第2話 幼馴染が妖狐と言われても困るだろ
俺は細かい事はそんなに気にしていないタイプだと思うのだけれど、幼馴染の麗奈が人間じゃないのだよと言われてもにわかには信じられなかった。今でも完全に信じているのかと聞かれると、変な間が開いてしまうのだけれど、それでも今まで仲良くしてきた記憶は何だったのだろうと思ってしまう。
「それはね、聖斗に合わせてウチも成長するようにしていただけなんだよね。失った力を回復するのにも時間が欲しかったからちょうど良かったんだけど、草薙家の人と仲良くなったのは意外だったと自分でも思うよ」
十数年前の麗奈は完全な妖狐だったらしく、日本で起こっていた原因不明の病や動機のわからない事件の原因だったらしい。もう少しで日本を制圧して妖怪の国に出来たと言っているのだけれど、そんな事があったのは教科書にも出ていないし、過去の新聞を見てもそんな記事は載っていなかった。それに、麗奈が自分で言っている事なので信じられない気持ちもあるけれど、鵜崎さんもそのような事を言っていたと思うので少しだけ信じてみようかとも思っていた。
昨日まで普通に接していた幼馴染の正体が妖狐だと言われてすぐに納得して理解出来る人がどれくらいいるのかはわからないけれど、俺は小さい時からそれを知っていたような気がしているのだけれど、それをいまさら確かめることは出来ない。
どうしてそんな妖狐が人間になって俺の側にいるのかというと、日本の霊能力者や呪術師などが力を結集して麗奈と戦っていたのだ。何人くらいいたのかは誰も知らないみたいなのだけれど、鵜崎さんの両親を中心に構成して麗奈と戦っていたらしいのだが、その戦闘に参加していたほとんどの人が命を使い果たしてしまったのだけれど、残された数名の人達が麗奈に致命傷を与えることに成功したのだ。
もう少しで完全に麗奈を殺せるといったところまで追い詰めはしたのだけれど、一瞬のスキをついて逃げ出した麗奈はどうにかこうにかここの土地まで逃げ延びたという。どうしてこの土地なのかは教えてくれなかったのだが、人間の姿になってこの街にやって来た麗奈は幻術で架空の両親を作って生活しているのだと言っていた。
そう言われてみると、麗奈の両親と会った事はほとんど無いような気がしているし、どことなく不思議に思っていた事なんだけれど、幼稚園から今の高校まで同じクラスじゃなかったことは無いのだ。それも幻術を利用してるのかもしれない。
鵜崎さんはその時まだ生まれてそれほど経っていない時期だったので戦闘にはもちろん参加していないのだが、自分の家族を殺した相手と普通に仲良く話しているのは凄い事だと思う。全く気にしてないわけではないと言っているのだけれど、麗奈が人間生活を送っている事を見てたり、鵜崎さんの仕事を麗奈が手伝ったりしている関係だったりで、お互いにある程度は信用し合っているのだ。
麗奈の力は黙っていればグングン回復していくそうなのだけれど、人間の姿を維持するのには大量の妖力を使う必要があるらしく、時々ある鵜崎さんの手伝いでも相当な妖力を消費してしまう。それでも、鵜崎さんの事を守りつつ戦うというスタイルは変えることが出来ないようだ。協力を止めてしまうとその場で命を狙われてしまうので、麗奈はなるべくさぼっていないような感じでそこそこに手を抜いているらしい。
なるべく目立たないように行動をしているみたいなのだけれど、どう見ても人前に出るのが好きそうな人たちに囲まれているので、それは叶わぬ願いだと告げられた。
最近ではそこにアリスが加わってしまったので、より目立たない行動が出来なくなっているようだ。アリス自身はその事にも気付いているのだけれど、麗奈が本来の力を取り戻さないように定期的に先頭を行っている感じもあるのだ。
迷惑な話ではあるけれど、今後は俺もその活動に加わる事になった。俺に与えられた役割を具体的に説明すると、戦っている三人の様子を見守るだけなのだ。特に指示を出すわけでもなく、三人が闘っている場面をじっくりと見ておくこと、それだけなのだ。
