30. 世界征服がしたい!
料理屋マズイに向かう途中で、フナとシソは突然謎の少女から声をかけられる。
「やあ、マズ!」
「って!?あなた誰ですか!!??」
「び、びっくりしたよ……」
いきなり現れた謎の少女。
彼女が興味を持ったのは、どうやらシソのようだ。
「あなた、世界征服するマズか?」
少女が下からシソの事を見上げながら、クビを曲げて聞いてくる。こ、怖い。何なんだ、この子は。
フナが「シソ君世界征服が夢なんだもんね!」と話していたのを聞いたのだろうか。見ず知らずの少女にどうしてこんな事聞かれないといけないんだ?
それに、少女の派手な衣装に妙な髪型。どうしても、そこに目が行ってしまう。
「あの……あなたは?」
「マズイは世界征服がしたいマズ」
シソは少女の素性を聞き出そうとするのだが、少女の返答はシソの予想とは全く異なるものだった。
……え?世界征服がしたいって?いやいやいや、何を言ってるんだこの子は!
「この町はつまらないマズ。”まとも”な人間がイシャしかいないマズ。あなたは”まとも”な人間マズね!」
少女が嬉しそうに笑みを見せながら、話す。
シソはまともな人間。世界征服を目論む人間が、彼女の中では”まとも”何だろうか?
「うーん……フナさんどうしましょう?」
話が通じない上にヤバい香りがプンプンしたので、フナに助けを求める。
「この子も世界征服したいみたいだよ!良かったね!シソ君!仲間が出来たね!」
はは、世界征服仲間か……
いやいや、そういう問題じゃ無くて……!
「この子、明らかにヤバい子ですよ!絶対に厄介な事に巻き込まれます!関わらない方がいいです!逃げましょう!」
逃げきれる気は全くしないけど。
「ええ、でもすっごく面白そうだよ?面白いシソ君と面白い
「でもさ、シソ君。この子自分の事をマズイって言ってるし、語尾にマズが付いてるよ。それって……」
フナがその先に話そうとしている事は直ぐに分かった。だからシソは否定した。
「いやいや、流石にそんなわけ無いじゃ無いですか!そんな都合良く見つかるはずが……確かに語尾にマズが付いてますし、自分の事をマズイだと言ってますけど……」
うん、さっきからずっと気になっていたのだ。世の中色んな人間がいるとはいえ、語尾にマズを付ける人間なんて、中々いないだろう。フナ曰く、どうやらこの先に料理屋マズイがあるらしいし、クヴィット曰く、マズイは怖くて変わっている人間らしい。つまりこの少女が……
「シソ君?」
考え込むシソにフナが声をかける。
嫌な予感しかしない上に、絶対に厄介事に巻き込まれる気がした。この少女と関わったが最後、シソの人生にとんでもない影響を与えかねない、そんな気がした。シソの”ここはヤバイぞ警報”が限界値をブチ破って、処理し切れなくなってしまい、木っ端微塵されてしまった。
が、後には引けない。とりあえず、無理だろうけど、冷静に話をしてみる事にした。
「フナさん、僕が彼女と話します。僕にもしもの事があったら……頼みますね」
「分かった!私がマズイちゃんからどんな手を使ってでも、死体を取り戻して、ベバムと一緒にオヌルラの村のご両親にシソくんの死体を届けるね!」
「あははっ……お願いしますね」
なるべく死体にならないように頑張らないと。サギとは比較にならない程恐ろしい何かをこの少女から感じた。
ばっちりと開いた彼女の黒い瞳を見ていると、闇の中へ吸い込まれてしまいそうだった。
「あの……あなたは、マズイ……さんなんですよね?」
「あなたは”まとも”な人間マズね!あなた、世界征服するマズか?」
「マズイさんは料理屋マズイを経営していると聞いたんですけど」
「あなたは”まとも”な人間マズね!あなた、世界征服するマズか?」
「マズイさんはこの町の事をよく知っているから、お仕事を貰えると聞いたんですけど」
「あなたは”まとも”な人間マズね!あなた、世界征服するマズか?」
うーん、何なんだこの会話は。同じセリフしか答える事の出来ない村人のようだ。シソの質問を理解していないのか、それともそもそも答える気が無いのか。
