25. こちょこちょ!
「う、うん……」
ーーあ、あれ?何やってるんだ僕は……
薄れた意識の中で、シソはぼんやりと目を覚ます。
見慣れない天井に疑問を抱きつつ、状況の確認を急ぐ。そのまま、起き上がり、大きく伸びをする。
しばらくの間、ぼーっと正面にある壁を眺めていると、ようやく状況を理解する事が出来た。
***
長い夜が明け、ようやく朝を迎える事が出来たシソ!
一区切りついたところで、これまでのあらすじ的な事をやってみようと思う!前章の復習みたいな!
オヌルラの村にやってきた二人の芸人ベバムとフナは、オヌルラの住民であるシソと(強制的に)出会う。シソは、二人の弟子になりたい、旅に連れて行って欲しいとお願いする。ベバムは否定的だったが、フナの説得により何とか連れて行って貰える事に。真夜中にオヌルラ脱出作戦を決行したシソたちは、オヌルラ三人衆との死闘(シソの裏切り)を乗り越え、何とか村を脱出する事に成功する。そんなこんなで、近くにあるマチの町にやって来たシソたち。マチの町に入る為に審査を受ける事になったシソは、回想と妄想を駆使し、見事審査に合格する。ベバムは用事があるらしく、一旦シソとフナと別行動をする事に。宿に向かうシソとフナだが、その道中でマチの町に潜む化け物に遭遇!……その後は化け物(クヴィット)をペチペチしたり、自己紹介したりして、寝た。
以上がこれまでのあらすじです!
***
そっか。オヌルラの村から離れて、今はマチの町にいるんだった。
部屋の窓からは、既に明るい日差しが差し込んでいる。
待ち望んだ朝が、ようやくやって来たのだ。
待ち望んだ朝がーーー!
「……いや、そんなに待ち望んでは無いですね。朝はお腹が痛くなるから嫌いでした」
超どうでもいい話なのだが、シソはお腹が弱かった。ちょっと嫌なことがあったり、気分が落ち込んだりすると、とたんに腹痛に襲われる。両親に相談したら、精神的な問題だから諦めろと言われたので、もう諦める事にした。最近は大分落ち着いてきて、昨日の審査中もお腹の調子は良かった。これが成長って事なのだよ!
シソは今日の予定について考える。
色々あったけれど、まずはマチの町で生きていく手段を見つけないといけない。生きていく為に絶対必要なモノ!それは”お金”だ!
お金が無くては何も出来ない。フナやベバムは芸人である為、稼ぐ為の手段を持っている。対してシソは何があるか?何もない!本当に何も無いのだ!
平和な村でちょっと捻くれながらも何の苦労もせずぬくぬくとこの歳まで育ってきた。
とりあえず、クヴィットに相談してみるか……と、シソがベッドから出ようとした時のだった。
「あれ……?」
布団が重たい。動かない。
え……?これはまさか……。
この部屋のベッドは、二人で寝れるように作られたのか、シソの体からすれば、かなり大きかった。
シソは恐る恐る”そっち”を見てみるのだが……
「う、うわぁ!?ふぐっ……!」
シソが真っ先に考えた事は、”自分のあげた悲鳴によって、他の客に迷惑をかけてしまうかもしれない”だった。だから声を出さないよう直ぐに口を手で押さえた。ただ、今はロミホロート(泊まっている宿の名前)はお休み中で、他の客がいない事を思い出したシソは、再び悲鳴を上げる事にした。人がいないのなら、安心して悲鳴を上げれるからだ。
「うわぁぁ!?フナさん!?どうしてここに!?」
シソの隣で気持ち良さそうにスヤスヤ寝ていたのは、フナだった。
ブツブツと考え事をしていたのにも関わらず、全く気付かなかった。
いや、そもそもフナがここにいる事自体がおかしいだろう!
フナは隣の部屋でスヤスヤと寝ているはずなのだ。シソ自身が、隣の部屋までフナを連れて行って、ベッドで寝かせてあげたのだから。そんなフナがどうしてシソと一緒に寝ているんだ?