幸か不幸かどちらでもいいのだけれど、今のところ三人が戦闘している場面には遭遇していないので、どんな戦い方をしているのか少し気になってしまった。
俺を含めて四人一組で行動してほしいそうなのだけれど、そうそう四人で集まる機会は無いし、四人一組で行動している時に妖怪が出てくることは無いだろう。そう思っていたのだけれど、俺の考えは甘かったらしい。
今は麗奈と二人だけだし、見たところ麗奈は戦闘の用意をしている様子はない。もしかして、まだ気づいていないのかとも思っていたけれど、もしかしなくてもレナは気付いていないようだった。体中に目がある小太りの男は何度か目が合っているのだけれど、こちらに襲い掛かってくる様子も無いのそのままにしておいた。
すると、コチラだけでなく妖怪サイドも無益な殺生は望まないようで、俺たちが目の前を通り過ぎても何もしてこなかった。麗奈は気付いていないようだけれど、通り過ぎる瞬間に指先から黄色味がかった炎を灯していた。そのまま戦闘が始まるのかと思っていたけれど、そのようなことは無く平和的な日常が続いていた。
「聖斗も姉さんも戦う力はほとんどないんだけど、見抜く力は凄いのよね。私の事を人間だと思い込んでいたのは意外だったよね。小さい時に遊んでいて尻尾と耳が出たこともあったんだけど、聖斗はそれを全然気にしなかったんだよね」
「気にしないってより、麗奈の得意な幻術でどうにかしていたんじゃないのかな?」
「幻術も限りがあるし、その力が無くなると幼児からまた戻されるかもしれないのだ」
その力を正しく使えばある程度は妖力を抑えることが出来ると思うし、自分の為ではなく他の人のために助けたりもしていたようだ。
「ねえ、聖斗は私が妖狐だって知った時はどう思ったかな?」
「正直に言うと、妖狐ってのは何なのかわかってなかったんだけど、麗奈が必死になって戦っているのを見ていると、悪い人ではないのだろうと思っていた。でも、ヨウコって何なのかわからなかった」
そんな話をしていると、目の前数十メートルのところにとても人のモノとは思えないような大きな骸骨が何かを探しているようだった。
「ありゃ、あれはウチ一人の方が何とか出来ると思うんだけど、聖斗は出来るだけそこから動かないでね。今の私でもそれなりに戦えると思うしね。聖斗は私達の無事を祈っておいてね」
麗奈はそのまま骸骨に向かって走っていった。無事を祈ろうと思っていたのだけれど、麗奈は巨大な骸骨の攻撃を全てかわし、振り下ろされていた腕を伝って体を上っていくと、頭頂部に両手を当ててそのまま骸骨の内部から燃やしてしまった。
俺は無事を祈る事よりも、骸骨でもこんなに燃えるんだなと感心してしまっていた。ドンドンと燃えている骸骨であったが、炎が広がるにつれて骨が焼け落ちているのだけれど、その焼け落ちている骨は巨大な塊ではなく、頭蓋骨が無数に落ちてきていた。
「これだけ派手に燃えたらコイツはもう問題ないと思うよ。それにしても、無事を祈っててって言ったのに聖斗は祈ってくれなかったね。ウチも少し拗ねちゃうかもしれないから次はちゃんと祈ってね」
「いや、動きが凄すぎて見とれちゃってたんだよ」
「そうなの? それならいいんだけど、次もウチの動きに見とれていいんだからね」
「それにしても、アレって頭蓋骨が集まってあんなに巨大な骸骨になっていたの?」
「そうだよ、最近はその辺で死ぬ人もほとんどいないからあんまり見ないはずなんだけど、もしかしたらどこか別の世界から来てるのかもしれないね。案外、聖斗に会いに来てるのかもしれないよ」
「それはちょっと勘弁してもらいたいな」
俺に会いに来るのは綺麗な人か可愛い人だけでいいのになと思っていた。俺の心を読める麗奈は俺を睨んでいた。
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