17. 妄想タイム!

 マチの町に入る為の審査を受けているシソ。

 一つ目の質問は、「好きな女の子はいるか?」だった。幼馴染のオサナという少女を答えにする為、クヴィットに自身の回想を見せたのだが、あんまり良い回想では無かったようで、印象を悪くしてしまったようだ。

 まあ、まだ一問目だし、二問目から挽回すればいい。全然大丈夫と、ポジティブに考えるシソ。


「じゃあ、これで一つ目の質問は終わりだ。なんかすっげぇ疲れたが、二つ目の質問にいくぞ」


「はい!」


次の質問へと移る。


「マチの町の通りを一人で歩いてるあなたは、いきなり怪しい男たち(5人)に囲まれてしまいました。男たちのうち、3人は武器的なモノを所持しています。痛そうです。男の一人が要求を話します。あなたが持っている金を全て渡せば、殺さずに拉致するだけにしてくれるそうです。この場合、あなたはどう対応しますか?……だそうだ」


 クヴィットはペラペラと質問文を読み上げる。


「いや、何ですか!?そのシチュレーションは!?要求を呑まなければ、殺されて、要求を呑んでも拉致されてって……どっちにせよ、最悪じゃ無いですか!」


「そうとも限らないぜ。選択肢は要求を呑む、呑まないの2択では無いんだ。ちなみにだが、拉致された場合は、無理矢理紙にサインを書かされ、契約を結ばされて、男たちの命令に何でも従う義務を負わされる」


 ーーどっかで聞いたような話だな。どっかというか、ついさっき聞いたような話なんだけど。フナは命令がどんな内容かは教えてくれなかったけれど、どうせろくでもない命令だろう。


 それより、クヴィットの発言だ。

 選択肢は、要求を呑む呑まないの二択では無いと言っていた。つまり、仮に要求を呑まない選択肢を選んだとしても、男たちを全員ボコボコにして、逃走するまたは、逆に脅しで金をせしめるなどの行為も出来るのだ。どちらを選んだとしても、結末を変える事は可能ということか。

 シソは考える。

 自分なら果たしてどうするだろうか?

 ベバムやフナに頼らず、シソ一人で対応しないといけない。舞台は、荒くれ者の町、マチ。シソやフナの話を聞く限り、話し合いで解決出来るような連中では無い事は明らかだろう。

 ならば、どうするか?


「じゃあ、今度は”妄想”でお答えしたいと思います」


「妄想?さっきの回想とは違うのかよ?」


「全く違います。回想は自分の過去をほわほわほわほわーんと振り返ることです。妄想は完全なるフィクション。それをお見せします」


「違いがさっぱり分からないんだけど……」


「妄想いきます!」


 ***


 もやもやもやもやーん。妄想のお時間ですよぉ。もやもやもやもやーん。


 ーーもはや、ツッコむのも馬鹿らしいんだが、何なんだよ、その効果音は。

 ーー今のは妄想を始める時の効果音ですよ。ほら、よくあるじゃ無いですか。もくもくした雲みたいなのがほわほわ出てきて、妄想が始まるヤツ。

 ーーいや、わかんねぇよ!何だよそれ!?ってかこのセリフ2回目だよ!?

 ーー分からないならいいです。それより、妄想始まっちゃったんで、静かに見守りましょう。

 ーー腑に落ちないが、見守る事にするぜ。


 ナイフ使いシソロス。そう、この名を再び使う時が来たのだ!散々馬鹿にされたこの名が役立つ日が来るとは!

 まあ、実際にはただの妄想の話なのだけれども。


 ナイフ使いニイさんから教わったナイフ術を使って、華麗なナイフ捌きで相手を威嚇するんだ!


「やい、てめぇ聞いてんか!?あぁん!? 」


 マチの町を彷徨っていた流離の旅人、シソ。そんな彼に”惹かれた”のか、複数の男が、彼の前に立ちはだかる。シソのような高尚な存在とはかけ離れている汚らしい可哀な人間たちをゴミを見るような目で哀れんだ。


 ーー夢……じゃ無くて、妄想の中でも捻くれてるのは変わらないんだなぁ。

 ーーそんなに捻くれてますか?かっこいいじゃないですか。流離の旅人ナイフ使いシソロス。(妄想とはいえ)ほぼ実話ですよ。

 ーーいや、嘘だろ。まあ、別に嘘でもいいんだけどさ。妄想だし。

 ーーそうですよ。妄想なんだから多少オーバーしたり、誇張したっていいでしょう。所詮妄想なんですから。

 ーーお前さっきほぼ実話って言ってなかったっけ!?

 ーーほぼ実話ですよ。さあ、続きを見ましょう。


「てめぇなんだその目は!?あぁん!?」


まあ、多少挑発しても大丈夫だろうとシソは考えた。


「ふっ。僕がそんな脅しに動揺するとでも?このナイフで引き裂かれたくなかったら、とっとと……」


「生意気な野朗め!おらっ!」


「ぐへぇ!?」


 男はいきなり拳を振りかざし、シソの腹を殴ってくる。


「な、なぜ腹を……腹はダメですよ、腹は!腹パンはダメですよ!腹パンは!」


 思ったよりも重かった男のパンチにシソは苦しむ。


「何言ってやがる。俺たちは”マチ腹パン推進委員会”だぜ?腹パンの魅力をマチの町から全世界に広めていくのが、俺たちの目的なんだ」


「いや、何ですか!?腹パン推進委員会って!?暴力(しかも結構痛い腹パン)を世界に広めるって……頭おかしいですよ!?」


「頭がおかしいダァ……!?”ふつー”の人間がマチにいるはずがねぇだろ!?お前だってこんなところにいるんだから、”ふつー”じゃねぇんだ!黙って腹パンされろ!」


「その理論はおかしすぎません!?」


「それにここはマチの町!外の世界でいう”ふつー”が通じると思うな!だからお前は腹パンされて、殺されて、金を奪われればいいんだ!」


「腹パン推進委員会とか言って、結局はただの強盗殺人集団じゃ無いですか!?それに、あなたたち武器持ってますよね!?腹パン関係ないですよね!?」


「腹パンで人は殺せる!腹パン推進委員会、代表!ハラパ!行きます!おらぁぁぁぁ!!」


「ぐっへぇ!!??」


 ハラパの強烈な一撃腹パンが、シソを襲う。


「あ、ああ……腹パンで、人は死ぬ……」


 若き流離の旅人は、ハラパなる男によって、腹パンでその短い人生を終えた。


 ーーあれ?何か死んじゃったんだけど。

 ーー大丈夫です。むしろ”死んでから”が魅力なんです。

 ーーえ?死んでから?

 ーーはい。

 ーーまあ、別にいいんだけどさ。あと、腹パン推進委員会ってなんだよ。怖えよ。

 ーーあれは村にいた頃、人に腹パンをすることが生きがいなハラパンって名前の男の子がいたんです。所構わず色んな人に腹パンしまくってる子でした。彼をモデルにしました。

 ーーその子の方が恐ろしいんだが!?

 ーー…………じゃあ、妄想に戻りますね。


「ちなみに、腹パン推進委員会に所属してるのは、ハラパとチパンの二人だけな。俺たち三人はただの荒くれ者」


一人の男がそう話した。


「そんなことはどうでもいい、金だ金だ!」


「おい、ハラパ。こいつ金持ってねぇぞ?」


「マジかよ。利口そうな面してたから、てっきり金持ってると思ったんだけどなぁ」


「何か訳わかんねぇこと言ってたし、ただの頭のおかしいヤツだったんじゃねぇの?」


「マジかよ。ったく。無駄な労力使わせやがって」


「お前が”あっ。あそこに金持ってそうなヤツいるぞ”なんて言うから……」


「あぁん!?テメェ、俺のせいだってのか!?」


「別にそんな事言ってねぇよ。だが、こんな真っ昼間に人殺しちまったんだ。自治会の連中に何言われるか分からないぜ」


「しゃあねぇ。俺は逃げる!」


「あっ!待てよ!?おい!」


「え、逃げるパターン!?お、俺も逃げる!」


 その他二人「お、俺たちも!」「おう!」


 なんの収穫も無かった男たちは、そのままシソの死体を放置して、逃げ去ってしまった。


「フッ。バカな奴らめ」


 そう呟くとシソは静かに起き上がった。


 そう、シソは生きていた!生きていたのだ!!

 何故かって?シソは”不死身”だからだ!絶対に死なない男、それがシソ!流離の旅人!それがシソ!”不死身”の男、それがシソ!


 彼は打ち勝ったのだ!迫りくる脅威に!巨悪に!腹パンに!