シソはあと一回だけ少女に質問して、同じ返答が返ってきたら少女に答える意思が無いと判断して、別の方法を試す事にした。別の方法とは、少女の「あなた、世界征服するマズか?」という質問に答えてみる事だ。シソの質問に答える意思が無い以上、シソが少女の要求に従うしか無い。シソは、少女に最後の質問する。
「サギ……という男を知っていますか?」
どうせ、「あなたは”まとも”な人間マズね!あなた、世界征服するマズか?」と全く同じ返答が返ってくるとシソは思っていた。だが、少女の反応はシソの予想とは異なっていた。
「サギ……!?」
「おお!」「わぁ!」
少女の反応に、シソとフナは思わず声を出して驚いてしまう。フナは嬉しそうだ。少女の表情が明らかに変わった。サギという言葉に反応しているようだ。
「サギ……!サギ……!サギ……!」
少女が繰り返し呟くサギという言葉。
「サギィ……!サギィ……!サギィ……!」
少女の語気がどんどん強くなって行く。
「フナさん……これは……!」
「うん……目からビーム出してくれるのかな?ワクワク」
「どうしてそこでビームになるんですか……」
「ええ、でも出しそうな雰囲気だよ!目からビューンって!絶対ビーム出るよ!ワクワクワクワク」
「流石に出ませんよ……」
期待するフナ、見守るシソ。
少女の反応はーー
「サギィ……!サギィ……!サギィ……!サギィ……!サギィ……!サギィ……!」
く、来るか!?まさか本当に目からビームが……!?
サギの名を呟き続けていた少女。だが、彼女の語気は唐突に弱まってしまう。
「マズイ……サギ……はぁ……」
少女の姿は、まるで精気を全て抜かれてしまったかのようだった。疲れてしまったのだろうか。
「シソ君、ビーム見えた?」
フナはまだビームにご執心のようだ。
「見えてないですよ。恐らく、興奮しすぎて疲れちゃったんでしょう」
今なら落ち着いて会話出来るかもしれない。
シソは少女に声をかけてみる。
「あの……マズイさん?」
「サギは嫌いマズ」
サギは嫌いなようだ。サギ、詐欺?
「お前、サギの名を知っているマズか」
「はい、まあ、知っているというか、無理やり知らされたというか」
「なら話は早いマズ。ついて来るマズ」
少女はそう話すと、スタスタとシソとフナを追い越し、先へと進んでしまう。
「案内してくれるみたいですね。僕たちもついて行きましょうか」
「ビーム……見たかったなぁ」
フナはまだビームの事を気にしているようだ。
「何でそんなにビームが見たいんですか?」
「ビームを出してシソ君の頭をズキューンって出来るかなって!」
「ちょっ、怖い事言わないで下さいよ!?何ですか!?ズキューンって!」
「ビュキューン!とかバッチコーイ!とかアッカンベー!の方が良かったかな?」
「全然良くないですよ!最初以外の二つは効果音ですら無いですし!」
「あなたのハートにズキューンっ!空飛ぶ芸人、フナでーすっ!今日もフナの芸でみんなのハートをズキューンってしちゃうぞ!」
「アイドルみたいに言わないで下さい!」
だけどちょっと可愛いと思ってしまった。
「ちなみにズキューンの意味は、対象を粉砕する事だよ!シソ君の頭を粉砕!みんなの心臓を粉砕!」
「殺してるじゃ無いですか!?芸でみんなの心臓を粉砕するって、怖すぎますよ!」
そんなやり取りをしてる内に少女はどんどん先へ行ってしまっていた。
シソとフナは慌てて、少女を追いかける。
「……あなたとあなたのお仲間マズか?名前を教えて欲しいマズ」
少女が名前を教えて欲しいと話す。
「私はフナ!よろしくね!」
「フナ……マズか。美味しそうな名前マズね」
「美味しそうか……確かに、美味しそうな名前だね!」
ーー認めるのか、フナさん……
そこは触れちゃいけない部分なんじゃ……
「あなたのお名前は何マズか?」
今度はシソの名前を聞いてくる。
「僕の名前が知りたいのなら、先にあなたの名前を教えて下さい」
「自分の名前も名乗れないマズか?失礼マズね」
「あなたにだけは言われたくありませんよ!?」
少女が自己紹介をしてくれる事に。
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