27. あはははっ!
***
ベバム: 第三の目が頭の後ろに出来たぞ!!
フナ: わあ凄い!これが第三の目かぁ。見た目はふつーの目と一緒なんだね!
ベバム: そりゃ第三の”目”だからな!あはははっ!
フナ:そうだったね!あはははっ!
***
「何ですか、この悍ましい文章は」
ベッドで寝ながら次のショーの脚本を紙に書いているベバム。すると、暇人イシャが紙を覗き込んできた。
「次のショーの脚本だ。タイトルはシンプルに”覚醒!第三の目!放て!目からビーム!!”だ」
「どこがシンプル何ですか。下らないショーにお似合いな下らないタイトルですね」
息を吐くように毒を吐くイシャ。哀れむような目でベバムを見てくる。
子供から大人まで、親しみやすいタイ
トルだと思ったのだが。
「ベバムさんは脚本がある演劇もやるんですね。てっきりマジックみたいなのしかやらないと思ってましたよ」
「マジックにも一応脚本というか、流れはあるがな。俺たちは空飛ぶ”芸人”だ。客を楽しませる為なら、何だってやるぞ」
マジックや演劇などジャンルに囚われず、人々を楽しませる為に、何でもやるのが、”空飛ぶ芸人”だ。
それを可能にしているのが、”なんでもボックス”だった。入れたいモノは(忘れさえしなければ)いくらでも入れる事ができ、必要なモノは何でも(条件はあれど)手に入れる事が出来る。
以前フナに、こんな質問をした事があった。
***
「何も食べなくても生きていけるのなら、極端な事を言ってしまえば、働く必要も無い。屋根のある場所で寝る必要が無いのなら、野宿すればいい。何もせず、何の生きがいも持たず、何もしなくなって俺たちは生きていけるんだ。話を少し変えるが、何もしなくても生きていけるのなら、俺たちはどうして芸人の活動を続けるんだ?」
***
これに対して、フナの答えは”ベバムと一緒にいる事が出来るから”だった。フナが言っていた”本当の生きている意味”についてずっとベバムは考えていた。なんでもボックスを使って、各地を回り芸を披露する。シソとフナはこれをずっと続けてきた。沢山の人を笑顔にしてきた。これは事実だ。
フナは世界中の人を笑顔にしたいと言っていた。フナは優しい子だった。純粋に、皆を笑顔にしたい、そう思っているに違いない。ベバムと一緒に皆を笑顔にする。その為に私達は生きている。同じ境遇にあるフナは、シソにとって唯一の支えだった。これまでも何度も何度もフナに助けられて来た。
そして、これからもきっとそうなのだろう。
***
フナ:わあ!ベバム目が光ってる!
ベバム:はははっ!正確に言えば、頭の後ろの第三の目が光ってる、だな!あはははっ!
フナ:あはははっ!わあ、ベバム頭の後ろの第三の目が光ってる!あはははっ!
ベバム:あはははっ!わざわざ言い直すなんて、フナは偉いな!あはははっ!
フナ:あはははっ!ありがとう!あはははっ!フナ嬉しいよ!
ベバム:そうかそうか、嬉しいか、よかったよかった!あはははっ!
***
ぞおおおおおっ!
「?何だ今のは」
「ベバムさんの脚本を見て、何とも言い難い寒気を感じましたよ」
イシャは青ざめた顔で、ブルブルと震えながら、ベバムの脚本を見ている。
そこまでなるか、ふつー。
「嫌ならば見なければいいだろう」
まさかベバムの脚本がここまでイシャに効果的だったとはな。これからイシャにイラついた時は、この脚本を見せつければ良いのか。
「いえ、実際あなた方のショーはとても下らないモノだと認識していますが、あのような低俗なモノがどのように出来上がるのか興味があるのもまた事実なのです」
素直にショーの脚本作りがみたいと言えばいいのに。
「イシャ、お前は随分と俺たちのショーに詳しいようだな」
知りもしないくせによくもそこまで酷評出来るなと、ベバムとしては皮肉を込めて言ったのだが……
「目の前でショーを見物させて貰いましたからね」
目の前で見てたのかよ。全く気づかなかった。オヌルラでのショーは全部で3回開いたはず。3回目のショーでベバムは怪我をした。1回目か2回目のどちらかのショーに、イシャは来ていたのか。オヌルラの住民の特性上、ショーはベバムたちの声が聞こえないぐらい盛り上がった。最後の方は興奮した観客が殴り合うほど熱狂に包まれていた。あの中にイシャがいたのか……しかも最前列で。凄いな。
「お前、人混みは嫌いじゃ無かったのか?」
「人混みは嫌いですが、好奇心が勝ちました。ショーの感想はさっき話した通りですが」
「そうか……」
きちんとショーを見た上で、評価してくれたのか……見た上であの評価なら、それは個人の受け止め方なので仕方ない。
「それで、脚本に出てくる登場人物たちは何故意味もなく笑っているのですか?」
「演者が笑顔でいれば、客も笑顔になるだろう……というある芸人の考えだ」
「それは間違ってるんじゃ無いですか。だって私は笑顔になってませんし」
イシャが嫌みたらしく話すが、多くの人間はベバムたちの芸を見て、笑顔を浮かべているのだ。
意味もなく笑い、客を笑顔にする。ベバムはショーに立っている時の自分と、普段の自分と、キャラをはっきりと分けていた。当たり前だ、ショーのキャラは演技、作り出された仮想の自分なのだから。
***
フナ: わあ、見て!見て!ベバムの頭の後ろにある第三の目が光ってるよ!
ベバム: あはははっ!第三の目は頭の後ろにあるから、俺には見えないぞ!