 彼の旅は、まだまだ続く。


 おわり


 ***


「はい、終わりです」


「何なんだこれは」


クヴィットは訳がわからないと言った表情をしている。


「セリフも展開も中々だと、僕自身は評価してるんですけど」


「お前ってツッコミキャラかと思ったが、むしろ俺の方が……ってそんなことはどうでもいいんだ」


 どうでもいいなら、言わなければいいのに、とシソは心の中で呟く。


「それより、最後の”不死身”設定はどっから出てきたんだよ」


「え?ああ、これは昔ジイさんの家で読んだ本に、”不死身男の哀れで愚かな一生”というのがありまして、その本を参考にしました」


「ああ、そういうことか。俺はてっきり……うん……そっか。……その本は面白いのか?」


「いや、面白くはないです」


「ないのかよ」


ここは普通面白いという場面なのかもしれないが、面白くない本だって、頭には残る。


「はい、面白くないです。展開も設定も矛盾だらけで、オチも最悪。ゴミ小説でしたね。作者は筆を折った方が良いレベルです」


「お前の妄想も大概だけど思うけどね」


「僕のはあくまで”妄想”だからいいんです。読み手というか聞き手も、クヴィットさんだけですし。あの作品は、作者の名前が晒された状態で、全世界で出版されているんですよ?作者の精神が心配です」


「そんなに言われると、逆に読みたくなるんだけど。頭の中に残ってたんだから、そういう意味じゃ印象に残りやすい作品だったんじゃないの?」


 うん、正論だ。現にシソはあのゴミ小説を参考&宣伝しちゃった訳だし。


「それはその通りですね。僕は作者の戦略にハマってしまったようです。宣伝もしちゃったし、参考にしちゃったし、悔しすぎます。さっき言ったことは忘れて下さい」


「忘れてと言われてもなぁ」


忘れてと言われてポンっと忘れる事が出来るほど人間は万能では無い。


「そうだ、クヴィットさん。この町に本屋なんて無いですよね?」


「あ?あるよ」


「ですよね……あるわけ……え?あるんですか!?」


 こんな荒くれ者たちの町に本屋なんてあるはずが無いと思っていたのに。


「荒くれ者といったって、暴力しか頭にないようなヤツもいれば、静かで何考えてるか分からないヤツもいるし、そん中には、本好きだっているしな」


 荒くれ者に本を読むヤツなんていないと思っていたけど、簡単に一括りにするのは良くないのかもしれない。


「なるほど、それは楽しみが増えました。後でベバムさんに買ってもらおっと」


「自分で買うという選択肢は無いのかよ」


「僕は村から逃げてきたばかりなんですよ。お金なんて持ってるわけ無いじゃ無いですか」


両親にずっと養って貰っていたシソ。当然働いた事なんて無い。ベバムに頼りっきりになるのでは無く、自分でお金を稼がないといけない。


「マチの町には僕みたいな人間でも、働ける場所ってありますか?」


「へへっ。体さえ動けば、仕事なんていくらでもあるよ」


どんな仕事でも……ねぇ。


「そっか。お前、あの芸人と一緒に行動してたんだな。あの嬢ちゃんに、お前か。ははっ。芸人の兄ちゃんに同情しちまうぜ」


「いや、何でベバムさんに同情するんですか!?」


「いやいや。お前、嬢ちゃん、兄ちゃんと比較したら、一番”まとも”なのは、芸人の兄ちゃんだぜ。長らくこの仕事を続けてきて、色んなヤツを見てきたから、俺には分かるんだよ」


 こんな短時間で、人を判断出来るはずが無い。そう反論しようと思ったが、止めておいた。何を言ってもこの男には無駄だと思ったからだ。クヴィットのことを認めたわけではないが、今は審査中。立場的には、クヴィットの方が上で、シソは審査を受けさせて貰っている身だ。印象を悪くするわけにはいかない。


「お前なら、この町で十分やっていけるだろうよ」


クヴィットがそう話す。これはもう合格という事で良いのだろうか?


「なら、もう審査は終わりですね?お疲れ様でした」


「いやいや、まだあと一つ残ってるよ!質問!」


 シソが椅子から立ち上がろうとすると、クヴィットに止められてしまう。


「最後の質問……ですか」


「ああ、そうだ。これでラストだ」


 シソとクヴィットの”まとも”な”しんさ”!ついにラストへ!


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