、大きくは違わないんじゃないかな。私も人間だった時とあんまり変わっていないと思うしね」
「それならいいんだけど、日光に弱いとかニンニクが嫌いとか銀製品には触る事も出来ないとか鏡に姿が映らないとか、そう言った事は無いみたいだね」
「もしかしてだけど、あたしはそう言ったのが効かないか効果が薄すぎるのかもしれないね」
「苦手なモノとかは有ったりするのかな?」
「これと言って特別苦手なモノってないんだけど、強いていうなればあたしの魔法が効かない人は苦手かもしれないね。マサトは別だけどさ」
俺はその言葉を聞いて少し嬉しかったけれど、アリスがこっちに来たのはつい最近だったはずだし、高校生になるまではお互いに存在は知っていたとしても、どんな人かってことはわからないはずだ。
それでもアリスは俺の事が気に入っているようだった。高校生になってから女子にモテるようになった気がしているのだけれど、直接好意を向けられたことが無いので判断のしようもないだろう。
アリスは相変わらず楽しそうにしているのだけれど、いつの間にかお店の中も外にも人がいなくなっていた。話し声は聞こえるのだけれど、誰の姿も見えないといった不思議な現象が起こっていたけれど、アリスはそんな事は気にしていない様子で買い物を続けていた。
買い物と行ってもアリスは選ぶだけで何も買っていないのだが、それでもアリスは楽しそうにしていた。
楽しそうにしているのだけれど、何となく嫌な気配が近付いているような感じはしているのだが、この前麗奈が倒した骸骨の歩く音も聞こえているような気がしていた。
ガシャガシャ……ガチガチ……ガシャガシャ……ガチガチ
遠くから聞こえる足音と骨が軋む音が巨大な骸骨を想像させるのだけれど、音が聞こえるだけでその姿はどこにも見えなかった。
「マサトはあの骸骨を見たことあるんだよね?」
「うん、麗奈が倒した奴に足音が似てると思うんだけど、どこにもその姿が見えないんだよね」
「もしかして、この世界に入ってこられないのかな?」
「この世界って何?」
「私がマサトと楽しく過ごしている時に邪魔されないように作った世界だよ。いつでも作れるわけじゃないんで勿体ないんだけど、骸骨と戦うために一回消滅させないといけないみたいだよね。じゃあ、その骸骨を倒したら本格的なデートしようね」
「ちょっとフラグっぽい言い方は良くないと思うよ」
アリスは何もない空間に手を伸ばすと、手首から先が無くなっていた。そのまま腕を動かしていたようだけれど、人おり終わったのか腕を引き抜くと手首から先は元に戻っていた。
「さあ、骸骨君と戦ってくるんでマサトはあたしの活躍を見守っていてね」
アリスは誰もいない空間を再び作り出したのだけれど、今回はこの中に大きな骸骨もいるのが大きな違いだった。
アリスは骸骨の執拗な攻撃をよけ続けると、骸骨は俺の方へと向かってきた。どうにかして戦わなくてはと思っていると、骸骨の後を追って走ってきたアリスが飛び蹴りをいれると骸骨はバラバラになってしまった。
バラバラになった骸骨は少しずつ集まって大きくなっていくと、再び巨大な骸骨へと変身してしまった。
「これってまとめてやらないとダメなやつなのかな?」
「この前の時は麗奈が骸骨の内部から燃やしていたと思うよ」
「あたしは燃やすのがそんなに得意じゃないんだけど、どうにかして倒さないとね。方法はきっとあると思うんだけど、面倒になったらとにかく壊し続けるしかないよね」
アリスは骸骨に攻撃を加えると、どこから持ってきたのかわからないような巨大なハンマーを振りかぶって骸骨を壊し続けた。
ひたすら壊し続けたアリスであったけれど、一時間近く壊し続けたおかげか骸骨の集合するスピードも遅くなっていて、少しだけではあるけれど大きさも小さくなっていっているように思えた。
「このまま壊し続けたらいなくなるかもね。レナみたいに燃やすことが出来ればいいんだけど、あたしにはあたしのやり方があるからね」
そう言いながらも骸骨を少しずつ粉々にしているアリスは綺麗だった。飛び散る汗と破片が夕日に照らされている姿も、キラキラとして輝いているように見えたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます