26. おはよう!
「「朝ごはん♪朝ごはん♪」」
鼻歌を歌いながら、降りてくるシソとフナの二人。
そのまま、クヴィットの部屋へ直行!
「「クヴィット(お兄)さーん!朝ごはーん!!」
「いや、そんな”お母さーん!ご飯!”みたいな感じで言われてもつくらねぇからな!?」
部屋の中で何やら作業をしているクヴィットが答えた。
「クヴィットさんを煽てて、朝食をつくってもらおうという作戦だったのですが……失敗のようですね」
「クヴィットお兄さんなら簡単に騙されてくれそうだったのにね!」
シソとフナは”クヴィット(お兄さん)を騙して朝食をつくって貰おう作戦”の反省会をクヴィットの目の前でする。
「いや、騙されてねぇし、全く煽てれてないからね!?」
仕方がない。頼みの綱であるクヴィットを騙されなかった以上、ロミホロート以外の場所で朝ごはんを食べるしか無い。
「ちなみにだが、ロミホロートのキッチンは使用禁止な」
「えぇ〜なんでぇ!私料理出来るよぉぉ!!シソ君に美味しい料理つくってあげようと思ったのにぃ!」
ーーフナさん料理出来たんだ……
何というか、意外だった。でも、ベバムとずっと二人で旅をしているわけだし、料理ぐらい出来ないと、生きていけないのかもしれない。
「お前らが料理出来るかなんて関係ねぇよ」
フナの料理出来ますよ宣言にプイッとしているクヴィット。
「えーー?どうしてーー?」
クヴィットに対してフナはグイグイくるなぁ。
「母さんから言われてるんだよ、訳の分からないヤツをキッチンに入れさせるなって」
訳の分からないヤツとは失礼な。シソとクヴィットは、審査でお互いの事をしっかり理解し合える程の仲じゃないか。フナだって、昨日クヴィットとあんなに沢山喋ったのに。
「私たち訳の分からないヤツじゃないのにー!」
フナは不満げに頬を膨らませて言った。
「とにかくだ!従業員もいない今、お前らをキッチンに入れるわけにはいかないんだ。早く出てってくれ」
クヴィットは手をブラブラさせ、シソたちに出て行くように促した。
「よく見たら、クヴィットさんの部屋汚いですね」
「な、何だよ!?急に!」
クヴィットの部屋は、本やら何やらでかなり散らかっていた。クヴィットの使っている机も沢山の本やら紙やらがタワーのように積み上げられており、クヴィットが普段どのような生活を送っているのかよく表していた。
自治会のお仕事も大変そうだ。お給料が良ければ、自治会の仕事も良さそうだと思ったが。
シソは扉の手近にあった本棚を確認する。マチの町に関する資料らしき物が置かれていた。
「もう少し部屋を綺麗にした方が仕事の効率が上がるのでは?と仕事をした事が無い僕が言ってみます」
「うるせぇやい!俺にはこのぐちゃぐちゃした環境が合ってるんだよ!文句言いに来たのなら、とっとと出てけっつーの!」
クヴィットはプンプン怒っている。機嫌を悪くしてしまったようだ。
「クヴィットさん審査のお仕事は?」
「これから行くんだよ!ったく!しつこい男は嫌われるぜ?」
「別にクヴィットさんに嫌われても何とも思いません」
「相変わらずはっきり言うな!?お前は!?」
クヴィットはプンプンプンプン怒っている。かなり機嫌を悪くしてしまったようだ。
「あと一つ!あと一つだけ質問させて下さい!」
「何だよ!?」
キレ気味のクヴィットが机に向かったまま話す。
「この辺りで美味しい料理が食べられるお店、僕の年齢でも働ける職場を教えて下さい」
すると、クヴィットは体ごとこちらに向け、顎の下を右手で摩りながら、「うーん……」と小さく囁く。
「そうだな、ロミホロートからは少し離れてしまうが、”料理屋マズイ”って店があるんだ」
「何ですか、その店は。店名からして嫌な予感しかしないんですけど」
料理屋マズイって料理屋で一番つけちゃダメな名前だろ……
「マズイは店主の名前だよ」
「よくその名前で料理人になろうと思いましたね!?その人!」
マズイの店主、マズイさん。マズイで食べるマズイが作ったマズイ料理……。
「おい!あんまり名前の事悪く言わない方がいいぜ?マズイの前では特にな」
クヴィットが心配するような目つきで話す。
「マズイって人は、そんなに怖い人なの?」
「怖いというか、変わっているというか……まあ、マズイはこの町の事に関しては、精通してるから頼りにはなると思うぜ。機嫌さえ損ねなければな」
多少変わっているぐらいなら、全然構わなかった。話さえ出来ればそれで十分だ。ご機嫌取りは、シソの得意分野だ。
「審査の時も言ったが、この町に住んでる時点で、ふつーでは無いからなぁ。そのつもりで行けよ」
クヴィットにここまで言わせるとは……怖いと同時に、逆にどんな人間なのか気になった。
とりあえず、クヴィットの聞くべき事は聞いたし、情報は手に入れた。
「ありがとうございました、クヴィットさん」
「ありがとー!クヴィットお兄さーん!」
シソとフナは、クヴィットにお礼を言い、部屋を出る。
「頑張れよぉ〜」
クヴィットの腑抜けた応援を貰い、シソたちはそのままロミホロートを出た。
***
フナはクヴィットからお金を貰っているようで、朝ごはんはそのお金を使って食べる事にした。
今回ばかりは仕方ない、マズイから仕事を貰うまでは、ベバムに頼る他無かった。
「今日は良い天気ですね」
ロミホロートから一方出た所で、シソは暖かい風を感じる事が出来た。
太陽の暖かい光が降り注ぎ、空には満開の青空が広がっている。
「何がが起こるかも……!?そんな予感を感じさせるポカポカした天気だね!」
「何ですか、その意味深な発言は……」
フナはぽかんとした顔をしている。
まあ、いいや。とにかく、料理屋マズイという店に行ってみる事にしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます