18. ごうかく!
「じゃあ、最後の質問に入らせてもらうぜ」
「はい、何でもどうぞ。最後の質問……妄想と回想を使ってしまったから、次は何にしましょうかね……」
「妄想と回想以外にまだあるのかよ……」
「クヴィットさん段々と言葉遣い悪くなってません?仮にも審査なんですから、緊張感、ギスギス感をもっと出しましょうよ」
「ギスギス感って、お前嬉しそうにツッコミしてたよな?」
「いやぁ、僕も最初は緊張してたんですけど、何かクヴィットさんが”ツッコミしてもいいぜぇ”みたいな雰囲気出してたんで、ツッコんじゃいました」
「どんな雰囲気だよ。まあ、別にいいんだけどさ」
別にいいなら、思う存分やらせてもらおうじゃないか。
「クヴィットさん、最初は怖い人かと思いましたが、案外優しいんですね。人は見かけによらないと聞いた事がありますが、第一印象で判断するのは良くないみたいですね」
シソはクヴィットを褒めるつもりで言ったのだが、クヴィットの受け止め方は違っていたようで……
「人は見かけによらない……え?俺そんなに怖い顔してる?」
クヴィットが聞いてくる。正直に答えたら、クヴィットが傷つくかもしれないとほんのちょびっとだけ思ったけど、変に誤魔化すのは、逆に傷つけてしまうかもしれないとも思った。こんな時は、素直に”はい、めっちゃ怖い顔してます”と言うべきだろう。嘘をついて相手を騙し、誤解させること程不幸はない。
「はい、めっちゃ怖い顔してます。初見の人が見たら失禁するレベルです」
「そこまで怖いかな!?俺の顔!?初見失禁レベルって相当だぜ!?」
クヴィットは酷く傷ついてしまったようだ。ブツブツと何かを唱え続けている。怖い。やっぱり言わない方が良かったかな?
「あの……最終質問は?」
「ああ、もういいよ。合格で」
「ふぇ?」
クヴィットの言葉にシソは唖然としてしまう。
「合格でいいって、どういうことですか!?まだ最後の質問を聞いてませんよ?」
「いや、こんな審査茶番だから。意味ないから。もう合格でいーよ。はい、さよなら」
これは重症だな。クヴィットは全てに絶望し、諦めたような表情をしている。元々顔のことを気にしていたのかもしれない。触れてはいけない部分に触れてしまったのかも。だけどこんな中途半端な終わり方は、シソも望んでいない。やるからには、しっかりと終わらせたい!
「急に投げ出さないで下さいよ!僕は中途半端な事が嫌いなんです!最後の質問をして下さい!最後まで審査をして下さい!」
シソの主張に対するクヴィットの反応は……
「”失禁する程怖い顔”の俺に最後の質問をしろと?”この世で最も醜い顔”である俺に審査を続けろと?」
めっちゃ根に持ってる。しかもどんどん悪化してる。
「はい。早く終わらせましょう。僕も回想と妄想で疲れたので」
「疲れさせたのはどっちだよ……ったく。やっぱりマチに来るヤツはロクなのがいねぇな」
ロクなのがいないから、こんな訳の分からない審査をやっているのでは?
「まともなヤツが俺ぐらいしかいないんだよなぁ。全く」
まともとか常識とか、ふつーとか、そんなのは、場所や状況によって全く違うこともある。周りの民度が低ければ、相対的にマシに見えるヤツだっていることだろう。
「まあ、いいや。メンタルも回復してきたし、最後の質問にいかせて貰うぜ」
ーーやっぱり落ち込んでたんだ……。
悪いことしちゃったな、とシソはほんのちょっぴり反省する。
「最後の質問は、”今現在におけるあなたの最終目標を教えてください”だそうだ」
「世界征服」
シソは即答する。
「恐ろしい事を平気で即答するな。え?世界征服?マジで言ってるの?」
「最終目標というのは、今現在成し遂げる力が無くとも、いずれ成し遂げたいことで合ってるんですよね?」
「あ、ああ。まあ、そうだが……いやぁ、でも世界征服って……。マチには頭のイカれた変人が多いが、そんな事言うヤツいなかったぜ。しかも子供で……お前やっぱりヤベェよ」
クヴィットは驚くと言うより、あまりに馬鹿げた非現実的な回答に、呆れているように見えた。
確かに、目標を聞かれて、”世界征服”と答えるヤツがいたら、誰しも馬鹿げている、頭がおかしいと思うだろう。もしも、シソとクヴィットが逆の立場だったとして、クヴィットが”将来の最終目標は、世界征服ですっ!”なんて言ったら、クヴィットと同じ事を思うに違いない。
シソがジイさんの家で読んだ本の中に、”誰でも目指せる!将来の為の世界征服入門”という本があった。これはいわゆる、本気で世界征服を推奨する本では無く、あくまでコメディとして、人々を笑わせる為に書かれた本だ。
だが、シソがこの本から受けたモノは違った。
最終的に”全て”を支配出来るほどの力を手に入れてみたい、これがシソのいう「世界征服」だった。
力を手に入れた後の事はどうでもいい。力を手に入れた結果と経験だけが欲しかった。その後はどうでもいいんだ。
まあ、実際世界征服が出来るとは思えないし、あくまで目標としているだけなんだけど、クヴィットの反応を見れたのは良かった。
「……世界征服っと」
クヴィットが紙にメモメモする。
「いやあ、恐れ慄いたよ。世界征服とはな。合格だよ、おめでとう。ほら、許可証だ」
クヴィットはそう言って立ち上がると、机の引き出しから何かを取り出して、シソに渡す。
「これは……」
クヴィットがくれたのは、ベバムが見せてくれたのと同じ、小さなカードだった。若干デザインが異なるものの、荒くれ者の町にしては、無駄にゴージャスなカードだった。
「マチの証明証だ。これがあれば、一応”人間扱い”してくれるからちょびっとだけ安心してマチを歩ける」
「本当に人間扱いしてくれないんですね……」
何がともあれ、審査に合格して、証明書が貰えたのだ。目的は達成出来た。
「そうだ、最後に聞きたいことがあるんですが」
「何だ?」
一番気になっている事を、シソはクヴィットに聞いてみる事にした。
「結局、この審査って何のためにやってるんですか?クヴィットさん審査は茶番だとか、意味ないとか言ってましたよね?」
審査は茶番で意味がなく、自治会の支配力も落ちているというなら、こんな審査をやる必要はないはずだ。
「まあ、ちょっと話すと長くなるんだがな。簡単に説明すると、マチの町がまだまともだった頃、ある事件が起きてな。その事件がきっかけで、自治会による審査が始まったらしいぜ」
「ほう、事件ですか。具体的には?」
「おいおい、俺は単なる審査員だぜ?ヤバそうな事を話す権限なんかねぇよ」
ヤバそう、つまりマチにとってはこの審査と、その事件は深く結びついて、あまり触れられたくない部分ということか。
「ふふっ。やっぱりクヴィットさんは顔に似合わず優しいですね」
ヤバイ事をヤバイ事だと教えてくれるだけで、全然ありがたい。クヴィットのような人間を置いておくのだから、マチにとって、審査はそこまで大事なモノでは無いのかもしれない。もしくは、本当に人材がいないのか。
「顔に似合わずは余計だよな!?普通に優しいだけでいいよね!?」
「ふふっ。面白いですね、クヴィットさん」
「面白くねぇよ!」
そんなやりとりを終えると、シソは審査会場から出る事にした。
「ありがとうございました、クヴィットさん」
「ああ、頑張れよ」
「また会えるといいですね」
「ああ……。いや、俺はあんまり……」
クヴィットは会いたくないようだ。
別れの挨拶を交わし、シソは建物を後にした。
***
誰もいなくなった審査会場で、クヴィットはようやく一息つくことが出来る。
「ふぁぁぁぁぁ。俺もそろそろ寝るかな」
クヴィットの家は、審査会場であるこの建物にあるわけでは無く、別の場所にあった。自治会の給料は正直良いとはいえない。マチの町では恵まれてる方ではあるが、これなら家を手伝った方が……
「芸人二人に、あのガキか。厄介なことにならなきゃいいが」
クヴィットは小さく呟いた。
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