「あの……フナさん?」
「うん……?シソくん……?」
シソが尋ねると、フナが眠たそうな表情で答える。フナは、小さな欠伸をすると、きょとんとした目でシソを見つめてくる。
「フナさん、隣の部屋で寝てましたよね?どうして僕のベッドにいるんですか!?」
「うーん……ペチペチペチしてたから?」
フナは閉じた目をゆっくりと開けながら答える。
ペチペチペチしてたから……?ちょっとよく分からない。
「それとも……怖かったからかな?」
ペチペチペチと怖かったからを比較するのなら、答えは後者だろう。
「ふわぁぁぁぁ。……うんん……」
まだ寝たいよと言いたげなフナ。
「……はっ!そっか!思い出したよ!」
フナは何かを思い出したようだ。
「私いつもベバムと一緒に寝てたから、一人で寝るのが怖くて怖くて……」
フナの性格からして、クヴィットのように一人でいるのを怖がったりするのは意外だった。
「だからね、こっそりシソくんのベッドで寝させてもらったの!」
「よく僕の部屋が分かりましたね」
廊下は確かまっくらだったはずだ。
「隣の部屋のカギが開いてたから、ちょっと覗かせてもらったの!そしたら、可愛らしいシソ君の寝顔が!」
そっか、部屋のカギは閉めてなかった。だからふつーに入れたんだ。
「ふふっ、それにね……」
「??」
フナが何やら怪しげな笑みを浮かべてシソの顔を見てくる。な、なんだろう。この感覚は……怖い……
「寝ながらシソくんの事、こちょこちょくすぐったらさ、シソくんスッゴイ喜んじゃって!」
「よ、喜んでました!?僕が!?」
ベッドの上で、フナにくすぐられてニヤニヤしながら喜んでいる自分の姿を想像してしまった。超後悔……
「”あひゃぁ!?”とか、”うひぅぅ!?”みたいな声出して喜んでたよ!シソ君、すっごく可愛いかった!」
満面の笑みで可愛いと言うフナ。
そ、想像したくない、想像したくない!想像したくないけど、頭が勝手にィィ!???
***
もやもやもやもやーん。妄想のお時間ですよぉ。もやもやもやもやーん。
え?想像じゃなくて妄想じゃないかって?細かいことは気にしない気にしない!想像も妄想も同じようなものモノだよ!多分。
ベッドの上で一緒に寝ているシソとフナ。フナがシソをこちょこちょくすぐる。
「ほーれ、シソ君くすぐっちゃうぞ〜こちょこちょこちょ〜」
「……うひぅぅ!?」
シソがとても面白い反応を示したので、フナは喜んでしまう。
「えへへっ、可愛い。もっと!こちょこちょこちょ〜!」
「あひゃぁ!?」
またもや変な声を出してしまうシソ。
年相応の純粋さ、幼さゆえなのか、単に感じやすいだけなのか、真相は誰が知るわけでも無く……
「もっとこちょこちょしちゃうぞぉぉ!!」
「あひゃぁ!?うひぅぅ!?うふゅぃ!?わおっほぉい!?」
ここまで奇声を出しながらも、起きる気配の無いシソを見て、フナはますますやりたくなってしまう。
「あはははっ!面白いなぁ、シソ君は!えいっ!こちょこちょこちょ〜!」
「うひゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
シソの何とも言えない声が、部屋に響き渡る。
フナのよる拷問(こちょこちょこちょ)は朝まで続いた一一
***
「いや、なんて妄想……じゃ想像してるんですか僕は!」
自分で想像したのにも関わらず、あまりにも気持ち悪すぎる想像だった。
ーーなんて事考えてるんだ、僕は。
「ん?どんな想像?教えて教えて!」
「いや、何でもないです!気にしないで下さい」
シソが同様しているのに興味津々なフナ。困ったなぁ。
「じゃあ、改めて……おはよう!シソ君!」
フナが朝一番の元気な挨拶をしてくれる。
「おはようございます、フナさん。今日も元気ですね」
目覚めは最悪だったけどね。変な想像しちゃったし、寝ている最中にこちょこちょされてたらしいし。
「私はいつでも元気だよ!笑顔はみんなを明るくしてくれるし、楽しくなるし、幸せにしてくれるんだよ!」
確かに、フナの笑顔を見ると、何だか浄化されたような和やかな気分になる。シソはオヌルラのショーを思い出していた。ショーが気に入らなかったシソは、下らないヤジを飛ばしてしまった。笑顔でショーをする彼女の姿は、オヌルラの子供たちを笑顔にしていた。
「そうですね、笑顔は大事ですね」
「そう!だから、シソ君もこちょこちょした時みたいに笑顔でいてね!」
「こちょこちょされた時の話はしないで下さい!恥ずかしいです!」
笑顔でいてね、か。フナみたいに満開の笑顔でいるべきなのか。こちょこちょされた時の表情も少し気になった。どんな表情をしていたのだろう。
思えば、心の底から笑った事がシソにはあったのだろうか。
ベバムと一緒に空を飛んだ時、シソはどんな表情をしていたのだろうか。
「とりあえず、お腹が空きましたし朝ごはんを食べましょうか」
「お腹空いた……あっ、そうか!うん!そうだってね!食べよう食べよう!」
「……?とりあえず、下にいきましょう」
シソたちは、朝ごはんを食べることにした。
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