フナ: そんな!こんなに光ってるのに、見れないなんて悲しすぎるよ!
ベバム: あはははっ!そんなに光っているのか!あはははっ!……え?どれぐらい光ってるんだ?
フナ: す、すごいよ!すごく光ってる!何か出そうだよ!!
ベバム: あはははっ!……え?何か出そう?
フナ: あはははっ!凄い凄い!ピコーンピコーンって音が鳴ってるよ!
ベバム: ピコーンピコーンって鳴ってるだと!?あ、あはははっ……ど、どうなってるんだ?
フナ: 分からないよ!でも、光がどんどん強くなってる!
ベバム: どんどん強くなってるだと!?
一体俺の頭の後ろにある”第三の目”で一体何が起きてるんだ……!?あはははっ。あはははっ!
***
「何なんですか?この脚本は」
ベバムの脚本執筆を横から見ていたイシャがまたもや口出ししてくる。
「質問です。この状況でどうしてこの人間たちは笑っていられるんですか?気になりました」
「演者が笑顔でいれば、客も笑顔になるからだ」
「……?」
イシャが訳がわからないと言った表情をしている。
「どんな時でも笑顔を絶やさない、それが俺たちだからだ」
「危機的状況でもですか?」
「…………」
***
ベバム: ぐっぐぅ……!?
フナ: ベバム!?どうしたの!?
ベバム: 頭が、熱い……!
フナ: え!?頭が熱い!?お熱があるの!?たいへん!冷えたタオルを……!!
ベバム: ち、違う!頭が痛くて、熱いんだ……!!
フナ: え!?頭が痛くて熱い!?たいへん!やっぱりお熱があるんだよ!!すっごく冷えたタオルを持ってきてあげるね!!
ベバム: ふ、フナ違う!!違うんだ!!
フナ:え!?何が違うの??
ベバム:う、うわぁぁぁぁぁ!??
***
「人が無様に苦しむ姿を見るのは、楽しいものですね」
イシャは嬉しそうににんまりと笑みを浮かべている。
「相変わらずのぶっ飛んだ感想だな」
「ちなみにですが、ベバムさん。私はこれまでの人生で一度も病気になった事がありません。知ってました?」
「興味ないし、聞きたくもないからそれ以上話さないでくれ」
嫌な予感がしたベバムは、先手を打って、イシャの話を止めさせようと試みた……が。イシャが何かを白衣のポケットの中から取り出す。
「じゃじゃーーん!」
そう言って、満面の笑みを浮かべながらイシャがベバムに見せてきたのは、小さな円盤形の何かだった。予想はついたが、ベバムはイシャに聞いてみた。
「……これは何だ?」
「これは私が開発した”絶対に病気にならない薬”です!」
「絶対に病気にならない薬だと?」
「その通りです!」
イシャの右手の手のひらの上には”絶対に病気にならない薬”が2つあった。
「この薬を飲んだ人間は絶対に病気になりません。私が保証します!」
ーーお前に保証されるのが一番怖いんだが。
「飲んでみたいですよね?ね?ね?」
「誰がいつ飲みたいといった?俺にその”得体の知れないモノ”を俺に近づけるな」
「”得体の知れないモノ”じゃ無いですよぉ。”絶対に病気にならないク・ス・リ”ですよぉ」
イシャはそう言って、グイグイとベッドで寝ているベバムに近づいてくる。イシャはベバムの右足の横に左手を置き、そのままベッドに乗っかろうとしてくる。
ーークソっ!こいつ……!
「おい!止めろ!俺に近づくな!」
「うふふふふっ……」
イシャの好奇心旺盛な子供のような純粋な瞳、怪しげな笑みを見て、こいつは本当にヤバイとベバムは思った。今まで会ってきた人間の中でも、かなりぶっ飛んだ人間だ。
「さあ、飲みましょう!一緒に幸せになりましょうよ!!」
ぞおおおおおっ!
ーー怖っ!
猛烈な寒気を感じた。この女に対して、ベバムの体が明確な拒否反応を示しているのだ。こいつはヤバイと!
その時だった。
「イシャさん!大変だ!雑貨屋のジイさんが倒れたんだ!すぐに来てくれ!」
診療所の扉が開く音が聞こえると同時に、男の助けを呼ぶ声が聞こえた。
イシャも声に気づいたようで、そのままベッドから降り、ベバムから離れる。先程とは異なり、元の無気力な表情へと戻っていた。
「残念。良いところだったのに」
イシャが残念そうに話す。
ーーどこが良いところ何だよ……
「私は愚かな人間を助けに行ってきます。ベバムさん、しっかり寝ていて下さいね」
ーーお前のせいで寝れなかったがな。
「ああ、分かった」
「良い子です。そうやって、素直にしていればいいんですよ」
素直にあの薬を飲んでたら、どうなっていた事やら。
イシャはそのまま近くにあった鞄を持ち、小走りで部屋から出て行った。
イシャと男らしき声が聞こえた後に、扉が閉まる音が聞こえた。
「はぁ……全く……」
ようやく静かになった。
あのイシャという医者、とんでもないヤツだ。噂は間違っていなかった。ああやって、いつも患者に変な薬を飲ましているのだろうか。
今回は何とか助かったが、今後も気をつけないといけない。数週間もあの医者と一緒に過ごすのだ。何されるか分からない。
「”絶対に病気にならない薬”……か」
そんなモノ飲んでも….…な。
脚本執筆を続けようかと迷ったが、色々ありすぎて、疲れてしまったので、今日はもう寝ることにした。
シソとフナは大丈夫だろうか……
少し心配だった。
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