15. まともな審査!

「そう期待しても、何も待っていないと思うぞ」


 シソの期待をぶち壊すようなセリフを平気で放つベバム。


「そ、そんなはっきり言わなくても……」


「そうだよベバム!ずっとオヌルラという檻に閉じ込められてたシソ君が、ようやく解放されたんだよ!何も知らない哀れな少年が最初に見る”世界”何だよ!期待しちゃうよ!」


 シソが少し落胆していると、フナが励ましてくれた。うん、檻に閉じ込められた無知で愚かな少年か。正しくその通りだ。


「とりあえず、一旦降りるぞ」


 ベバムたちは、マチの町の入り口付近へ降りる事にする。ふわりふわりと地上に近づいていき、着地!


「よいしょっと」


 久しぶりに大地を踏み締めるこの感覚。シソは、ようやく地上へ戻ってきたと安堵する一方、目の前に広がるマチの街並みに圧倒されていた。

 ふつーに綺麗な町なのだ。

 前方には、”マチの町へようこそ”と赤いペンキのようなモノで書かれた看板が、デカデカと設置されている。その横には小さな建物。


「っ……!?」


「?どうしたの?シソ君」


 フナが心配そうに声をかけてくれる。


「も、物凄く怖い視線が……!」


「怖い視線……?」


「あ、あの建物から……!」


 シソが指差す先は、小さな木造の建物。この恐ろしい視線は、あの建物の中からはっきりと感じた。


「ベバムさん……!」


 困った時は、ベバムに頼るしかない。


「そうか、まだ説明してなかったな」


 ***


 マチの町には正式な入り口が2つある。入り口には自治会の人間が常駐する小さな建物があり、そこで許可証を貰わなければ、町に入ることが出来ない。マチでは、新参者は特に住民から絡まれやすいのだが、自治会の許可を得て街に入った事を証明出来る許可証を所持していれば、最低限、人間として扱ってくれるらしい。


「いや怖いですよ!?何ですか、”最低限、人間として扱う”って!許可証を持ってない人は人間として扱われないんですか!?」


 すると、ベバムがむっとした表情で話す。


「どんなヤツでも、人間扱いしてくれるなんて良い町じゃ無いか。何が不満なんだ?」


 もし、自治会の許可を得ずに、町に侵入した場合、人間と見られないぐらい酷い目に遭わされるって事か。何度も言うけど、恐っ!マチの町、怖すぎる!まだ一歩も踏み入れてないのに、この恐怖!自治会といっても、見る限り警備は緩そうだし、簡単に侵入出来そうに見える。


「そうだ、シソ」


「どうしました?ベバムさん」


「俺とフナは町から特待客として招かれている身でな、既に許可証を貰っているんだ、ほら」


 ベバムが鞄から小さなカードを取り出す。荒くれ者の町にしてはゴージャスなデザインのカードだ。


「私も持ってるよ!」


 フナも鞄からベバムと全く同じカードを取り出して、シソに見せてくれる。


「これが許可証ですか。思ったより綺麗ですね」


「これは特待客専用の許可証だ」


 ベバムは自慢げに言うが、要するに、自治会から招かれた特待客でさえ、犯罪や争いに巻き込まれる可能性があるのか。何度も何度も言うけど怖いよ!マチの町!!


「許可証を手に入れるには、あそこの建物で審査を受けないといけない」


「え、許可証を貰うのに審査が必要なんですか?」


「安心しろ、質問されたことに答えるだけの簡単な審査だ。頭の良いシソなら、簡単に合格出来るはずだ」


 ベバムの話によれば、審査は一回につき一人までしか受けれないので、ベバムとフナも別々に審査を受けたという。これは、自治会が招いた特待客だろうが、村の襲撃を企む荒くれ者だろいが、皆必ず受けなければいけない審査らしい。

 大抵の人間は合格するらしいが、稀に落ちてしまう人もいるようで、その場合は指定された期間が経てば、再度審査を受ける事が出来るらしい。


「質問って……どんな内容なんですか?」


「俺の場合は、趣味とか自分の長所短所とか、なぜ今の職業を選んだのかとか質問されたな」


 趣味に長所短所、なぜ今の職を選んだか。うーん。何だろなぁ。


「私は、これだけは誰にも負けないと言える事、マチの町の印象について質問されて、最後に30秒間の自己PRをしたよ!」


 今度はフナが教えてくれた。


「じ、自己PRですか……」


「うん!私はこれまでの芸人生活で出来るようになったことについて話したよ!」


 シソとベバムの二人は世界中を回り、様々な経験をしているのだ。話せることは沢山あるはずだろう。

 対して、シソはどうだろうか?

 オヌルラという小さな村しか知らず、そんな小さな村の中で、周りを見下し、つまらない生活を送ってきたのだ。うまく話せるだろうか。心配になってきた……


 シソがおどおどと悩んでいると、ベバムがシソの頭を軽く撫でてくれる。


「安心しろ、シソなら出来る」


「ベバムさん……」


「ヤジヤジ君だとか、ナイフ使いシソロスだとか、キャラ付け多重男だとか、オヌルラの希望の星だとか、いくつもの異名を持つシソならきっと出来るはずだ」


「それ全然励ましになりませんよね!?特に最初と3つ目!」


 励ましにはならないけど、ベバムが”シソなら出来る”と言ってくれたことは素直に嬉しかった。


「まあ、そう悩む必要は無い。荒くれ者たちが受けるような試験だ。シソなら大丈夫だ」


 うーん。やっぱり心配だ……


 ***


 ベバムたちは外で見守っていてくれるらしい。

 シソは審査会場である木造の小さな家の前に立つ。


「……これってノックとかした方が良いんでしょうか?」


 やけにひっそりとしている。もっと騒騒しい場所だと思ったけど……

 あたりをよく見渡してみると、入り口付近には、シソとベバムとフナ以外、誰もいなかった。当然か、真夜中だし。審査員の人も、こんな遅くまでご苦労様です。交代制なのかな?


「……」


 シソはとりあえず、三回ほどノックをして、


「えっと……失礼します」


 ひんやりとしたドアノブに手をかけ、扉を開けた。


「うっ……!?」


 待ち受けていたのは、屈強な体をしたいかにも”怒らせたらヤバい”オーラを放ちまくっている強面の男だった。


 建物の中は、扉側に椅子が一つ。その反対側に、神妙な面持ちで机に向かっている男が一人。それだけだった。

 男の机にはいくつかの資料が積み上げられており、この机で仕事をしているようだ。


「どうした?座れよ」


「あ、はいっ!」


 シソは男に言われた通り、直ぐに椅子に座った。掌を膝の上に置き、しっかりとした姿勢をつくり、なるべく男の顔を見ないように、やや下に目線を置く。


「……」


 あ、汗が止まらない!ど、どうすればいいんだ?とりあえず、自分から何か声をかけた方が良いのだろうか?いや、でも相手の指示を待って、出された指示だけに従った方が良いのでは?勝手な行動をして、怒られてたら嫌だし。


「俺はなぁ、お前みたいなおどおどしたヤツが嫌いなんだよ」


「え?あ、はい。そうですか」


 ーーな、何言ってるんだ僕は!?

 自分の欠点を指摘され、不愉快だと言われているのに、謝りもせずあっさり認めて……!これじゃ反省もせず、改善する気も無いと思われてしまうじゃ無いか!


「何にビビってるか知らねぇがよぉ。別に審査に落ちたからって死ぬ訳じゃねぇんだ。こんなゴミみたいな茶番審査にビビってるようじゃ、これからの人生苦労するぜ?」


 ああ、人生について心配されてしまった。


「……すいません」


「謝る必要はねぇよ。見たところ、随分育ちの良さそうなガキじゃねぇか。数日前に見たヤツは、随分とワケアリのようだったが、お前は”まとも”そうに見える」


 ワケアリとは、フナのことだろうか、それともベバムか?まあ、あの二人に色々ありそうなのは、シソから見てもわかるのだけれども。


「まとも、ですか」


「ああ。まあ、”まとも”な人間は、こんな場所には来ないけどな!ガハハハッ!」


「あ、あははは……」


 反応に困る男の話に、シソは苦笑いで対応。


「まあ、そう緊張すんなよ。いくつかの質問に答えるだけの審査だからさ」


「分かりました」


 シソと男の”まとも”な”しんさ”が始まった。





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